00068_「民主」の時代を考える~民主主義再検証~(2)_20091120

民主主義再検証シリーズ連載2回目です。

今回は、民主主義信奉者にとっての不倶戴天の敵、官僚についてです。

官僚は、民主主義を重視する方々にとっては、忌み嫌われています。

曰く、
「官僚は、選挙で選ばれたわけではなく、ちょっといい大学出て、小賢しく勉強して運も幸いして小難しい試験を合格しただけだってのに、政治家を愚弄し、自分たちが好き勝手国家運営をしていやがる」
「だいたい、官僚の国会答弁って何なんだ。人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべて、屁理屈ばかり並べ立てやがって。そのエラそうなしたり顔が気に入らねえんだよ」
「そもそも、官僚支配が悪なのだ。政治主導にしないとおかしい。というより、官僚制度をぶっつぶしてしまえ。そんなものなくても日本は安泰だ。官僚がいなくなれば日本はもっとよくなるぞ」
-などなど。

ですが、翻って考えるに、「官僚による政治支配」はそんなに悪いことなのでしょうか。

そもそも、官僚が政治家をバカにするのは、政治家が圧倒的に勉強不足であるということが大きな原因です。政治家は選挙で選ばれますが、だからといって一般国民から投票を獲得したという事実自体、国家運営についての知識や経験や能力を保障するものではありません。

政治家の中には、元風俗ライターや元ヤンキーや漫才師やこれまで何をやっていたかよくわからないような雑多な人たちがいるわけですが、彼らや彼女たちが議員に当選したからといって、翌日から、突如、政治経済の知識が増えたり、政治意識が高まったりするわけではありません。

「人気だけが取り柄の、漢字すらまともに読めない者もいるような玉石混淆の素人集団」が、「官僚制度打破」のお題目だけでわめいたところで、「ほぼ全員東大卒で、圧倒的な情報と専門性を有している立法・行政のプロ集団」に歯向かって勝てるわけはありません。

「医者がエラそうだから気に食わない」といって医者を片っ端からなくしたところで医療業界がよくならないのと同様、自分たちが選んだ政治家の勉強不足・知識不足を棚に上げ「官僚がエラそうででしゃばってて、気に食わない」という理由だけで優秀な専門家集団をぶっつぶしてしまう、というのは余りに短絡的と言えます。

こういう愚行を実際にやってしまったのが、カンボジアのポルポト政権です。

クーデターによって成立したこの政権は、あまりよくわからない理由で(強いていえば、「自分のいうことにイチイチ反対しやがって、エラそうでウザい」という理由でしょうか)、高級官僚を皆殺しにして、既存の行政システムを破壊して回りました。

その結果国家機能は不可逆的に喪失し、カンボジアの経済社会は今も疲弊に喘いでいます。

そりゃそうでしょう。「一昨日まで田んぼを耕していて、昨日は銃をもたされた、まともに字も読めない連中」が、いきなり官僚の仕事を引き継ぐわけですからうまくいくわけはない。

実際、彼らがやったのは私財の没収、通貨の廃止、高等教育の廃止等であり、理念なき社会基盤の破壊です。

専門知識のない素人が政治を担う怖さがよくわかる話です。

私個人としては、現代の日本の政治・行政システムは非常に完成度が高いものであり、特に変えるべき必要を感じません。

無論、たまに官僚の中に心得違いをする連中が出てくるでしょうし、時代遅れで機能しない制度も出てくるでしょうが、言論の自由が保障されている限り、長期的には淘汰される話です。

「官僚=悪」と決めつけて、官僚システムという「高度なプログラム」全体を破壊するといった愚に走らず、官僚のもっている専門性・技術性を素直に評価した上で、「どうやったら、『バグ』がなくなるか」ということを考えた方が建設的だと思います。

そして、政治の役割は、世界的にみても優秀な官僚たちが行った政策の立案・実行にお墨付きを与えつつ、「ときどき不可避的に発生する、看過できないバグ」を例外管理として処理する、ということで必要かつ十分であると思うのです。 あまり評判の芳しくない民主主義再検証ですが、次回も続けたいと思います。

(つづく)

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.027、「ポリスマガジン」誌、2009年11月号(2009年10月20日発売)

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