00023_ビジネス・プロフェッショナルの仕事術(4)~企画する、考える~

「ビジネス・プロフェッショナルの仕事術」
と題する本連載シリーズは、これまで、仕事の基本中の基本、ホウ・レン・ソウと呼ばれる、報告・連絡・相談という基本スキルの解説をしてまいりました。

その続きとして、さらに、
「企画する、考える」
「段取りを組む、実施する」
「整理する、評価する」
「改善する、改革する」
「関係構築をする、交渉する」
といった、
世上「仕事」と呼ばれる各行動
において
「作法」と考えられている推奨指針
をお話してまいりたいと思います。

今回は、
「企画する、考える」
という仕事のお作法についてです。

「下手な考え休みに似たり」
という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、これは誤用であり、
「下手『の』考え休むに似たり」
というのが本来の諺のようです。

すなわち、前記諺は、一般的に誤解されている
「つまんない考えを巡らすぐらいなら休んでいた方がマシ」
という意味ではなく、
「囲碁や将棋が下手な癖に一人前に長考する癖のある者」
を指して
「下手な人(名案が浮かぶ筈のない人)がいくら考えても、時間を浪費するばかりでなんの効果もないぞ」
という揶揄が本当の意味だそうです。

この諺(本来の意味の方)は、
「企画する」
「考える」
「検討する」
といった仕事についても同じように当てはまります。

企画したり、考えたりする仕事は、定石を知らない者や経験のない者が、自己流で思考を巡らしても時間のムダにしかなりません。

上司から企画や検討の仕事を指示された場合、受命した部下には、
「自分の考えを巡らせること」
を求められているのではなく、上司の忠実なコピーとして、上司の思考を正確に模倣することが求められているのです。

すなわち、仕事で
「企画しろ」
「考えろ」
という指示があった場合、
「自分の拙い経験と貧弱な個性を発揮して、無駄に時間をつぶせ」
と捉えるのは重篤な誤りであり、この場合、自分のアタマを上司のアタマと入れ替え
「上司だったら、どう考えるか」
という思考を徹底し、
「上司の思考をなぞりながら、目の前の状況や課題に対して、想定される上司の思考を再現する」
ことが求められているのです。

学校では、教師からよく
「自分の個性を大事にしろ」
とか
「自分のアタマで考えろ」
とか教えられることがありますが、生き馬の目を抜くビジネス社会で、
「企画したり、検討したりする仕事」
を実践する上で、これほど有害な教えはありません。

話は変わりますが、藤子不二雄のマンガ
「パーマン」
に、コピーロボットというのが出てきます。

主人公(須羽ミツ夫)がパーマンとして活動する間、家族に気づかれないように身代わりに使うロボットで、普段は黒い鼻しか付いていないマネキンのような人形ですが、その鼻を押すことで押した人間や動物そっくりのコピーになり、記憶や能力が引き継がれる、ということになっています。

上司から、仕事として
「この企画を立てておいてくれ」
とか
「これを検討しておいてくれ」
という指示があった場合、その真の意味は、
「自分の個性を完全に抹消し、上司の“コピーロボット”になって、上司の記憶と能力を極力正確に承継し、上司の思考と対応を忠実に再現して、成果物としてまとめておいてくれ」
ということなのです。

「上司がどう考えるかをふまえず、自分の個性を発揮して、想像の翼を羽ばたかせ、自由に思考を巡らせる」
のは、まさしく、
「下手の考え休むに似たり」
と同義です。

このような我流の企画や検討を行っていると、
「勤務時間中に昼寝して夢をみているのと同じだ」
との厳しい評価を受け、二度と企画や検討の仕事を任されなくなります。

「個性的な考えや自由な発想が大事」
というのは、学校でしか通用しない与太話であり、ビジネス社会における
「個性的な考えや自由な発想」
等という代物は
「有害な妄想」
と同義です。

社会に出れば、個性をすべて抹消して、指揮命令を発する上位者の正確なコピーとして、上位者の記憶と能力を引き継ぎ、その思考の正確な再現ができるように務めることが大切であり、これが
「企画したり、検討したり、考えたりする」
という仕事の実体であり本質なのです。

(つづく)

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.042、「ポリスマガジン」誌、2011年2月号(2011年1月20日発売)

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