00003_離婚が頭によぎったら、まずは読んでおくべき「離婚にまつわる迷信・都市伝説」(2)~離婚すると、必ず慰藉料がもらえる?!~_20080520

よくスポーツ新聞や女性週刊誌などをみると、芸能人同士の離婚報道に関し、「○○と□□、離婚で慰藉料5億円」等といった見出しが掲げられることがあります。

こういう無責任な報道のせいか、離婚を検討する専業主婦の方々の中には、離婚すると、当然のように多額の慰藉料が転がり込んでくると考えられる方が少なからずいらっしゃるようです。

まず、前述の「離婚で慰藉料5億円」という報道は、「離婚給付の総額が5億円」という意味であり、「慰藉料が5億円」という意味ではありません。

離婚給付、すなわち離婚に際して夫が妻に対して支払うお金や財産は、①財産分与と②慰藉料の二つに分類されますが、離婚給付の総額が5億円とした場合、その内訳は、慰藉料が500ないし1000万円程度で、残額の4億9000万円ほどは財産分与、というのが一般的です。

すなわち、芸能人や実業家の奥さんが離婚に際して5億円もの金額をもらえたのは、財産と経済的余裕がある夫と結婚したことによるものであって、夫がひどい浮気したからというわけではないのです。

ちなみに、財産分与のルールについても、「離婚したら、もれなく、財産きっちり半分もらえる」ということが絶対的に確定しているものではありません。

実際、「被告(妻)が、具体的に、共有財産の取得に寄与したり、会社の経営に直接的、具体的に寄与し、特有財産の維持に協力した場面を認めるに足りる証拠はない」などという理由により、離婚した際、財産のうち、妻にはたった5%しか分与を認めなかった(残りの95%は夫が保持)、という裁判例もあります。

したがって、仮にご主人が相当な資産をお持ちであったとしても、「リッチな夫の財産の半分が転がり込むから、離婚したらたちまち大金持ちになれて、幸せな人生が送れる」という目論見が大きく外れる可能性もあり、安穏としていられません。

ましてや、離婚する相手が、リッチなセレブではなく、財産のない夫である場合、ゼロの財産をどう分割してもゼロにしかならず、結局、夫が浮気をしようが、暴力を振るおうが、「財産分与はゼロで、もらえるのは慰藉料だけ」ということになります。

で、その慰藉料ですが、簡単にもらえると思ったら、これまた大間違いで、実に様々なハードルがあります。          

まず、配偶者の浮気や暴力を訴え出ても、現実には立証が困難であり、「疑わしい」「怪しい」だけでは泣き寝入りの結果に終わります。

仮に、立証に成功したとしても、1億円とか2億円の賠償額がポンポン認められるほど日本における損害賠償の裁判実務は気前がいいわけではなく、苦労に苦労を重ねてようやく数百万円程度の慰藉料を認めてもらえるのがやっと、といったところです。

そして、苦労して慰藉料請求を認める判決を取ったとしても、相手に財産がなければ現実にお金を手にすることはできず、結局弁護士費用分損する、ということだってあるのです。

実際、離婚を相談される女性の中で、「ウチの夫の女癖は極度に悪く、今まで30回以上浮気された。アメリカの有名プロゴルファーも愛人を12人作って、その結果、離婚して600億円ものお金を払わされた、と聞きました。だから、かなりの数浮気をされた私も、600億円といわないまでも、2、3億円くらいもらえる権利はあるはずだ!」と鼻息荒く、ご主張なさる方もいます。

ただ、話をお伺いすると、件のご主人の浮気は、羽振りがよかったころの話で、今は、会社が傾いて、浮気する暇すらなく、うまく会社を整理できるかどうか、という状況のようです。

私が、「お気持ちはわかりますが、そんなお金、今のご主人にはありません。ないところからは取れませんよ」とお答えすると、その女性は、「そんな馬鹿げた話、あるはずはない。この前テレビでやってたワイドショーで、『ひどい扱いを受けた女性は、離婚の際、きっちりお金をもらえる。だから、泣き寝入りしないでください。最後は、正義が勝ちます』、とコメンテーターがいっていた。先生は、法律を知らないんですか!」とおっしゃいます。

私が、「それは、ご主人にお金がある場合でしょ。ご主人が尾羽打ち枯らして、手元不如意だと、どんなにひどい浮気をされても、お金なんて出てきませんよ」といいますと、最後には、「そんなわけないでしょ! 税金とか、社会保険とかって形で、離婚の被害者には、きっちり国が補償してくれるはずです。そのために、税金払ってきたんだから。先生、もっと真面目に調べてください!」とおっしゃる始末です。

言葉は通じるものの、話が全く通じないので、かなり難渋し、「財産のない夫からどんなにひどい仕打ちを受けても、一銭も取れない」、という単純な事実をご認識いただくまでに、相当な時間を空費する結果となりました。

以上のとおり、典型的なサラリーマン夫婦の場合、夫に暴力を振るわれようが、ひどい浮気をされようが、余所で子供を作られようが、離婚によって自動的に大金が転がり込むわけではないのです。むしろ、前回申し上げたように、世帯が分離して余計な支出が生じることも重なり、妻は、離婚によって経済的にますます不幸になるだけ、ということになります。

なお、「夫が年金をもらう年齢になれば、離婚によって、夫の年金の半分を分割してもらえる」というのも不正確な内容を含む、都市伝説です。年金分割の対象は、結婚期間中に納めた保険料に対応する厚生年金であり、基礎年金部分は分割の対象になりませんし、しかも支給開始時は、離婚時ではなく妻が将来年金を受給するときからです。

最後に、離婚した夫婦に未成年の子供がいる場合、制度上、子供を手放した方が、子供を引き取った方に対して、養育費を支払う義務が存在するのですが、「ない袖は振れない」の諺どおり、具体的な養育費の額は、相手方の経済状況に大きく依存します。そして、裁判所で認めてくれる養育費の額は、一般的にいってびっくりするくらい低い額です。

女性を差別する意志はありませんが、現在の法律の仕組みだけを客観的に観察する限り、財産のない夫婦に関していえば、夫に好き勝手されたことによる妻の被害を回復する仕組みはなく、むしろ、「離婚によって被害者たる妻側がますますミゼラブルになる社会的状況が厳然と存在する」ということしかいえません。

引き続き、離婚にまつわるいくつかの都市伝説を検証していきたいと思います。

(つづく)

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.009、「ポリスマガジン」誌、2008年5月号(2008年5月20日発売)

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