「了解もらってます」の構造
たとえば、ビジネスの現場で、仲介者が
「相手も乗り気です!」
と報告してくることがあります。
あるいは、電話の向こうから、
「先方からは、もう、ご了解いただいておりますので。あとは、あなたさえよろしければ」
明るく、確信に満ちた声で、いわれるとき。
このたぐいの言葉を耳にした瞬間、あなたは
「本当か」
と問い返す間もなく、頭がその話を既成事実として受け取り、
「ああ、そうですか」
と答えてしまいそうになりませんか。
ところが、電話を切ったあと、先方に直接確認を入れてみると、こういう返事が返ってくることがあります。
「えっ。なんの話ですか。私、『いいよ』と申し上げた覚えはないのですけれど」
「了解」の中身は3つ――事実、思い込み、でっち上げ
「先方から了解をもらっています」
という言葉の裏には、次のどれかが隠れています。
1つ目は、先方が実際に
「いいですよ」
と明言していた場合。
2つ目は、
「まあ、考えておきますね」
程度の返事だったにもかかわらず、伝える側の頭の中で
「了解」
に書き換えられた場合。
3つ目は、そもそも先方ときちんと話ができていないのに
「『先方から了解をもらった』と言えば、話は通るだろう」
と、伝える側が見切り発車している場合。
実際のところ、多いのは2つ目と3つ目で、1つ目は少数派です。
ところが、聞いた側からすると、この3つの区別がつきません。
どの場合でも、伝えてきた人の声には同じ明るさと同じ確信がこもっているからです。
確かめない遠慮は、つけ込まれる
ここで多くの人がためらいます。
「わざわざ先方に確認を入れるのは、相手を疑っているようで失礼ではないか」
と。
この遠慮こそが、問題です。
伝言の途中でこっそり話を盛る人間にとって、いちいち確かめてこない相手ほど扱いやすい客はいません。
「他人の言葉を鵜呑みにする」
というのは、ビジネスにおいては、リスクを伴う行為なのです。
確認するとは、疑うことではありません。
「あなたが伝えてくださった話を、齟齬なく受け取りたい」
という、最も丁寧な作法です。
実際、
「念のため、先方にも私からひと言入れさせていただいてよろしいですか」
このひと言を添えたとき、相手の顔色がやわらぐか曇るか、どちらかに分かれます。
その反応が、こちらにとって最も信頼できる情報です。
「直(チョク)」で確認するまでは、すべて「幻(まぼろし)」
私が以前経験した案件でも、似たようなことがありました。
ある仲介者から
「相手方の了解を得られたので、具体的な相談を進めてほしい」
と打診がありました。
普通なら、そこで動き出すところですが、私は性悪説の権化のような弁護士ですので、念のため、相手方ご本人に直接確認を入れました。
すると、どうでしょう。
ご本人曰く、
「え? 許諾を与えた認識なんて、これっぽっちもありませんよ」
とのこと。
これが現実です。
仲介者が言っている
「OKもらいました」
は、
「挨拶したら、無視されなかった」
程度の意味しかない場合が多々あるのです。
「了解もらってます」と聞いたときにやること
このセリフを耳にしたとき、やることは3つです。
まず、
「ありがとうございます」
と普通に相づちを返します。
ここで、必要以上に同調する必要はありません。
次に、
「念のため、私からも先方にひと言入れますね」
とさらりと添えます。
そして最後に、直接、先方の
「了解」
を確かめます。
この3つ目を面倒くさがらずにできる人ほど、リスクを避けられます。
さらに言うなら、
「念のため、先方にもご挨拶を」
と品よく添えながら、確認を相手に気取られないほど自然に組み込める人は、丁寧さの裏で、最もしたたかに確認をしています。
丁寧さとしたたかさは矛盾しません。
愛想よく確かめない人が損を引き受け、にこやかに確かめる人が損を避ける。
長いビジネスの現場で生き残っている人は、たいてい、この2つを持っています。
著:畑中鐵丸