地域の商店主や企業が集まって作った任意団体や協議会というものが、全国にはたくさんあります。
観光振興、商店街の活性化、地域イベントの運営・・・。
最初は熱意があって立ち上げたはずなのに、数年も経つと、同じ顔ぶれの役員だけが疲弊し続け、会員の大多数はその恩恵だけを享受している、という状況に陥りがちです。
「忙しくて役員は無理だけど、会がなくなると困る」
「もっとイベントをやってほしい」。
要望だけは一丁前、しかし汗はかかない。
こういう人たちのことを、経済学の用語で
「フリーライダー(ただ乗り)」
と言います。
今回は、そんな組織の会長さんが直面しがちな、出口のない迷路について考えてみたいと思います。
「ボランティア」と「奴隷」は、違う
会長や役員というのは、基本的にボランティアです。
給料はもらっていない。
やめる自由もある。
「誰かがやらなければいけない」
という義務は、法律のどこにも書いていません。
にもかかわらず、なぜか多くの人が
「自分が辞めたら迷惑をかける」
という呪縛に縛られて、何期も何期も続投してしまう。
これは美徳のように見えて、実は組織をじわじわと腐らせる行為でもあります。
なぜか。
誰かが犠牲になって穴を埋め続ける限り、フリーライダーたちは永遠に
「ただ乗り」
をやめないからです。
痛みがなければ、人は変わりません。
これは人間の本質であり、どんなに善意の組織であっても例外はありません。
「解散」という言葉を、武器として使う
では、どうすればいいか。
答えは、拍子抜けするほどシンプルです。
総会の招集通知に、次のように書くだけです。
「現役員は次期の続投を考えておりません。次期役員の候補が規定数に達しない場合は、本会をこれまでの活動成果とともに解散することも提案させていただきます」
これを読んだとき、
「ずいぶん物騒な」
と感じる方もいるかもしれません。
でもよく考えてみてください。
これは脅しでも、やけっぱちでもありません。
「役員がいない組織は、物理的に存続できない」
という、ただの事実の確認です。
嘘をついていないし、誇張もしていない。
あるのは、現実だけです。
総会当日に起きる「3つのパターン」
この通知を出すと、総会当日は必ず、次の3つのどれかになるでしょう。
パターン1 誰かが手を挙げる
「解散されたら困る!」
と、渋々でも手を挙げる人が出てきます。
これはベストシナリオ。
笑顔でバトンを渡して、会長は晴れて自由の身です。
パターン2 誰も手を挙げない
この場合、粛々と
「解散」
の審議に入ります。
「担い手が集められないということは、この会へのニーズがそこまでではなかった、ということです」
と、冷静に宣言すればいいのです。
パターン3 「会長、もう一期頑張ってよ」と言い出す人が現れる
これが最もよくあるパターンです。
自分はやらないくせに、他人には続けろという。
この
「無責任な声」
に対しては、きっぱりこう言いましょう。
「私が辞めると申し上げている以上、続投はありません。代わりがいないなら、解散です」
感情的になる必要はまったくありません。
ただ、静かに、事実を述べるだけでいいのです。
「解散」は、失敗ではない
もし本当に解散になったとして、それは
「負け」
なのでしょうか。
私はそう思いません。
役員のなり手すら出てこない組織というのは、すでに
「心臓は動いているけれど、脳は止まっている」
ような状態です。
誰かの自己犠牲で無理やり延命するより、残った財産をきちんと会員に返し、きれいに幕を引くほうが、よほど誠実で、清潔な終わり方です。
組織には、
「産まれ、育ち、老いて、終わる」
という自然なサイクルがあります。
それを人為的に引き延ばすことが、必ずしも正解とは限りません。
「解散」
とは、敗北ではなく、組織への最後の愛情かもしれません。
結局、人は「痛み」でしか動かない
これは冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが、人間というのは基本的に、自分に直接関係のない問題には動きません。
「誰かがやってくれるだろう」
という甘えは、意地悪な人だけがするわけじゃない。
善良な人でも、構造上そうなってしまうのです。
だからこそ、リーダーの最後の仕事は
「もっと頑張ること」
ではなく、
「このままでは終わる、という現実を、全員に等しく突きつけること」
なのかもしれません。
フリーライダーたちに向かって、
「あなたがやるか、組織が終わるか」。
この二択をテーブルに乗せる。
それこそが、何年もの説得や懇願よりも、ずっと誠実で、ずっと効果的な対話の始まりになるのです。
組織の話をしてきましたが、これは会社でも、家族でも、友人関係でも、構造はまったく同じです。
誰かの犠牲の上に成り立っている関係は、遅かれ早かれ必ず歪みます。
「終わらせる勇気」
を持つことが、時に最大の優しさになる――そんな、ちょっと意地悪に見えて、実はいちばん優しい知恵を、頭の片隅に置いておいていただけたら嬉しいです。
著:畑中鐵丸