00283_「即答する人」は信頼されない_あなたは「持ち帰ります」と言えますか?

少し意地悪な質問から始めます。

あなたの周りに、
「この人、仕事できるな」
と思う人はいますか?

その人、もしかして
「質問したらすぐ答えてくれる人」
ではないですか?

実はその直感、かなり危ういところに立っています。

「速さ」は、能力の証明ではありません

「すぐ答えてくれる人」
は気持ちがいいですよね。

待たされない。

モタモタしない。

頼りがいがある感じがする。

でも
「速く答えられる」
ということは、裏を返せば
「深く考えずに答えている」可能性
があります。

本当に難しい問題ほど、即答できるはずがありません。

それでも即答する人は、問題の深さに気づいていないか、権限もないのに勝手に判断しているか、そのどちらかです。

「頼りになる」

「リスク管理ができていない」
は、見た目がそっくりです。

「良かれと思って」が、最も始末に負えない

経営やIT問題を解決するコンサルティング会社で、こんなことがありました。

クライアントに詰め寄られた若手社員が、その場でこう答えました。

「おっしゃる通りです。無償で対応します」
と。

後日発覚した事実は2つ。

無償対応のコストは数百万円。

そして法的には、その会社に責任はなかった。

上司に問い詰められた社員は、悪びれる様子もなくこう言いました。

「お客様を待たせてはいけないと思って、スピーディーに対応しました」
と。

ここが重要です。

悪意のある行動は、追いかけられます。

動機があるから、発見できます。

でも
「良かれと思ってやりました」
は、本人に反省がないぶん、同じことが何度でも繰り返されます。

そして発覚したときには、手遅れです。

組織にとって最も怖い人間は、悪人ではありません。

「悪気のない暴走をする、善意の人間」
です。

これは会社だけの話でもありません。

家庭でも、友人関係でも、
「良かれと思って」
が静かに関係を壊していくことは、珍しくないはずです。

「聞く」と「答える」は、まったく別の仕事です

病院を想像してみてください。

「熱があって、お腹も痛いんです」
という患者の訴えを聞いて状況を整理するのが
「問診」
です。

これは、看護師でも受付スタッフでもできます。

でも
「では、この薬を出しましょう」
という判断は、医師にしかできません。

研修中の学生が
「私の直感で薬を出します」
とやったら、患者が死にかねません。

それは
「気の利く対応」
ではなく、
「資格も権限もない人間の暴走」
です。

コンサルティングや専門サービスの仕事も、構造はまったく同じです。

「聞くこと」
は誰でもできます。

むしろ現場の担当者が、愛想よく丁寧に話を引き出すべきです。

しかし
「答えること」
は別次元の仕事です。

専門的な知識、過去の事例、会社としての経営判断、コストの計算――そのすべてを踏まえて初めて、
「答え」
は出せます。

それを、(クライアントに詰め寄られたからといって、あるいは気を利かせて)現場の若手がその場で答えていい話ではありません。

学校が教えてくれなかったこと

「自分の個性を活かして柔軟に対応しました」

この言葉、学校では美談です。

主体性があって、自分で考えている。

先生にほめられそうな言葉です。

しかし、社会に出た瞬間、この言葉は文脈が変わります。

あなたがコンサルタントにお金を払うとき、何に対して払っていますか?

その担当者個人の
「未熟な個性」
ではなく、
「その会社の専門性と信頼」
に払っているはずです。

A担当者に聞いたら
「タダでやります」、
B担当者に聞いたら
「100万かります」。

そんな会社を、誰が信頼するでしょうか。

学校では
「個性を発揮すること」
がゴールでした。

仕事では、
「個性を発揮していいタイミング」
を知っていることがスタートラインです。

順番を間違えた個性は、ただの暴走です。

「持ち帰ります」と言える人が、本物です

では現場の担当者はどうすればいいのでしょうか。

答えはシンプルです。

「聞く」
だけでいいのです。

状況を丁寧に、誠実に、全力で引き出す。

ここでは個性を存分に発揮していいです。

むしろすべきです。

そして最後にこう言います。

「お話はしっかり伺いました。いったん持ち帰り、責任者と検討した上で、正式にご回答いたします」

これを、涼しい顔で言える人が本物です。

即答してはいけないことを知っているのです。

「気が利く人」

「仕事ができる人」
は、別物です。

そしてもう1つ。
「悪い人」
より
「善意の暴走をする人」
のほうが、組織も人間関係も静かに壊していきます。

あなたの周りの
「頼りになる人」、
少し違う目で見てみると、意外な景色が広がるかもしれません。

著:畑中鐵丸