繁忙期に限って、なぜか大物から連絡が来るものです。
ある士業事務所に、中堅精密機器メーカーの金田社長(仮名)から問い合わせが入りました。
取引先との契約トラブルの対応依頼です。
ところが事務所はすでに既存案件で手一杯。
所長は悩みました。
「丁重にお断りするとして・・・この社長、将来的に大きな取引先になるかもしれない。ただ断るだけでいいのか?」
この悩み、じつは多くのビジネスパーソンが共有しているものです。
そして多くの人が、同じ二択で迷います。
「引き受けるか、断るか」。
でも、本当に優秀な人は、その二択の外に答えを持っています。
「忙しいから断る」は、二流のやり方です
まず、正直に言いましょう。
キャパオーバーの状態で仕事を受けると、品質は必ず落ちます。
それはプロとして失格です。
だから原則は、きっぱり断るべき。
これは正しい。
問題は、
「断り方」
です。
「申し訳ございませんが、現在手一杯でして・・・」
これは確かに誠実かもしれませんが、もったいない。
なぜなら、繁忙期の
「断り」
こそ、最大のブランディングチャンスだからです。
「予約でいっぱいです」
という店と、
「いつでも空いています」
という店、どちらに行ってみたくなりますか?
忙しいという事実は、最高の実績証明です。
だから断るときも、堂々と、事務的に伝えればいい。
「申し訳なさそうに」
断る必要は、まったくありません。
相手が食い下がってきたら、「毒見」させてあげる
ここからが、したたかな人間の真骨頂です。
断ったあとに先方が
「どうしてもお願いしたい」
と食い下がってきたとき、あるいはこちらが
「この人は将来的に大事な関係になる」
と直感したとき。そのときは、
「プランB」
を発動します。
次のように提案するのです。
「案件として引き受けることはできません。ただ、1時間だけ『相談』という形なら、お時間をとれます」
これは単なる妥協ではありません。
高度な計算です。
この
「相談」
の目的は、問題を解決することではありません。
「自分の実力を見せること」
です。
要するに、
「今回あなたの案件を最後まで担当することは難しい。でも1時間だけ、私の考え方と切れ味をお見せしましょう。あなたの問題のどこが急所で、どう解くべきか、それくらいはお伝えできますよ」
このようなスタンスです。
満席のレストランが「試食」を出すような話
イメージしてみてください。
予約でいっぱいの人気レストランに電話したとします。
「申し訳ありません、今月は満席でして」
と言われた。
ところが
「それでもどうしても」
と粘ると、シェフが出てきてこう言ったとしましょう。
「お席はご用意できませんが、少しだけ厨房横の別室でシェフのスペシャリテを味見していただけますか」。
そこで出てきた一口が、これまで食べたことのない絶品だったとしたら?
帰り際には必ず、
「次はいつ予約できますか」
と聞くはずです。
ビジネスも同じです。
「仕事は受けられないが、実力は見せる」。
受任できないときこそ、最も印象に残る自己紹介ができる瞬間なのです。
「断り」を「次回予約」に変える人が、一流です
一流と二流の差は、能力よりも
「断り方」
に出ます。
二流は、断って終わります。
一流は、断りながら次の約束を取り付けます。
キャパを守ることはプロの義務です。
でも、その
「守り方」
の中に、したたかな
「攻め」
を忍ばせておく。
これが、長く生き残るビジネスパーソンの作法です。
「今はできません」
は、正直な言葉です。
しかし、
「今はできませんが、こういう形なら」
と続けられる人は、断った相手をファンに変えられます。
お断りの一通のメール、あるいは電話の一言。
それを
「種まき」
に変えられるかどうか。
そこに、センスの差が出ます。
忙しいときほど、丁寧に、そしてしたたかに。
それが、本物のプロの流儀です。
著:畑中鐵丸