00201_現代のBtoB営業3_20150820

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
は、最終項目の
「営業」
というお仕事のお話に入っております。

前回より、B toBあるいはB2Bと呼ばれる営業領域、すなわち、法人向け営業や企業間取引営業(Business to Business)の現代型仕事の基本を解説しておりますが、今回もこの話を続けていきます。

(10)現代のB to B営業その4・意味もなく流通経路に居すわっていると「中抜き」される

問屋(卸売販売業)もB to B流通業の代表選手のような業界ですが、この業界においても再編合理化の大きな嵐が今後吹き荒れることが予想される業界です。

「きちんとした役割や付加価値を提供するわけでもなく、意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋業態」
などは、突然淘汰される危険性が高いと思われます。

「そうは問屋が卸さない」
という諺があります。

江戸時代の服飾流通業界においては、呉服問屋がメーカー(呉服職人)から商品を一手に集め、委託販売形式で小売業者に卸しており、卸売価格の決定権を握ることを通じて、流通支配を行っていました。

したがって、新規参入を考える者が問屋に断りなく店舗を構えようとしても、商品を卸してくれません(現在では「ボイコット行為」として独禁法違反に問われますが)。

このことから、
「相手のある話に関しては、相手がどう考えるかによって変わるので、全てあなたの思うとおりには行かない」
ということを表すものとして、
「そうは問屋が卸さない」
という諺が出来上がったのです。

しかしながら、現在では、小売業者へさらに進んで、消費者に価格決定力がシフトしております。

流通業においては、
「消費者に安くて品質の良いものを、合理的経路で、迅速に届ける」
ということが唯一かつ絶対の正義となっております。

具体的には、小売業者をネットワーク化し、これをコントロールするバイヤーと呼ばれる者が、
「消費者に安くて品質の良いものを迅速に届ける」
という正義を旗印に、卸業者(問屋)、さらにはメーカーにまで、流通の合理化を要求するようになってきています。

その結果、
「意味もなく流通経路に居座り口銭をはじいているだけの問屋」
はことごとく排除されるようになってきているのです。

今後は、ネット取引の拡大とともに、流通業がますますシビアに整理合理化されていくことになります。

したがって、
「何の特徴もなく、単に特定のメーカーと取引がある、あるいは特定の小売業者の口座を有しているだけで、商品ないし伝票を右から左に流しているだけ」
という類の流通業はある日突然姿を消す可能性が高いといえます。

むしろ、小売店舗向けに高度なコンサルティングを行ったり、コモディティ化していない商品や、付加価値の高い商品を発見して独占的に流通するなどして、自社の価値やコアコンピタンス(絶対的差別化要因)を増強していくのか、あるいは、いっそのこと、徹底したコストダウンによって、小売とメーカーの双方の奴隷となって、
「早く、安く、効率的にモノを届ける」
だけのシンプルな機能に徹するか、といった方向性を顕著に出していくことが、B to B流通業の生き残りの選択肢となると考えられます。

(11)営業不振企業が一発逆転を狙って大失敗するケース

2015年現在、
「デフレ脱却のため、異次元ともいえるレベルで金融の量的緩和(通貨供給量の増加)で、経済が再び成長する」
という社会実験(アベノミクス)が行われています。

しかしながら、この政策によって
「高度経済成長時代のような継続する右肩上がりが再来する」
という事態に至ることは、およそ想定困難です。

確かに、アベノミクスにより若干景況感が改善し、株価も上昇しましたが、東証全体のPER(Price Earnings Ratioの略称。株価収益率。バブル期は60倍となっていた)は17倍程度というフツーの水準になったに過ぎず、相変わらず、利用価値が高い一部不動産を除き不動産価格は低迷したままです。

フェラーリやベントレーが飛ぶように売れたり、ゴルフ会員権やリゾート会員権が高騰したり、といった話もあまり聞かれません。

バブル経済崩壊後、
「モノ余り、 低成長時代」
を迎えて成熟した日本の経済社会においては、 すでに、監督官庁の保護育成も、業界同士の横のつながりも、今までの大量消費(販売)を前提とした大量生産もまったく機能しなくなっています。

金融緩和云々は別にして、産業社会は、
「品質と価格に基づく、シビアな能率競争」
を前提に、縮小しつつあるパイを苛烈に奪い合う競争社会に突入したのです。

このように、環境がシビアなものに変化する中、営業不振に仰ぐ企業が増えてきています。

そうした営業不振にあえぐ企業において出てくる話が、
「起死回生の一発逆転」
という施策です。

しかし、企業において、起死回生の一発逆転の秘策が奏功した例はほとんどなく、むしろ、無駄なことをせずひたすら競争に耐えていれば、残存者利益を得るか、身近で地味な分野に業態転換して、しぶとく生き残れていた可能性があったにもかかわらず、いたずらに死期を早める結果に終わる例ばかりです。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.096、「ポリスマガジン」誌、2015年8月号(2015年7月20日発売)