「金を払っているのだから、俺の言う通りに動け」。
オーナー経営者が放つこの空気感に対し、外部の専門家はどう対峙すべきでしょうか?
媚びへつらうのか、それとも毅然と対峙するのか。
本記事では、クライアント内部の
「お家騒動」
に巻き込まれたコンサルタントチームを題材に、内紛時の身の処し方と、礼節を欠くオーナーに対して突きつける
「誇り」
という名の条件提示、そして関係修復時に提示すべき
「再契約の流儀(ペナルティ)」
について解説します。
<事例/質問>
先生、クライアント内部の
「泥沼」
に巻き込まれそうです。
ご指南ください。
当社(コンサルティング会社)は現在、全国展開する老舗高級旅館チェーンおくゆかしグループ(仮称)のブランド再生プロジェクトに入っています。
もともとは、同グループの絶対権力者である剛腕のオーナー社長から
「古臭い体質を変えてくれ」
と乞われて参画した案件です。
しかし、現場のオペレーションを改善するためには実務部隊の協力が不可欠であるため、我々は実務トップである総支配人(番頭)を支援する形でプロジェクトを進めてきました。
ところが最近、この総支配人の言動が怪しいのです。
「社長は現場をわかっていない」
「あの人の指示は無視していい」
などと、公然とオーナー軽視の発言を繰り返し、あろうことか我々を、彼自身の
「社長への対抗勢力(クーデター派閥)」
の駒として利用しようとする動きが見え隠れします。
我々は、あくまでオーナー(=会社そのもの)のために雇われたのであって、社内抗争の片棒を担ぐつもりはありません。
しかし、総支配人を切って、オーナー社長の直轄に入ろうにも、社長は気難しく、外部の業者に対して常に
「マウンティング(優位性の誇示)」
をしてくる人物です。
このような
「獅子身中の虫」
と
「マウンティングする権力者」
の板挟みになった際、プロフェッショナルとして、どのようなスタンスで交渉に臨むべきでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
それは厄介な状況ですね。
しかし、第三者として客観的に見れば、答えはシンプルです。
御社のクライアント(オーナー)への忠実義務を尽くしつつ、プロとしての
「礼節」
という踏み絵を突きつけること。
これに尽きます。
プロフェッショナルとして、絶対に譲ってはいけない一線について解説しましょう。
1 「獅子身中の虫」には与しない
まず、総支配人への対応です。
もし彼が、オーナーの意向に反し、権力闘争に外部専門家(御社)を利用しようとしているのであれば、それに加担することはプロフェッショナルの倫理(忠実義務)に反します。
御社のクライアントはあくまで
「会社(オーナー)」
であり、一介の使用人ではありません。
「我々は、オーナーの利益に反する行為には加担できない」
と明確に宣言し、彼との不適切な連携を絶ってください。
2 プロフェッショナルは「安物の奴隷」ではない
次に、オーナー社長への対応です。
ここが勝負どころです。
御社のチームを見てください。
高度な専門性を持った人材が集まっているはずです。
いずれも、札束で頬を叩けば動くような安っぽい人材ではありません。
プロを動かしているのは、
「カネ」
だけではなく、
「信頼」
と
「誇り」
です。
ですから、仲介者を通じて、あるいは直接、オーナーにこう伝えましょう。
「我々は、いつでも社長の直轄に入り、微力を尽くす用意がある。 ただし、それには『前提環境』が必要だ。 我々は、クライアントから礼節を以て迎えられることを誇りとして稼働している。 もし、社長が『誇りのない、安物の奴隷(イエスマン)』を求めているのであれば、お互いにとって時間の無駄である」
3 マウンティングへの「対応」と「条件変更」
このメッセージに対するオーナーの反応で、今後の身の振り方を決めます。
• ケースA:常識的に接してくる場合
「これまでの無礼を許せ。力を貸してくれ」と礼節を示してくるなら、喜んで馳せ参じ、全力で支える。
• ケースB:いつものマウンティングを始める場合
「金払ってんだから黙ってやれ」などと、プロへのリスペクトを欠く態度を取るなら、即座にサービスを停止(辞任)すべき。
信頼関係のない状態で、良い仕事はできません。
もし、サービス停止後に、
「やっぱり君たちが必要だ。戻ってきてくれ」
と再契約を求めてきた場合。
その時は、
「再開は構いませんが、一度信頼関係が毀損した案件ですので、モチベーションの維持やリスク管理にコストがかかります。つきましては、フィー(報酬)単価を含む契約条件を『見直し(値上げ)』させていただきます」
と、ビジネスライクに提示しましょう。
結論
「マウンティング」
には
「撤退」
を。
「再開」
には
「条件の再定義(値上げ)」
を。
プロフェッショナルとしての
「誇り」
を安売りしてはいけません。
御社が提供しているのは、単なる労働力ではなく、
「対等なパートナーとしての知恵と人格」
なのですから。
著:畑中鐵丸