「あの組織のやり方は間違っている。私が乗り込んで変えてやる!」
正義感に燃える人ほど、こう息巻きます。
しかし、他人の家の家具の配置を勝手に変えることができないように、外部から組織のガバナンスに介入することは、法的に極めて高いハードルがあります。
本記事では、組織改革における
「勝手にできること(野党活動)」
と
「同意がないとできないこと(与党入り)」
の決定的な違いと、強固な城門をこじ開けるための唯一の鍵である
「外部からの強制の契機(スキャンダル)」
について解説します。
<事例/質問>
先生、地元の巨大医療・介護グループ(仮称:社会福祉法人・丸樹会)の運営体制について、義憤に駆られています。
同法人が運営する介護施設では、入所者の転倒事故や誤嚥事故が相次いでおり、安全管理体制が極めて杜撰です。
私は地元の有力者や有志を集めて、同法人に対し、安全管理の抜本的改革を迫りたいと考えています。
具体的には、
1 我々有志で監視NPOを立ち上げ、事故の検証や啓発活動を行う
2 さらに踏み込んで、我々の代表者を同法人の「理事」や「評議員」として送り込み、内部から組織を改革する
3 問題のある施設をグループから切り離させる
といったことを要求し、実行させたいのです。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
その熱意は立派ですが、法的な
「重力」
を無視して空を飛ぼうとしています。
まず、頭の中を整理しましょう。
世の中の
「アクション」
には、大きく分けて2種類しかありません。
1 「壁打ちテニス」(相手の意向に関係なく、勝手にできること)
2 「ミックスダブルス」(相手の同意がなければ、絶対にできないこと)
ご相談のケースを、この2つに仕分けしてみましょう。
1 「外野で叫ぶ」のは自由(壁打ちテニス)
まず、
「NPO法人を立ち上げ、安全管理のずさんさを検証したり、啓発を行う」
というプラン。 これは、カテゴリー1です。
これは可能です。
極端な話、丸樹会の目の前に事務所を構えて、
「お前らは間違っている!」
と叫び続けることは、表現の自由の範囲内であれば、誰にも止められません。
しかし、相手(丸樹会)からすれば、
「そちら様が、そちら様のお金と労力で、ウチとは無関係の法人を作って、何を喚こうが、それはそちら様の勝手です(痛くも痒くもありません)」
という話です。
これは、あくまで
「外野からのヤジ」
に過ぎず、試合に参加しているわけではありません。
2 「城内への侵入」は拒絶される(ミックスダブルス)
次に、
「我々を理事として招き入れろ」
「施設を切り離せ」
というプラン。
これは、カテゴリー2です。
これは、
「あなたの家のリビングの模様替えをしたいから、私に合鍵をよこせ」
と言っているのと同じです。
相手にとっては、
「組織の根本(人事権・経営権)」
に関わる問題であり、カネで済む話ではありません。
結論から言えば、
「平時において、相手がこれに同意することは10000%あり得ません」
経営陣にとって、あなたのような
「正論を吐く、小うるさい外部の人間」
など、最も招き入れたくない異物です。
玄関先で塩をまかれて終わりです。
3 城門が開くのは「城が燃えているとき」だけ
では、絶対に不可能か?
いいえ、歴史上、堅牢な城門が開く例外的な瞬間があります。
それは、
「外部からの強制の契機(黒船)」
が働いたときだけです。
過去の事例を思い出してください。
かつて、雪印乳業が食中毒事件を起こした際、マスコミや世論から袋叩きに遭いました。
あるいは、漢字検定協会で不祥事があった際、文部科学省が乗り出し、当時の理事親子を追い出しました。
これらは、
「法的手段」
だけで動いたのではありません。
「マスコミ」
「世論」
「監督官庁」
という、抗いようのない
「暴力的なまでの外圧」
によって、城が炎上し、
「うるさい外部の人間(消費者団体や弁護士)を入れて鎮火してもらう以外に、生き残る道がない」
と観念したからこそ、門が開いたのです。
結論
現状の整理は以下の通りです。
• 自分たちでNPOを作って騒ぐ
→これは可能(ただし、相手は無視を決め込むでしょう)
• 運営や人事に口を出す(理事を送り込む)
→絶望的。これは「組織の心臓」を明け渡す行為です。大炎上して焼き尽くされる寸前まで追い込まれない限り、彼らが首を縦に振ることはありません。
正義感だけで、他人の城は落とせません。
どうしても内部に入りたければ、まずは
「外野」
で徹底的に火種を大きくし、世論という強風を吹かせて、相手を
「延焼」
させる覚悟が必要です。
そこまでする気概(と性格の悪さ)はおありですか?
*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸