プロフェッショナルとして仕事をしていると、時として
「暴走するクライアント」
や
「沈みゆく泥船のような案件」
に遭遇することがあります。
そんな時、正論を吐いて相手を正そうとしたり、感情的に対立したりするのは下策です。
本記事では、相手のプライドを傷つけず、自分の非を認めるふりをして、未払い報酬をきっちり回収して撤退する、
「大人の損切り術(通知文の書き方)」
について解説します。
<事例/質問>
先生、依頼者との関係で悩んでいます。
私は士業をしつつ経営コンサルタントもしているのですが、クライアントである建設会社の社長が、こちらの助言を聞かずに暴走し始めました。
資金繰りが悪化しているにもかかわらず、無謀な独自理論で債権者と交渉しようとしたり、大手取引先との訴訟でも、こちらの忠告を無視して強硬姿勢を貫き、結果として状況を悪化させています。
あろうことか、社長は
「お前のやり方が悪いからこうなった」
「見立てが甘い」
と、私に責任転嫁してくる始末です。
このまま付き合っていると、共倒れになるか、最悪の場合、こちらのせいにされて損害賠償請求されかねません。
しかし、まだ未払いの報酬が数百万円残っています。
相手を逆上させず、かつ、未払い報酬を回収しつつ、この
「泥船」
から即座に下船するには、どのようなロジックで辞任(契約解除)を申し入れればよいでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
腐ったミカン、もとい、腐った案件からは、一刻も早く逃げる。
これは、プロフェッショナルとして生き残るための鉄則です。
しかし、逃げ方を間違えると、後ろから撃たれます。
「敵前逃亡だ!」
「任務懈怠だ!」
と騒ぎ立てられ、報酬を踏み倒されるどころか、懲戒請求や損害賠償の火種になりかねません。
ここで必要なのは、
「あなた(クライアント)が悪い」
と正論を吐くことではありません。
「私が無能で申し訳ありません。ついては、身を引かせていただきます」
という、
「“負けるが勝ち”の高等戦術」
です。
このような相手に送りつける
「絶縁状(辞任通知)」
には、プロが駆使すべき4つの黄金律があります。
以下の構成で文章を作成し、送りつけてください。
1 相手の「怒り」を全面的に肯定する(ガス抜き)
まず冒頭で、
「私の不手際に大変お怒りのご様子ですが、厳しく受け止めております」
と、相手の感情を全面的に受け入れます。
ここでは、
「実はあれは社長が言うことを聞かなかったから・・・」
などと弁解してはいけません。
「私が悪うございました」
と頭を下げるふりをして、相手の
「攻撃の拳」
を空振りさせるのです。
相手は
「怒っている」
のですから、その怒りを肯定してあげることで、プライドを満足させます。
2 「方針の不一致」を理由に、さりげなく突き放す
次に、辞任の理由です。
「御社の進まれる方向(独自方式)については、正直自信がもてない」
「信頼関係構築が困難」
と述べます。
これは、
「あなたのやり方は間違っている」
と言うと角が立ちますが、
「あなたの独創的なやり方には、私の凡庸な能力ではついていけません」
とへりくだることで、相手の独自性を(皮肉たっぷりに)尊重しつつ、
「だから、私は降ります」
という正当な理由を作り出しています。
要するに、
「あなたは素晴らしい(狂っている)が、私とは合わない(ついていけない)」
という、
「性格の不一致」
による離婚を申し出るのです。
3 「後任への引継ぎ」で義務を果たすポーズを見せる
逃げるときに一番大事なのは、
「後は野となれ山となれ」
と思われないことです。
「後任の方にしっかり引き継ぎます」
「情報はきちんと回付してください」
と、事務的な手続きを強調することで、
「私は最後までプロとして義務を果たしましたよ」
というアリバイを作ります。
4 「つまらぬこと」として、カネを請求する
ここが、この文章の白眉(はくび)であり、最大の目的です。
文章の最後、追伸(おって)で、
「最後につまらぬことを申し上げて恐縮ですが」
と前置きし、
「未払いの費用を払ってください」
と切り出してください。
これは、心理学的に非常に巧妙です。
ここまで、散々
「私が悪うございました」
「自信がありません」
「身を引きます」
と低姿勢を貫いてきました。
相手(社長)は、自分が優位に立ち、溜飲を下げています。
そこで、最後に
「ところで、これ(報酬)は別問題ですよね? つまらぬ話ですが」
と、小さく、しかし鋭く請求書を突きつけるのです。
相手は、自分が
「勝ち組」
の気分になっているので、
「まあ、辞めさせてやるんだから、手切れ金代わりに払ってやるか」
という心理になりやすいのです。
これを
「つまらぬこと」
と表現することで、
「大した金額じゃないでしょ? 払えないなんて言わせませんよ」
という強烈な皮肉とプレッシャーを与えています。
結論
暴走するクライアントと喧嘩をしてはいけません。
「バカな相手」
には、
「バカな相手が満足するような言葉」
を与えて、その隙に財布の中身を回収し、脱兎のごとく逃げ出す。
「社長の崇高なビジョンには、私ごときでは役不足です。未熟な私をお許しください。(だから、これまでの分を払って、さようなら)」
この
「卑屈なまでの謙虚さ」
こそが、厄介なトラブルから身を守る、最強の鎧となるのです。
*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸