事実無根の週刊誌記事を書かれたとき、多くの人は
「名誉毀損で訴えてやる!」
と息巻きます。
しかし、記事の内容によっては、どんなにウソであっても裁判で勝てないケースが存在します。
本記事では、
「被害者」
として書かれた記事の法的パラドックスと、裁判で勝てなくとも相手に
「一撃」
を加え、将来の被害を防ぐための
「大人の喧嘩の作法」
について解説します。
<事例/質問>
先生、怒りに震えております。
当社がマネジメントしている、世界的なトップアスリート(仮称:東京あずま京きょう選手)に関する週刊誌の記事についてです。
先日発売された『週刊スキャンダル』に、
「東選手は高校時代、先輩からの執拗なイジメに遭い、耐えられずに転校を余儀なくされた」
という記事が掲載されました。
これは真っ赤なウソです。
転校したのは事実ですが、それはより高度なトレーニング環境を求めてのことであり、イジメなど断じてありませんでした。
東選手本人も
「私がイジメに負けて逃げ出したなんて、アスリートとしてのプライドが許さない」
と激怒しています。
明らかに事実無根のウソ記事ですから、名誉毀損で訴えて、訂正謝罪広告と損害賠償をガッツリ取れますよね?
徹底的にやってやりたいのですが。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
お怒りはごもっともです。
事実無根の
「物語」
を勝手に作られ、世間にばら撒かれる。
有名税と言うにはあまりに悪質な仕打ちです。
しかし、結論から申し上げますと、
「裁判で勝って、訂正謝罪を勝ち取る」
という正面突破の戦術は、このケースでは極めて分が悪いです。
「ウソなのに、なぜ?」
と思われるでしょう。
そこには、
「社会の常識」
と
「法律のロジック」
の間に横たわる、深くて暗い溝があるからです。
1 「かわいそうな人」は名誉毀損にならない?
名誉毀損が成立するためには、
「ウソであること(真実性がない)」
に加えて、
「そのウソによって、社会的評価が低下したこと」
が必要です。
ここで冷静に考えてみましょう。
「イジメられて転校した」
という事実は、東選手の社会的評価を下げるでしょうか?
一般市民の感覚からすれば、
「ひどい先輩がいたんだな」
「東選手は被害者なんだ、かわいそうに」
と同情こそすれ、
「イジメられるような奴だから、東選手はダメな人間だ」
と評価を下げる人は稀でしょう。
むしろ、
「そんな逆境を跳ね返してトップアスリートになったなんて、健気で素晴らしい!」
と、好感度(社会的評価)が上がってしまう可能性すらあります。
裁判所は、
「社会的評価が低下していない(むしろ同情を集めている)」
として、名誉毀損を認めない可能性が高いのです。
「トップアスリートたるもの、イジメごときで逃げ出すような精神的弱さがあると思われたら、評価に関わる!」
という主張も、心情的には理解できますが、裁判所という冷徹な場所で認めさせるには、針の穴を通すような難しさがあります。
2 「ハリネズミ」になって、相手の喉に刺さる
では、泣き寝入りするしかないのか?
指をくわえて見ているしかないのか?
いいえ、違います。
「裁判で勝てない」
ことと、
「何もしない」
ことはイコールではありません。
裁判所が認めてくれなくても、我々には
「クレーム(抗議)」
という武器があります。
裁判外で、出版社に対して、
「この記事は事実無根である。直ちに訂正せよ」
という内容証明郵便を、弁護士名義で送りつけるのです。
もちろん、相手もプロですから、
「はいはい、裁判しても勝てないくせに」
と無視するかもしれません。
しかし、ここで重要なのは、
「結果(訂正)」
を取ることではなく、
「態度」
を示すことです。
「ウソを書いたら、即座に、うるさい弁護士から抗議文が届く」
「あそこの事務所は、イチイチ反応してきて、本当に面倒くさい」
相手にそう思わせること。
これこそが、最大の目的です。
週刊誌にとって、一番怖いのは
「高額な賠償金」
ではありません(彼らはそれを経費だと割り切っています)。
一番嫌なのは、
「手間がかかること」
「面倒くさい相手に関わること」
です。
「あそこのタレントをいじると、コストパフォーマンスが悪い」
「あそこの事務所は、触ると痛いハリネズミみたいだ」
そう認識させること自体が、
「牽制球」
となり、将来の
「抑止力」
になります。
「勝てない喧嘩」
であっても、相手の服に泥をつけ、靴の中に小石を入れるくらいの嫌がらせはできます。
今回は、その
「高尚なる嫌がらせ」
のために、抗議文というミサイルを一発、撃ち込んでおきましょう。
放置すれば、
「何を書いても文句を言わない、おいしいカモ」
と認定されてしまいますから。
※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸