ある任意団体の解散と、上位団体への統合(吸収合併のようなもの)に際し、いかにして
「実態のショボさ」
を隠蔽しつつ、
「創設者のメリット(名誉職)」
を最大化し、かつ、
「会員に恩を着せて」
手仕舞いにするか。
これは、まさに
「撤退戦の芸術」
とも呼べる高度な政治的判断が求められる局面です。
本記事では、実態は活動停止状態にある小規模団体の清算プロセスにおいて、事実(会員数など)をあえて曖昧にすることで、関係者全員をなんとなく納得させ、創設者がちゃっかり
「果実」
を手にするための、大人の知恵と作法について解説します。
<事例/質問>
先生、実は私が3年前に立ち上げた、ある業界の研究会(仮称:次世代素材活用研究会)についてご相談があります。
立ち上げ当初は意気揚々としていたのですが、実態としてはほとんど活動できておらず、会員も友人・知人の会社4社と、顧問弁護士ら数名、合計10名弱しか集まりませんでした。
会費も徴収しておらず、まさに
「開店休業」
状態です。
このたび、業界の権威ある大きな協会(仮称:全日本先端素材協会)から、
「そちらの会を統合しないか」
という話が来ました。
渡りに船とばかりに統合を進めたいのですが、以下の3点で悩んでいます。
1 手元に残った運営資金(約63万円)の処理方法(等分して解散でいいか)
2 私が新しい協会でポスト(理事や会長職)を得られるかという点
3 たった8名しかいない会員を、どうやって恥をかかずに新協会へ移行させるか
特に3点目については、会員数が少なすぎて、新協会側に
「なんだ、そんなショボい会だったのか」
と足元を見られるのが怖いです。
かといって、既存会員に過剰なサービス(初年度無料など)をすると、新協会に対して顔が立ちません。
そこで、私なりに考えたのですが、新協会への報告において、バカ正直に実態をさらすのではなく、
「会員の総数(分母)はあえて言わず、『会員全員に告知した』という事実(アクション)だけを伝える」
という手法で、こちらの規模感をあやふやにしたまま、乗り切ることは可能でしょうか?
どのように振る舞えば、
「私は顔を立ててポストを得て、会員も納得し、新協会も満足する」
という、三方よしの着地ができるでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
「終わりよければ全てよし」
と申しますが、組織の幕引き、いわゆる
「店じまい」
の瞬間にこそ、その経営者の
「政治力」
と
「美意識(あるいは厚顔無恥さ)」
が試されます。
今回のご相談、結論から申し上げますと、あなたの現状認識と対応案は、
「極めて秀逸であり、プロ顔負けの『錬金術』」
と言えます。
なぜ、これが素晴らしいのか。
その本質を、少し意地悪な視点も交えつつ、解説しましょう。
1 「17万円」で買った「名誉」という果実
まず、収支計算の感覚が鋭いですね。
当初80万円の出資でスタートし、3年かけて17万円を食いつぶし、残りが63万円。
普通なら
「17万円も損をした」
と嘆くところです。
しかし、あなたは、この17万円と3年間のボランティア活動(という名の維持活動)の対価として、
「ピカピカの大きな協会の理事ないし会長の職」
を手に入れようとしている。
これは、投資対効果(ROI)の観点からすれば、
「ユニクロのシャツの値段で、エルメスのバーキンを手に入れた」
ようなものです。
まさに、わらしべ長者ならぬ、
「“ショボい会”長者」
です。
この
「成果」
を堂々と成果と言い切るマインドセットこそ、成功する経営者に不可欠な図太さです。
残ったお金を等分して解散する、というのも、後腐れがなく、非常に美しい
「手仕舞い」
です。
2 「実態」は隠し、「期待」だけを納品するテクニック
次に、最大の難関である
「会員たった8名問題」
への対処法です。
ここでバカ正直に、
「すいません、会員は8名しかいませんでした」
と新協会に報告するのは、
「裸の王様が、自らパンツを脱いで『裸でした』と白状する」
ようなもので、愚の骨頂です。
あなたの提案された、
「会員の総数(分母)は言わず、『全員に告知した』という事実(アクション)だけを伝える」
という手法。
これこそが、交渉事における
「お茶を濁す(Blurring the tea)」
という高等テクニックです。
相手(新協会)は、勝手に
「まあ、団体というくらいだから、30社や50社はいるだろう」
と期待します(勝手な期待です)。
そこに対して、
「コンバート率(移行率)は低いかもしれないが、とにかく案内は出した。あとは来るものをよろしく頼む」
と伝える。
これにより、蓋を開けてみて移行者が少なかったとしても、
「いやあ、案内は熱心にしたんですが、皆さんの都合が合わなかったようで」
と、
「数(実態)の問題」
ではなく、
「率(歩留まり)の問題」
にすり替えることができます。
「嘘はついていないが、本当のことも言っていない」
このグレーゾーンを絶妙なバランスで泳ぎ切ることこそ、ビジネスと政治の要諦です。
3 会員への「恩着せがましい」演出
最後に、既存会員への対応です。
会費も取っていない幽霊会員に対して、
「1年間無料!」
なんて大盤振る舞いをする必要は全くありません。
それは、あなたの言う通り
「やりすぎ」
であり、逆に
「そんなに必死なのか?」
と勘ぐられます。
「入会金免除、会費半額」
という条件を、さも
「私が、あなた方のために、新協会とタフな交渉をして勝ち取ってきた『特別な権利』なんですよ」
という顔をして提示する。
実際は、新協会にとっても会員増はメリットなので、痛くも痒くもない条件なのですが、これを
「特典」
「手土産」
として演出する。
これにより、会員は
「ああ、あの会に入っていてよかった。会長(あなた)のおかげで、いい条件でメジャーな団体に移れる」
と感謝し、あなたは
「面倒見のいいリーダー」
としての評価を確立し、新協会へは
「会員を引き連れてきた実力者」
として乗り込むことができる。
まとめますと、
「金銭的清算はドライに」
「対外的な数字はあえてボカして」
「会員へのメリットは恩着せがましく演出する」
この3点セットにより、実体以上に自分を大きく見せ、最小のコストで最大の
「名誉職」
という果実を得る。
これぞ、
「店じまいの錬金術」
です。
自信を持って、その
「お茶」
を、濁しきってください。
※本記事は、架空の事例をもとにした一般的な法解説であり、特定の個人や団体、事件を指すものではありません。
個別の事案における法的判断や解決策については、具体的な事情により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著:畑中鐵丸