「弁護士に任せておけば、警察も動くだろう」。
そう思っているなら、あなたは捜査の現場を知らなすぎます。
警察は
「事件」
を捜査しますが、そのスイッチを押すのは法律論ではなく、被害者の
「情念」
です。
本記事では、企業犯罪の刑事告訴を題材に、警察組織が重い腰を上げる
「課長案件」
の意味と、弁護士(脚本家)と依頼者(主演俳優)が演じるべき、戦略的な役割分担について解説します。
<事例/質問>
先生、警察との交渉についてご指示を仰ぎたく存じます。
私は、過酷な労働環境で息子を亡くした父親です。
会社側の安全配慮義務違反(業務上過失致死)を問い、刑事告訴を行う準備を進めています。
先生のご尽力により、所轄署の担当刑事(M刑事)とのアポイントが取れそうだと聞きました。
しかし、先生からの報告によると、
「本件は刑事課長扱いとなっており、課長の勤務体制上、平日の打ち合わせしかできない」
と言われ、日程の再調整が必要になったとのこと。
たかが相談の日程調整で、なぜそこまで勿体ぶられるのでしょうか?
また、次回の面談には私も同行する予定ですが、法律の素人である私が口を挟むより、全て先生にお任せして、私は黙って座っていた方が賢明でしょうか?
戦略上、私が余計なことを言って不都合が生じるようであれば差し控えます。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
お父様、遠慮は無用です。
むしろ、逆です。
私が露払いをして舞台を整えますから、あなたは舞台の真ん中で、魂の叫びをぶつけてください。
今回の警察の反応と、今後の戦略について、解説しましょう。
1 「課長扱い」は、門前払いではない
まず、
「課長扱い」
という言葉に動揺する必要はありません。
これは、警察組織がこの件を
「一兵卒の刑事が適当に処理していい案件ではない」
「組織として判断すべき、重たい案件である」
と認識したことを意味します。
単なるクレーマーなら、窓口で適当にあしらわれて終わりです。
しかし、私が送ったファックス(自己紹介と挨拶、事案の概要)を見て、彼らは
「これは弁護士がついている本気の案件だ」
と悟り、管理職(課長)が出てくることになったのです。
日程が制限されるのは、役所特有の儀式のようなもの。
むしろ、
「土俵に上がる資格」
を得たと前向きに捉えてください。
2 弁護士は「理屈」、当事者は「情熱」
さて、当日の役割分担です。
弁護士ができるのは、あくまで
「料理の下ごしらえ」
です。
・構成要件(犯罪が成立する条件)の整理
・証拠の選別
・法的なロジックの構築
これらは、私が完璧に整えます。
しかし、警察官も人間です。
理屈だけで、面倒な捜査(強制捜査や逮捕)には動きません。
彼らを動かすエンジンとなるのは、
「被害者の無念」
と
「遺族の処罰感情」
という、熱い燃料なのです。
3 あなたが語るべき「3つのセリフ」
戦略上の判断として、当日は、私が法的な説明を終えた後、必ずお父様の口から、以下の強いメッセージを刑事課長に伝えてください。
• 事実の評価:
「息子は、会社の利益のために使い捨てにされた。これは事故ではなく、会社による殺人(見殺し)です」
• 強固な意思:
「示談で済ませる気はない。私は、会社と責任者を刑事罰に処するために、きちんと告訴をします」
• 当局への要請:
「どうか、厳しい捜査をお願いします。警察の力で、真実を暴いてください」
弁護士が代弁しても、
「ああ、仕事で言ってるのね」
と思われます。
しかし、遺族であるあなたが、涙をこらえて、あるいは怒りに震えてこの言葉を言えば、それは
「言霊」
となって刑事の心に刺さります。
結論
私が
「脚本」
と
「舞台装置」
を用意します。
あなたは
「主演俳優」
として、その場の空気を支配してください。
警察という巨大な組織を動かすのは、六法全書ではなく、
「理不尽に対する、生身の人間の怒り」
だけなのです。
著:畑中鐵丸