ビジネスの現場で、仲介者が
「相手も乗り気です!」
と報告してくることがあります。
しかし、その言葉を鵜呑みにして走り出すと、大怪我をすることになりかねません。
本記事では、仲介者の言葉に含まれる
「バイアス」
の正体と、無駄な労力を費やさないために法務担当者や経営者が取るべき
「最初の一手」
について、実例(のエッセンス)を交えて解説します。
<事例/質問>
先生、至急契約書の作成をお願いしたい案件があります。
当社は、健康食品のEC販売を行っているのですが、今回、著名な料理研究家である大山田先生(仮名)とのコラボ商品を開発することになりました。
間に入ってくれているコーディネーターの中野氏(仮名)から、
「大山田先生ご本人から、監修に前向きな内諾をいただきました! ついては、詳細な条件を詰めるために、まずは契約書のドラフトを至急送ってほしいとのことです」
と連絡がありました。
あの大山田先生が乗ってくれるとは、願ってもないチャンスです。
熱が冷めないうちに、早急にガチガチの契約書を作成して送付し、一気に契約締結まで持ち込みたいと考えています。
特急料金をお支払いしますので、明日までにドラフトをお願いできますでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
「他人の言葉を鵜呑みにする」
というのは、ビジネスにおいて、
「裸で戦場を歩く」
のと同義です。
特に、間に立つ仲介者、コーディネーター、ブローカーといった方々の言葉は、話半分どころか、
「話10分の1」
くらいで聞いておくのが、大人の嗜みであり、身を守るための安全装置です。
今回のケース、結論から申し上げますと、契約書の作成に着手するのは、
「時期尚早」
であり、無駄骨に終わる可能性が極めて高いと言わざるをえません。
なぜなら、そこにあるのは
「合意」
ではなく、仲介者の
「希望的観測」
あるいは
「見切り発車」
である可能性が濃厚だからです。
その理由と、今すぐ取るべきアクションについて解説しましょう。
1 仲介者の「翻訳機能」は、常に「盛り」が入る
仲介者(中野氏)にとって、この案件が成立することは、自身の成果であり、利益です。
したがって、彼らには、
「少しでも話を前に進めたい」
という強烈なバイアスがかかります。
大山田先生が、社交辞令で
「へえ、面白そうな話だね(今は忙しいけど、条件が良ければ考えてもいいかもね)」
と軽く頷いたとしましょう。
これが、仲介者のフィルターを通すと、
「大山田先生は、このプロジェクトに大変熱心で、前のめりです! いますぐ契約書を欲しがっています!」
という、
「超訳」
に変換されて出力されます。
これは悪意がある嘘というより、彼らの脳内では、
「そうあってほしい未来」
が、
「すでに起きた確定事実」
として処理されてしまっているのです。
2 「直(チョク)」で確認するまでは、すべて「幻(まぼろし)」
私が以前経験した案件でも、似たようなことがありました。
ある仲介者から
「相手方の了解を得られたので、具体的な相談を進めてほしい」
と打診がありました。
普通なら、そこで動き出すところですが、私は性悪説の権化のような弁護士ですので、念のため、相手方ご本人に直接確認を入れました。
すると、どうでしょう。
ご本人曰く、
「え? 許諾を与えた認識なんて、これっぽっちもありませんよ」
とのこと。
これが現実です。
仲介者が言っている
「OKもらいました」
は、
「挨拶したら、無視されなかった」
程度の意味しかない場合が多々あるのです。
3 契約書を送る前に、「外堀」ではなく「本丸」を埋める
今、あなたがすべきことは、契約書という
「紙爆弾」
を送りつけることではありません。
まだ温まってもいない相手に、いきなり分厚い契約書を送りつけるのは、
「初デートの約束もしていない相手に、結婚届と結納品を送りつける」
ようなもので、相手をドン引きさせ、破談にする最速の方法です。
まずは、仲介者(中野氏)を飛び越えて、あるいは中野氏同席のもと、大山田先生ご本人、あるいはその正式なマネジメント担当者と、
「直接」
意思確認を行う場を設けることです。
それができない、あるいは中野氏がそれを嫌がるようであれば、その話は
「十中八九、怪しい」
と判断すべきです。
契約書を作るのは、当事者同士が目を見て握手し、
「やりましょう」
と言った後で十分です。
まずは、その
「幻影」
が
「実体」
かどうか、指で突っついて確認することから始めましょう。
特急料金は、その後で結構です。
※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸