「円満な解決」
を謳いながら、相手の最も痛いところを正確に突く。
一見、丁寧で礼儀正しい文章の中に、相手を震え上がらせる
「ナイフ」
を忍ばせる。
相続や事業承継の現場で、情報を隠蔽し、話し合いに応じない相手をテーブルに着かせるためには、このような
「大人の喧嘩の作法」
が必要です。
本記事では、実際の交渉状の文面(一部抜粋)を参考に、相手の隠している
「急所(巨額の連帯保証問題)」
を、いかにしてジェントルかつ効果的に突き刺すか、そのロジックとマインドセットを解説します。
<事例/質問>
先生、遺産分割協議が泥沼化して困っております。
父が亡くなり、長男である兄が実家の事業(建設関連の資材卸)を継いでいるのですが、遺産の内容を全く開示してくれません。
母は健在ですが、高齢で、会社の経営やお金のことは父と兄に任せきりでした。
どうやら兄は、母を言いくるめて、母の実印などを管理しているようです。
そんな中、独自に調査を進めたところ、驚くべき事実が見つかりました。
母が、父の生前、あるいは兄の代になってから、会社の借入金の
「連帯保証人」
になっており、その額が数億円にのぼる可能性があるのです。
母に聞いても
「ハンコは兄ちゃんに預けてあるから分からない」
「そんな怖い金額の借金なんて知らない」
と言います。
兄は
「お前たちには関係ない」
の一点張りで、遺産分割協議に応じようとしません。
この膠着状態を打破するために、相手(兄)にどのようなボールを投げればよいでしょうか?
ただ
「資料を出せ」
と怒鳴り込んでも無視されるだけです。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
「話し合いに応じない相手」
をテーブルにつかせるには、
「このまま無視し続けると、あなたの足元にある地雷が爆発しますよ」
と、ジェントルに、かつエレガントにお伝えするのが一番です。
今回のケースで言えば、お兄様がひた隠しにしている(と思われる)
「母親が知らない間に背負わされた、巨額の連帯保証債務」
という事実。
これが、最強のカード、いわば相手にとっての
「急所」
です。
このカードを切る際のお作法として、決して
「お前が勝手に母さんを保証人にしたんだろう! 詐欺だ!」
などと、感情的に罵ってはいけません。
あくまで、
「円満な解決のために、事実を確認したいだけなのです」
という、
「善意の衣」
を何重にも着込んで、相手の急所を正確に突き刺すのです。
具体的には、以下のようなロジックで攻め立てます。
1 「円満解決」という名の大義名分
まず、冒頭で
「当方は円満に解決したいと考えている」
と宣言します。
これは、
「私は喧嘩をしたいわけではありませんよ」
というポーズを見せつつ、
「だからこそ、膿(うみ)を出し切りましょう」
と、相手の隠している不都合な真実を暴くための布石です。
2 「仄聞(そくぶん)」という名の確信犯的指摘
次に、
「母が、ご自身の連帯保証債務についてご存じない、という噂を耳にしました(仄聞しております)」
と切り出します。
そして、
「まさかとは思いますが、母は、よくわからないまま、数億円もの連帯保証人になられているのではありませんか?」
と、すっとぼけて尋ねるのです。
これは、
「お前が母さんを騙してハンコを押させたことを、こっちは知っているぞ」
という強烈なメッセージを、オブラートに包んで投げつける行為です。
3 「悲しい話」という強烈な皮肉
さらに畳み掛けます。
「もし、母が知らずに巨額の借金を背負わされているなら、それは『まことに悲しい話』ですね」
と。
ここで言う
「悲しい」
は、感情的な同情ではありません。
「親を騙して借金のカタにするなんて、人間として終わってますね」
という、最大級の皮肉と軽蔑を込めた表現です。
そして、
「母には、きちんとした事実を知っていただくべきです」
と提案します。
これは、
「お前が白状しないなら、私が母さんに全部バラして、お前の化けの皮を剥いでやるぞ」
という、最後通牒に他なりません。
4 「事実の整理」という名の退路封鎖
最後に、
「無用な紛議を防止するために、事実関係を正確に認識・整理することから始めたい」
と締めくくります。
これは、
「お前のやってきた悪事を、白日の下に晒し、証拠として固定するまでは、一歩も引かないぞ」
という宣言です。
「紛議を防止するため」
と言いながら、実際には相手にとって最も痛い
「紛議の火種」
を自ら着火しに行っているわけです。
まとめますと、相手が隠したい
「不都合な真実(今回は母の無自覚な連帯保証)」
を、
「家族の円満のために」
「母親のために」
「公正・公平のために」
という、誰も否定できない
「正義の御旗」
を掲げて、白日の下に引きずり出す。
相手が
「そんなことされたら困る!」
と悲鳴を上げる急所を、
「あくまで事務的な確認作業です」
という顔をして、涼しい顔で締め上げる。
これこそが、膠着した交渉を動かす、プロの
「搦(から)め手」
です。
「期限内にご対応いただけるものと確信し、資料落手を鶴首してお待ち申し上げております」
という結びの言葉は、
「さあ、もう逃げ場はないですよ。観念して出てきなさい」
という、優しくも残酷な
「投降勧告」
なのです。
※本記事は、架空の事例をもとにした一般的な法解説であり、特定の個人や団体、事件を指すものではありません。
個別の事案における法的判断や解決策については、具体的な事情により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著:畑中鐵丸