00193_チエのマネジメント(13)_20141220

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)の13回目です。

話は
「チザイ」、
すなわち知的財産権の話から、立法・司法・行政という国家三権とその機能分担(三権分立)の話に広がっておりますが、今回から、話をチザイに戻してまいります。

前回、法律は、
「サイエンス」
ではなく、
「イデオロギー」
であって、この
「イデオロギー」
たる法律を解釈運用するのは、
「上司もなく、やりたい放題」
が憲法で保障されている、いわば
「独裁者」
たる裁判官であり、
「真理探求に謙虚な姿勢の科学者が、サイエンスを扱う」
のとは180度異なる、
「独裁者がイデオロギーを、自由気ままに振りまわす」
というのが司法という権力の実体である、などと解説してまいりました。

そして、司法権力がこれだけの強力な独裁権力ですから、他の国家主権である行政権と摩擦を起こすのは、当然の成り行きといえますが、現実に、チザイの世界では、司法と行政が、世間の目を気にせず、衆人環視の状況で、大喧嘩をすることがあります。

今回は、この話をさせていただきます。

(19)チザイにおける行政VS司法

企業の事件の報道を見ていますと、例えば、こういうニュースに接することがあります。

「2005年2月26日、東京地方裁判所は、特許権侵害訴訟において、日本水産の冷凍塩味茹枝豆特許(塩味茹枝豆の冷凍品及びその包装品の特許)を無効と判断し、日本水産の特許権に基づく損害賠償等の請求を権利濫用として許されないとして棄却」

「2005年11月11日、知財高裁において、日本合成化学工業のパラメーター特許が無効と判断される」

一見すると、ありきたりのニュースとして見過ごしてしまいそうですが、考えてみれば、かなり異常な事態です。

ニュースでは、
「裁判所から、権利を濫用したとか、無効だとか非難された」
とされていますが、当事者である日本水産にせよ、日本合成化学工業にせよ、別に、何の根拠もなし、無茶な因縁をつけたわけではありません。

彼らは、多大な時間とエネルギーを負担して、特許出願し、さらに、出願してからも、特許庁から
「あっちを直せ」
「この出っ張りを引っ込めろ」
とかいろいろ指導を受けた挙句、晴れて、特許権登録を受け、特許庁から
「特許権者」
としてお墨付きを受けた、国家公認の権利者だったのです。

特許権が登録されれば、見るからにおごそかな特許庁長官発行の
「特許証」
という、鳳凰が縁取られた、合格証書のようなものが発行されます。

このような状況にあって、
「自分の権利がマボロシである可能性もあるから、疑え」
と言われても、そりゃ、絶対、無理ってもんです。

日本水産も、日本合成化学工業も、
「特許庁」
という、
「国家行政を担う、立派な奉行所」
のお墨付きを得て、権利者として振舞っていただけです。

そうしたところ、あるとき、この
「厳かなお墨付き」
たる特許権を
「そんなもの、屁のつっぱりにもなるか」
と言わんばかりに、公然とコケにする不逞の輩が現れたのです。

不逞の輩と権利者との揉め事は、
「裁判所」
という別の奉行所が取り扱うことになっています。

奉行所が違ったといえども、同じ日本という国の、同じ国家機関。

「まるで話が通じないわけはない、ということはなかろう」
と思って、裁きを待っていたところ、この
「裁判所」
という奉行所は、
「そちのもっている権利とやらはインチキじゃ。そのようなインチキな権利を振り回す、そちこそが、不逞の輩なり」
と、逆に怒られた。そんな無茶苦茶な話が、前述のニュースです。

なぜ、こんなことが起きてしまうのか。

それは、三権分立制度の陥穽としか言いようがありません。

国家は1つですが、権力作用は、全く別。

しかも、裁判所は、
「サイエンス」
ではない
「イデオロギー」
たる法律を解釈運用する、
「上司もなく、やりたい放題」
が憲法で保障されている、いわば
「独裁者」
であり、国会が作った法律すらぶっ飛ばすパワーを持っているくらい強力な独裁者です。

他の国家主権である行政権に属する特許庁が一介の私人に発行したお免状の1つをビリビリ破ることくらい、朝飯前のバナナヨーグルトです。

とはいえ、その昔、
「裁判所は文系の人間で、科学技術のことはよくわからないから、特許権が有効とか無効とかそういう小難しいことは、技術に明るい特許庁の方々に任せ、基本的に特許庁の判断を尊重しよう」
というシキタリがありました。

ところが、あるとき、公知技術を組み合わせただけの明らかに無効な特許を、うまく登録に持ち込んだ輩が登場し、彼が、このインチキ特許を使って、差止や損害賠償請求を行うという事件が起きました。

その際、最高裁は、前記シキタリを破り、
「差止や損害賠償請求が求められた際、裁判所が当該特許の有効・無効を判断し、たとえ技術に明るい特許庁の審査官がお墨付きを与えた特許権であっても、無効と断じてもいい」
と宣言しました。

そして、このような最高裁の取扱は、特許法改正により明文化されました。

このような事情があるため、前述のニュースのように、
「審査官をウマく丸め込み登録はしたものの、新規性、進歩性等の要件に問題があるエエ加減な特許権」
をブンブン振り回して、鼻息荒くライバル企業に差止・損害賠償訴訟を提起すると、カウンターパンチをくらうような形で裁判所から突然
「特許無効」
と宣言され、最後に泣きを見る、という事例が出てくるようになったのです。

前回まで、長々と、国家三権の本質的特徴、という遠大なテーマを論じてまいりましたが、チザイとの関係については、このような話となってつながってくるんです。

次回以降も、この、実にややこしい、チザイの特徴と取り扱い方法を解説していきたいと思います。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.088、「ポリスマガジン」誌、2014年12月号(2014年11月20日発売)