連載シリーズ
「仕事のお作法」
の
「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)の10回目です。
話は
「チザイ」、
すなわち知的財産権の話から、立法・司法・行政という国家三権とその機能分担(三権分立)の話に広がり(脱線し)、これがひどくなる一方ですが、あえて空気を読まず、脱線話を続けたいと思います。
6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法
(15)役所(行政機関)と裁判所との違い
前回まで、国家三権のうち、国会と行政機関との違いを中心に見てまいりました。
では、同じ法を執行・運用する役所として、役所(行政機関)と裁判所との違いはどうでしょうか。
個性あふれる国会議員の集団とは異なり、
「地味なスーツを着て、眼鏡をかけてて、知的で神経質そうで、あまりパっとしない、無個性なエリート」
の集団として共通する役所と裁判所ですが、似ているからといって、同じというわけではありません。
たしかに、裁判官登用試験である司法試験も、行政官僚登用試験である国家公務員一種法律職の試験も、試験内容としては似通っています。
裁判官の世界でも行政官僚の世界でも東大法学部卒が圧倒的にハバを利かせておりますし、裁判所でも財務省や総務省でも、石を投げれば、たいてい東大卒に当たります。
おそらく、東大卒の人口密度は、千代田区霞が関界隈が日本でもダントツ1位でしょう。
最終的に受けた試験(司法試験と公務員試験)の科目の数や種類が微妙に異なるとはいえ、役人も裁判官も、18歳から22歳まで駒場(東大生は1・2年生をここで過ごす)と本郷(東大生は3・4年生をここで過ごす)で地味な生活を送ってきたものどうし、外見や思考やライフスタイルの面において、非常に似ています。
これほど似通っている
「役所」
と
「裁判所」
ですが、実際は、両機関はかなり異質です。
さらに言えば、
「役所」
と
「裁判所」
とが、衆人環視の下、大喧嘩をしたりすることだってあります。
ここから先は、次回以降にお話しいたします。
身近な存在でありながら、どういう活動をしているかよくわからない国家機関である裁判所について連載で解説させていただいています。
前回は、
「国会議員」
と
「行政官・裁判官」
とを対比する形で議論させていただき、日本という国家を運営しているのが実は霞が関の行政官僚である、という実体を述べさせていただきました。
すなわち、日本という国は、建前でこそ民主国家として
「マジョリティが投票で選んだお調子者や目立ちたがり屋」
が主権者代表として運営するなどと危なかっしいことをいいつつ、その実体は、完全な官僚国家であり、
「小さいころから地味な努力を怠らない、優秀で責任感のある試験エリートたち」
により堅実に運営されているのです。
ところで、日本国家の運営を託された文系試験エリートの二大巨頭である
「行政官」
と
「裁判官」
ですが、前回述べたとおり彼らは実に近似した存在ですが、実は、まったく違った理念と見識で活動しているのです。
(17)最強の国家権力を保持する裁判所
国家権力の中でもっとも強力な権限は何でしょうか。
法律を作ることや、法律を執行することでしょうか。
こういう問いに対しては、
「主権在民の理念から、主権者代表である国会が有する立法権力が日本国においてもっとも強大な権力である」
という答えが返ってきそうです。
しかしながら、国会の立法といえども憲法に反する内容が定められる可能性も否定できません。
他方、現日本国憲法は、法律に対する優位と最高法規性を宣言しておりますので、憲法に反する法律や行政行為は無効と宣言されるべき必要が存在します。
このように、法律を作る権限(国会が有する立法権力)や法律を執行する権限(内閣を頂点とする行政官庁が有する行政権力)の上に、当該立法や法執行を憲法に照らして審査し、無効と宣言する
「上位の権力」
が想定されるのです。
この権力は、
「違憲立法審査権」
と呼ばれる権力ですが、立憲国家においては、国家運営におけるもっとも強力な権限であると認識されています。
この違憲立法審査権を、どのような国家機関に所属させるかについては一義的なものではなく、各国各様のモデルがあります。
フランスやドイツのように、一般の裁判所とはまったく別系統の
「特別の裁判所」
を創設し、当該特別裁判所に違憲審査を行わせるようなシステムもあります。
日本は、イギリスやアメリカと同様、通常裁判所に違憲立法審査権を付与しています。
このような意味において、裁判所は、通常司法権のほか、
「違憲立法審査権という、立法権力や行政権力も凌駕するもっとも強力な国家権力」
を保持しており、わが国において
「最強の権力集団」
ということができるのです。
以上、法を執行する2つの国家機関である裁判所と行政機関(いずれも極めて似通った存在ですが)を比較しながら、お話を申し上げました。
次回は、さらに、この話を掘り下げていきます。
次回もまだまだ脱線が続きますが、しばらく、この壮大な話にお付き合い下さい。
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.085、「ポリスマガジン」誌、2014年9月号(2014年8月20日発売)