00189_チエのマネジメント(9)_20140820

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)の9回目です。

話は
「チザイ」、
すなわち知的財産権の話から、立法・司法・行政という国家三権とその機能分担(三権分立)の話に広がり(脱線し)、これがひどくなる一方ですが、いずれ、チザイ話に戻ってまいれると思いますので、引き続き脱線を続けたいと思います。

6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法

(13)「”立法機関”である”国会”」が立法すると、椿事として、ニュースになる

前回、言ってみれば、役所(行政機関)が料理(立法)のプロで、国会は
「出された料理のケチをつけることはできるが、自分では目玉焼きひとつ焼けない、料理評論家集団」
である、と申し上げました。

ところが、ケチはつけるが自分たちではほとんど法律など作らない国会議員のセンセイ方が、何を血迷ったか、夜の会合をキャンセルして、自ら法律を作ってしまう場合があります。

これは
「議員立法」
と呼ばれるものですが、国会議員が自分たちで法律を作ると、それだけでニュースになるくらい椿事なのです。

むろん、その出来具合はお世辞にもいいとは言えず、立法のテーマも、
「国家の効率的運営による国益の向上を目指した、後世に残るすばらしい法律」
は少なく、
「○○族と呼ばれる議員センセイが、特定の業界の利益の向上と結びつくような法律」
だったり、
「選挙の際、専業主婦やサラリーマンに手柄としてアピールしやすい法律」
といったものです。

議員立法で有名なのは、故田中角栄先生です。

彼が作った法案の多くは、道路、建設、開発あるいはこれらの財源措置や特殊法人に関するものでした。

特に、民主党政権の際に問題になった
「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」
も角栄先生の議員立法として成立したものですが、要するに
「都会のサラリーマンがガソリン購入の際に支払う税金を、田舎の道路工事のためにばらまく」
というものであり、建設業界と地元のゼネコンを利するという目的においては、非常に分かりやすい代物でした。

(14)この国を動かすのは国会ではなく役所(行政機関)

話を元に戻しますと、立法のプロとして、法律を作っているのは、
「お笑い芸人、ニュースキャスター、土建屋、ブローカー、成金、地上げ屋、あるいは現在拘置所にいる刑事被告人といった様々な職種で構成される国会議員のセンセイ方」
ではなく、東大を卒業し、難しい試験に合格した、優秀な頭脳をもつ役所(行政機関)なのです。

つまり、中央官庁に務める高級官僚は、
「自分たちが使いやすいような法律を自分たちが作り、作った法律を自分たちが使う」
というわけです。

駒場の東大キャンパスに行くと、青雲の志を抱いて地方から浪人して東京大学文科一類に入学した青年が、
「僕は、キャリア官僚になって、日本を動かすんだ!」
という夢を語る場面に出くわします。

確かに、
「自分たちが使う法律を自分たちで作る」
わけですから、
「日本という国家を動かしているのは、国会議員などという有象無象の輩ではなく、キャリア官僚という高学歴のエリート集団である」
という認識は、全く間違っていません。

以上、立法権力を振るうとされる国家機関である国会の実体について、行政機関との比較においてお話しましたが、次回も、この話を続けてまいります。

知財からずいぶん脱線が続いており、さらに、次回も脱線が続きますが、しばらく、この壮大な話にお付き合い下さい。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.084、「ポリスマガジン」誌、2014年8月号(2014年7月20日発売)