00188_チエのマネジメント(8)_20140720

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)」の8回目です。

話は
「チザイ」、
すなわち知的財産権の話から、立法・司法・行政という国家三権とその機能分担(三権分立)の話に広がって(脱線して)おりますが、引き続き脱線を続けたいと思います。

6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法

今回は、国家三権、すなわち、立法権力、行政権力及び司法権力を付託された各組織が、それぞれ具体的にどういう特徴をもって運営され、国家意思を具体的に実現しているか、について具体的に解説してまいります。

(11)「国会」と「お役所(行政機関)」「裁判所」との違い

立法権力、行政権力及び司法権力を付託された
「国会」
「行政官庁」
「裁判所」
という3種の国家機関の特徴を比較する形で解説してまいりますが、まず言えることは、国会と他の2機関には顕著な違いが存在する、という点です。

国会議員は選挙で選ばれますが、一定の年齢制限以外、試験もなければ能力の評価検証もありません。

学歴不問、経歴不問、能力不問、試験無し。

自分の名前が書ける程度の学があり、選挙に通りさえすれば、基本的に誰でもなれます。

お笑い芸人、ニュースキャスター、土建屋、ブローカー、成金、地上げ屋でもOK。

拘置所の中からだって立候補可能です。

他方、行政官僚や裁判官となると、そんなわけにはまいりません。

ハードな勉強をして、小難しい試験に合格しなければなりません。

また、行政官僚や裁判官の場合、職を得てからも、一部の国会議員のように、料亭で無駄話をしたり、銀座のクラブで駄法螺を吹いているヒマはなく、目の前の大量の事務を、地味で堅実に効率よく裁いていく必要がありますし、そうでもしないと出世もおぼつきません。

国会議員が際立った個性派ぞろいであるため(言い方をかえれば「有象無象(うぞうむぞう)」であるため)、同じく国家運営の一翼を担う立場でありながら、行政官僚も裁判官も
「地味で、個性のないエリートで、似たような連中」
としてくくられてしまうのです。

そういうこともあって、一般国民の認識においても
「裁判官も行政官僚も同じじゃん」
と思われており、実際、霞ヶ関に多数いるお役人を、裁判官と行政官僚に区別するのは、至難の業です。

国会議員・役人・判事を並べてみて、
「ゴルフ焼けしてて、脂ぎってて、声がデカくて、スーツよりも作業服が似合いそうなガタイで、オシの強そうなオッサン」1人
と、
「地味なスーツを着て、眼鏡をかけてて、知的で神経質そうで、あまりパっとしないオジサマ」2人
がいれば、前者が国会議員で、後者が裁判官・行政官のいずれかであろう、という推定が働きますが、この推定はほぼ100%当たっています。

そのくらい、
「国会議員」
とそれ以外の
「裁判官・行政官」
は見た目だけで簡単に区別することが可能なのです。

他方で、
「地味なスーツを着て、眼鏡をかけてて、知的で神経質そうで、あまりパっとしないオジサマ」2人
を並べて、どちらが裁判官でどちらが財務官僚か、と言われても、区別するのはほぼ不可能です。

(12)立法をするのは「国会」ではなく「行政機関」

読者のみなさんは、小学校で
「国会は法律を作るところ」
「役所(行政機関)は、国会で作った法律を運用するところ」
ということを習ったと思いますが、これは、建前はともかく、実体としては明らかな間違いです。

「『お笑い芸人、ニュースキャスター、土建屋、ブローカー、成金、地上げ屋、あるいは現在拘置所にいる刑事被告人の方』といった様々なバックグランドを有する国会議員のセンセイ方に、難解で技術的な法律の文章を作ることができるか」
というと、普通に考えて無理であることは明らかです。

もちろん、国会議員の中には元キャリア官僚という方もいらっしゃり、そういう方が本気を出せば法律ぐらい書き上げられるということもあるでしょう。

しかし、国会議員のセンセイには、
「地元の有権者の陳情を受けて、橋や道路を作ったり、各種違反の措置軽減や就職口斡旋する」
あるいは
「料亭やクラブに行って派閥人事を処理する」
といった重要な仕事があるので、
「机の上に齧りつき、関係法令集と格闘しながら徹夜で法案を作成する」
という地味で面倒でクラダナイことはなさいません。

じゃあ、
「国会議員が作らないのであれば、一体、法律は、誰が作っているんだ?」
というと、
「役所(行政機関)が法律を作っている」
というのが答えになります。

国会は、法律を作るところではなく、役所(行政機関)が作ってきた法律を
「ここはいい」
「ここはダメだ」
といってケチをつけるところなのです。

言ってみれば、役所(行政機関)が料理(立法)のプロで、国会は
「出された料理のケチをつけることはできるが、自分では目玉焼きひとつ焼けない、料理評論家集団」
と言った方が正確です。

以上、今回は、立法権力を振るう国家機関である国会の実体についてお話しましたが、次回も、この話を続けてまいります。

知財からずいぶん脱線が続いていますが、最終的には、知財における行政と司法の軋轢問題に帰着させる予定ですので、しばらく、この壮大な話にお付き合いください。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.083、「ポリスマガジン」誌、2014年7月号(2014年6月20日発売)