00187_チエのマネジメント(7)_20140620

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)の7回目です。

前回から、話は
「チザイ」、
すなわち知的財産権の話から、立法・司法・行政という国家三権とその機能分担(三権分立)の話に広がって(脱線して)おります。

6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法

(9)実は不効率で無駄が多い三権分立(承前)

前回、三権が一体のものとして運営されていた江戸時代の状況を例に挙げ、
「当時の江戸幕府側からみると、『国家運営機能を無理矢理3つに分割し、それぞれ別の指揮命令系統で動かす』現代の三権分立システムは、実に無駄で非効率に映るのではないか」、
と疑問を投げかけたところで終わりました。

三権分立に慣れ親しんだ現代の私達からみると、権力を集中した形で振りかざす江戸幕府の国家運営は野蛮に見えるかもしれませんが、江戸幕府が三権分立を採用しなかったのは、
「国家運営を統一的・効率的に行い、無駄を省く」
という自然かつ合理的な感覚によるもので、決して
「バカで時代遅れの超権力志向だったから」
ではありません。

例えば、時代劇等で出てくる
「奉行所」
は、刑事警察と公安警察と治安維持のための武装部隊と検察庁と裁判所をミックスしたようなところでした。

遠山の金さんなどを見たらおわかりかと思いますが、奉行という高級官僚は、司法警察官と検察官と裁判官を兼ねておりましたので、自分で調べ、自分で体験したことを判断の基礎にして、犯罪事実を認定し、刑罰を定めていました。

こういう制度の下では、裁判官は、気になったら自らとことん取り調べができますし、その取調べの結果に基づき絶対的な自信をもって事実認定ができますので、今の日本の裁判よりもはるかに緻密な司法を実現していたのかもしれません。

もし、遠山の金さんがタイムトラベルして、今の日本の刑事司法を見たとすると「警察署に検察庁に裁判所と指揮系統の異なる多数の役所を無秩序に作り出した挙句、一つの奉行所でできることを、無駄で非効率な形で分掌させる、信じがたい税金の無駄遣いをしている」と映るかもしれません。

(10)三権集中(三権未分離)から三権分立へ

このように、三権集中に比べ、無駄で非効率極まりない三権分立システムですが、ご存知のとおりイギリスで始まりモンテスキューが理論化しフランス・アメリカで採用され、その後全世界に広がっていきました。

世界的に広がったとはいえ、人類が文明社会を作り社会運営を行ってきた永きにわたる歴史からすると、
「三権を分離して、別ラインで運用する」
という国家運営システムは、歴史的にはまだまだ日が浅いものといえます。

では、なぜ三権集中(あるいは不分離)ではなく、
「三権分立」
という一見面倒で非効率な国家運営方法が主流になったのでしょうか。

確かに、三権を集中させた方が国家運営効率は高まりますし、英明なリーダーの下では国家は大いに発展を遂げます。

しかし、反面、ルイ16世やヒトラーのように、集中した国家運営権を使って、やりすぎてしまう奴も出てきたりするのです。

時速200キロメートルで走っているポルシェがいきなりブレーキを踏むと大事故を起こすのと同様、国家運営効率が極限にまで高まった状態で三権全てを掌握するリーダーが大失敗をやらかした場合、その影響は計り知れず、革命が起こるなどして社会が崩壊してしまい、国家インフラがズタズタになってしまいます。

こういう負の経験をふまえつつ、人類は
「効率性をある程度犠牲にしても、三権を分離して、それぞれを別の指揮命令系統下におき、相互にいがみ合いをさせながら、活発な議論の下慎重に国家運営させていった方が、大チョンボが起こりにくく、国家なり社会体制としては長続きし、国民としてもハッピーになるはず」
という認識を有するに至ったのだと思います。

ということで、現代の日本も、
「多数決で選ぶ国会議員」
「公務員試験で選抜する行政官僚」
「司法試験で選ぶ裁判官」
という3つのタイプの国家運営キャリアを設け、
「法律を作ることを国会議員が構成する国会に担わせ、法律を運用して税金を集めたり使ったりするのを総理大臣指揮下の霞ヶ関行政官僚団に任せ、法律の解釈と揉め事の解決は裁判官で構成する裁判所に任せる」
という三権分立システムを採用するようになったのです。

次回以降、これら3つの国家権力を担う国会議員や行政官僚、そして裁判官たちの実像に迫りつつ、国家三権が、それぞれどういう特徴をもって運営されているか、という壮大な脱線話を続けたいと思います。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.082、「ポリスマガジン」誌、2014年6月号(2014年5月20日発売)