00186_チエのマネジメント(6)_20140520

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)の6回目です。

6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法

「チザイ」
の代表選手である特許を例にお話しさせていただいておりますが、この特許という権利は、特許庁(行政庁)のほか、裁判所(司法府)でも取り扱われます。

この2つの国家機関の判断がいつも同じであればいいのですが、判断が別れる場合があり、もともと面倒くさい知的財産マネジメントをさらに大きな混乱に陥れています。

この混乱の実体をきちんと把握いただくため、また、企業としても、国家機関とお付き合いする上では、国家機関、すなわち、司法機関、行政機関、さらには立法機関という3つの国家機関それぞれについて、組織の目的・役割・特徴をきちんと認識していただくため、今回から、行政と司法、さらには立法の役割、という少し大きな国家システムの話をいたします。やや壮大な話になりますが、こちらもこの場を借りて解説させていただきます。

(8)「裁判官」も「検察官」も「霞が関の官僚」も、言ってみりゃ、皆同じ?

皆さんは、テレビの裁判報道等で、法廷の壇上で不景気で陰気な顔して、妙なマントっぽいものを羽織ったおじさんやおばさん(これが裁判官です)が出てきたりするのを見られたことがあるかと思います。

また、大きな政治疑獄や経済事件で東京地検特捜部が強制捜査を開始する際、スーツを着た集団が颯爽と政治家の事務所や大企業のビルに入っていく様子(強制捜査の際、ダンボールをもって突入しているのは、検察官ではなく、検察事務官ですが)が報道されるのも見られたこともあるでしょう。

このように、裁判官とか検察官といった存在は一応社会的に認知されているのですが、世間の認識の中では
「裁判官だか検察官だか知らないが、言ってみりゃ、どっちも、東大出てて、司法試験合格していて、地味なスーツを着て霞ヶ関で働いていて、小難しい顔して法律や事件の関係のことで働いてる人で、同じようなもんでしょ」
と思われているようで、両者を正確に区別できる方はそう多くはいらっしゃらないような気がします。

さらに言えば、裁判官も検察官も中央省庁に勤める行政官僚すらも、世間一般の認識においては
「法律に関して、何か難しそうなことやってる公務員」
という括りで一緒くたにされており、その違いがあまり意識されていないような気がします。

この現象は、世間一般に限りません。

不動産登記簿謄本を入手するために法務局にしょっちゅう出入りされているプロの不動産業者ですら、裁判所と行政機関との違いにあまり頓着されない方が結構いらっしゃいます。

実際、
「裁判所って、あれでしょ、ほら、九段のところにある登記簿謄本とかもらうところでしょ」
なんて調子で、東京法務局と東京地方裁判所をごっちゃにしておられる不動産業者の方を見かけたりします。

脱税や強引な節税のかどで刑事告発されたご経験をおもちの方などにおいても、税務調査官も国税不服審判官も検察官も裁判官も
「同じような地味な人」
という括りでしか認識しておられず、事件の過程で次々と登場するスーツを着たエラそうな公務員相互間の区別がつかない、という方も少なからずいらっしゃいます。

たしかに、裁判官も検察官も税務調査官も財務官僚も法務局登記官も、雑なイメージだけで語れば
「眼鏡かけてて、勉強できて、スポーツ音痴で、東大出てて、一緒に食事してもツマンナそうな、やたらと細かい、地味な役人」
として一緒くたにされてしまいますし、これら五者の外形上の区別は困難です。

しかし、裁判官とそれ以外(行政官)というのは、まったく違う運営理念を持つ組織で働いており、生態も思考も行動様式においても、顕著な違いが存在するのです。

そして、行政と司法の機能上の差異、さらには立法活動との違いをきちんと理解するためには、裁判官と行政官という「似て非なる」両存在の違いをきちんと理解する必要がありますし、そのためには三権分立の話をしなければなりません。

(9)実は不効率で無駄が多い三権分立

読者の皆さんは、小学校の社会の授業で、
「三権分立」
という概念を習ったことがあると思います。

こういうと
「あー、知ってるよ。立法権、行政権、司法権ね。そうそう、国会、内閣、裁判所。それそれ。そんなの常識じゃん」
という答えが返ってきそうです。

しかし、三権分立というシステムは、長い人類の歴史からみると非常識かつ不効率なものであり、
「新規で特異な国家運営技術」
と位置づけられます。

前述のように、現代の日本社会に暮らしているわれわれは、三権分立による国家運営は当たり前のように思っていますが、つい200年前までは、三権は明瞭に分離させられることなく、江戸幕府という単一機関が立法権も行政権も司法権も独占して保持し、統一的な指揮系統の下にこれらを運用していました。

すなわち、江戸時代においては、江戸幕府を代表する将軍が
「御法度」
等の法律を作り、その名において徴税や治安維持や公共工事といった行政活動を行うとともに、民事の揉め事の解決や刑事裁判は将軍指揮下の奉行所において行われていました。

国家の運営の責を担う幕府側からみると、現代日本で採用されている三権分立システム、すなわち
「国家運営機能を無理矢理3つに分割し、それぞれ別の指揮命令系統で動かす」
などという代物は無駄の極みであり、ほとんど狂気の沙汰に映るのではないでしょうか。

以上のとおり、我が国の法運用システム一般についての壮大な話に脱線しておりますが、次回以降も、この点のお話を続けてまいりたいと思います。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.081、「ポリスマガジン」誌、2014年5月号(2014年4月20日発売)