00179_カネのマネジメント(5)_20131020

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
として、ガバナンス、ヒト、モノと続き、今回から、
「カネ」
という経営資源のマネジメント(ファイナンスマネジメント)についてお話しをしております。

5 カネのマネジメント(ファイナンス・マネジメント)に関わるお仕事の作法

(6)「カネ」の知ったかぶりは会社の生命を奪う(承前)

前回は、ファイナンスマネジメントの難しさと、失敗しないためのコツとして
「知ったかぶりをしない」
ということをお伝えしましたが、今回は、この続きのお話です。

前回
「そこら辺の社長よりはるかに頭のいい人が集まっている大学ですら、資金運用に失敗し、百億円単位の損失を出している状態ですから、一般の社長さんがやってうまく行くはずがありません」
と申し上げましたが、これは現実のデータとして存在します。

日本経済新聞(2011年3月5日朝刊)の報道によると、
「全国銀行協会は為替デリバティブ(金融派生商品)で多額の損失を抱えた中小企業を救済するため、同協会が運営する紛争解決機関の処理能力を大幅に拡充する『デリバティブ専門小委員会』を立ち上げ、月間で60件取り扱える体制を整備する。金融庁の調査では、2万社近い中小企業がデリバティブ取引で損失を抱えている」
などという状況があるようです。

また、少し前の話になりますが、世界的大企業であるヤクルトにおいても、財務担当副社長がプリンストン債なる実体の希薄な投機的な投資商品に手を出し、百億円単位の損失を出しました。

「経営者が稼いだ金でバクチにのめり込むと会社が傾く」
というのは昔からよくある話です。

時代が変わり、使われる言葉が
「博徒用語」
から
「難解な外来語や専門用語」
になり、賭場に誘い込む人間の素性も
「みるからにヤクザ者」
という風体の者から、
「高いスーツに高いネクタイをした品のよさそうな金融関係者」
になりました。

しかし、
「『実業を前提とせず、ラクに金儲けをしたい』という人間の心理を利用し、参加者を地獄に陥れる」
という本質に関して言えば、両者に大きな際は見いだせません。

いずれにせよ、健全な会社は、資金が余ったら、事業に対する投資を行うべきです。儲かったからといって、金にあかせてバクチにうつつを抜かす企業は早々に傾くことになるのはある意味必定と言えます。

(7)無責任な「節税」策に踊らされて、会社が危機に陥る

あと、
「企業がカネの問題でつまづいたケース」
としては、別にバクチで儲けてやろうと色気を出して失敗した、というわけではないものの、
「うまく節税しようとして、節税商品あるいは節税スキームに手を出して失敗した」
という例もよく聞かれます。

数年前、興行用の映画フィルムを使った節税商品等、民事組合のパススルーシステム(組合の損金を直接自己の損金として計上できる)を利用して、
「損金を買う」
仕組の商品が流行ったことがあります。

映画フィルム以外では、飛行機や船を使ったリース事業を行う組合を作り、やはりパススルー制と組み合わせて損金計上するような商品(レバリレッジド・リースと呼ばれます)もありました。

どれも
「机上の」
税務理論としてはよく考えられていて、一見すると、効果的な節税ができそうです。

しかし、こういう
「実体の希薄な商品を使った、税務行政にケンカを売るような強引な損金処理」
を税務当局が笑って受け入れてくれるほど世間は甘くありません。

案の定、どれも税務当局と大喧嘩に発展しています。

結論をいいますと、飛行機や船を用いたレバレッジド・リースは事業実体ありということで損金計上が認められ、最高裁もこれを容認しました。

映画フィルム債の方は、フィルムが事業のために用いられているような実体がないということで、最高裁は税務署の更正処分と過少申告加算税賦課処分を認める判断をしています。

こういう裁判所の判断だけを短絡的にみると、
「飛行機と船はOKで、節税できたからいいじゃいないか」、
なんて簡単に考えてしまいそうです。

しかしながら、税務署とのトラブルに巻き込まれた(最高裁までもつれこんだわけですから、事件に投入された時間やエネルギーや弁護士費用等はハンパなものではないでしょう)、という点では、飛行機や船のリース事業に参加した場合であっても相当シビアなリスクにさらされた、とみるべきです。

以上、企業がカネの問題で失敗した例として、資金運用での失敗に続き、無思慮な節税策で失敗するケースを紹介しておりますが、今回は、この辺にさせていただき、次回、企業が節税スキームで失敗するケースをまとめさせていただくとともに、
「担当者が企業のカネを扱う上での仕事の作法」
として、どのようなことに気をつけるべきか、という点を総括させていただきます。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.074、「ポリスマガジン」誌、2013年10月号(2013年9月20日発売)