00178_カネのマネジメント(4)_20130920

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
として、ガバナンス、ヒト、モノと続き、今回から、
「カネ」
という経営資源のマネジメント(ファイナンスマネジメント)についてお話しをしております。

5 カネのマネジメント(ファイナンス・マネジメント)に関わるお仕事の作法

(6)「カネ」の知ったかぶりは会社の生命を奪う

ファイナンスマネジメントについてのお話をさせていただいた際、
「“カネ”あるいは“カネ”に時間的要素を加えた“信用”といったものは、価値を極限にまで抽象化しているため、“カネ”や信用の取引・管理・運用は、“ヒト”や“モノ”といった経営資源の場合に比べて、技術的色彩が強くその運用は複雑で困難なものとなっており、これに比例してビジネス活動としての管理の重要性は増します」
と申し上げました。

ビジネスにおいて、知らないもの、判らないもの、あるいは感覚に合わないもの、というのは、たいていリスクであり、失敗する予兆です。

学問において、特定の理論や公式が理解できないのは、理解できない方に非があります。

しかし、ビジネスにおいては、成功する案件やトクをする事柄は、たいていシンプルで合理的であり、複雑で理解困難なことは、提供する側が混乱しているか、騙そうとしていることが原因、ということがほとんどです。

複雑で理解が困難なビジネス領域であるファイナンスマネジメントを行う際、最も重要なルールは、
「知ったかぶりをしない」
「判らなければトコトン聞く、調べる」
「トコトン聞いても、調べても判らなければ手を出さない」
ということです。

ところが、実際、たいていの会社や法人は、ファイナンスマネジメントの恐ろしさやファイアンスビジネスに関わる連中のいい加減さを理解せず、知ったかぶりをして、リスクの高いポジションを取らされ、気づいた頃には、地獄の一丁目に立っている、という例が少なくありません。

弁護士として、こういう光景に出くわすときがあります。

国内の比較的地味な低成長産業分野に属する企業で、社長には留学経験も高度なファイナンスを行った経験もないにもかかわらず、突如、妙な外来語を話し出し、また、それがとってつけたような話で、本質を理解しておらず、どこか地に足がついていないような印象を受ける。

そんなときは、企業はたいてい危険な徴候にあります。

企業において妙な外来語が飛び交う状況といえば、その会社が、妙な余剰資金運用をしようとしているときである可能性が高いと考えられます。

「デリバティブ」
「ヘッジ取引」
「モーゲージ債」
「ハイイールドボンド」
「サブプライムローン」
「SPC」
等といった耳慣れないコトバを社長や財務担当者が口にするようになったとき、会社が多額な損失を被りそうになっているか、あるいはすでに被っているときです。

金融機関は、非常に優秀な方が多く、いろいろな金融商品を開発し、提供してくれます。

無論、中には、緻密な理論を構築して、安全で高収益を生むような商品もありますが、すべての商品がまともであるという保証はありません。

デリバティブ、ヘッジ取引、ホニャララ債、ホニャララ投資スキームなどなど、言葉はいろいろありますが、いずれも元本が保証されず、値動きの仕組みがなかなか理解できず、しかも投機性が高い商品であり、あえて言うなら、過激なバクチです。

バクチというのは、客が必ず損し、胴元が必ず儲かるようになっています。

これらの投機的商品も、投資家がよほど値動きを注視し、勝ち逃げするタイミングをみていない限り、ケツの毛まで抜かれる仕組みになっています。

そして、参加者がどんなにつらい目に会っても、商品を紹介したり、商品を設計したり、商品を運用しているような人間(バクチで言うと、“胴元”や“合力”)は必ず儲かるようになっているのも特徴です。

リーマンショックのちょっと前から、大学が資産運用に色気を見せ始めるようになりました。

ただその結果といえば惨憺たるもので、K澤大学は190億円の損失、K応大学は179億円の損失、I知大学、じゃなかった、もとい、A知大学、N山大学、J智大学も軒並み100億円程度の損失を出しています。

他にも数十億円の単位で損失を出している大学が多数ありますが、その中でも、K奈川歯科大学では、損失問題から刑事事件にまで発展しました。

同校では、人事権を掌握する理事が、その権力を背景に、実体のない投資先に巨額の投資をし、業務上横領等で逮捕されています。

経営陣が逮捕されるという異常事態から、年間7億円の補助金も打ち切られかねないという状況に陥りました。

そこら辺の社長よりはるかに頭のいい人が集まっている大学ですらこの状態ですから、一般の社長さんがやってうまく行くはずがありません。

以上、今回は、ファイナンスマネジメントの難しさと、失敗しないためのコツとして
「知ったかぶりをしない」
ということをお伝えしました。

次回、このあたりのお話をもう少し具体的に突っ込んで解説します。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.073、「ポリスマガジン」誌、2013年9月号(2013年8月20日発売)