00177_カネのマネジメント(3)_20130820

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
として、ガバナンス、ヒト、モノと続き、今回から、
「カネ」
という経営資源のマネジメント(ファイナンスマネジメント)についてお話をしております。

5 カネのマネジメント(ファイナンス・マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)究極の無責任法人・株式会社(承前)

企業の資金調達方法についてお話をしておりましたが、その過程で、
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいい、出資を受ける側にとって魔法のようなお金がある」
という趣旨のことを申し上げました。

これは、株式という出資形態のことを申し上げているのですが、この説明の過程で、前回、株式会社の仕組みを簡潔に説明させていただきました。

(5)スポンサーに返さなくてもいいお金

前回仕組みを説明した株式会社ですが、
「この法人制度は、有限責任法人、すなわち無責任な組織であることが最大の特徴である」
と申し上げました。

そして、この株式会社が、出資を受ける際に、出資と引き換えに出資者に対して発行するのが、
「株式」
と呼ばれる権利です。

株式は、要するに、
「株式会社のオーナーシップ(支配権、所有権)」
です。

とはいえ、このオーナーシップは、自分専用のオーナーシップではなく、たくさんの方と共用することになります。

言ってみれば、
「自宅にある自分しかつかわないトイレ」
ではなく、
「トイレなしのアパートにある共用便所」
です。

使い方にルールがあるし、好きなときに好きなように使えるわけではないのです。

前回お話した株式会社の成り立ちに関するわかりやすい言い方として
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい」
と述べましたが、株式は、
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集め」
るために使われる道具です。

会社の経営に参加したいが、
「小銭」
しかもたない
「貧乏人」
は、
「『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組み」
を前提として出資に参加します。

このような前提から、株式は、会社の細分化された割合的単位(自宅の専用トイレではなく、アパートの共同便所の利用権)となり、かつ、
「会社がおかしくなっても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない」(自分専用のトイレではないので、フンづまって使えなくなっても掃除や修理しなくて放っておいていい)
という権利となります。

以上の状況について、
「日本語に難のある方々」
がよく使う言い方を用いて説明しますと、株式とは、
「株式の引き受け価額を限度として会社に対する出資義務を負うという有限責任であることを前提とした株式会社の支配権を、細分化された均一の割合的単位の形をとった権利」
ということになります。

株式会社は、
「小銭しか出さない(出せない)、無責任な、ゴミのような零細オーナー」
の集積で成り立っています。

この連中が、好き勝手に出資金を引き出したり、払い戻したりすることを許していますと、
「出資した連中は出資分をスるだけ」
という前提すら崩れてしまい、それこそ
「何でもアリ」
のスーパーミラクル無責任組織ができあがってしまいます。

そこで、この種の小銭しか出資しないオーナーには、
「責任を負わず、儲かったら分前がもらえる」
というメリットを与える反面、
「出資したカネは会社が解散するような状況でもない限り、原則、一切返金しない」
という建前を強要することにしたのです。

このような経緯から、株式として一旦出資したカネは、会社がつぶれるとき以外は、返ってきません。

といいますか、会社がつぶれるときは、たいてい債務超過になっているので、カネは一切かえってきません。

他方、会社としては、株式として集めたお金は、借金とは違い、返済をしなくていいお金として、自由に使えることになるのです。

では、昨日今日できたばかりの会社が、ネットやテレビCMや、あるいは証券会社を使って
「株主募集!」
と銘打ってカネ集めができるか、というとそういうわけには行きません。

こんなことをやると、金融商品取引法等に違反抵触してしまいます。

株式会社は、
「山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集める」
ために作られた法技術である、と申し上げましたが、実際このような
「カネのかき集め」
をできるのは、証券取引所から上場承認を得て、金融庁に有価証券届出書も提出するなどして、
「この会社はまともな事業をやっている」
ということを公的機関に確認されてから、ということになります。

多くの企業が株式公開を目指すのは、
「貧乏人から返済不要の小口のカネを集めて商売の元手にして、銀行に頭を下げずに自由に経営をしよう」
という目論見があってのことなのです。

とはいえ、最近では、株式公開にまつわる負担があまりに過酷で、
「四半期決算だの、内部統制だの、こんなにアホみたいな縛りが多いと、マトモに経営などやってられない。これだったら、銀行に頭下げておいたほうがマシ」
ということになり、苦労して株式公開した会社が、非公開会社に逆戻りする、という退嬰現象(MBOと呼ばれたりします)が散見されるようになっているのです。

株式制度の基本的説明が終わったところで、次回から、ファイナンス・マネジメントについての、より具体的なお話をさせていただきます。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.072、「ポリスマガジン」誌、2013年8月号(2013年7月20日発売)