00180_カネのマネジメント(6)_20131120

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
として、ガバナンス、ヒト、モノと続き、
「カネ」
という経営資源のマネジメント(ファイナンスマネジメント)についてお話しをしております。

5 カネのマネジメント(ファイナンス・マネジメント)に関わるお仕事の作法

(7)無責任な「節税」策に踊らされて、会社が危機に陥る(承前)

前回は、
「企業がカネの問題でつまづいたケース」
として
「うまく節税しようとして、節税商品あるいは節税スキームに手を出して失敗した」
という例についてお話しました。

その中で、飛行機や船を用いたレバレッジド・リースや映画フィルム債といったスキームをご紹介し、裁判所の判断として、
「飛行機と船はOKで、映画フィルム債は、事業のために用いられているような実体がないということで重加算税賦課処分を認めた」
というお話をさせていただきました。

そして、敗訴した映画フィルム債の場合は勿論そうですが、
「勝訴して裁判所が節税を認めてくれた、飛行機や船を使った節税スキーム」
についても、
「『税務署とのトラブルに巻き込まれた』という点で企業にとって大きな損失になった」
ということも併せて、お話させていただきました。

この種の
「節税商品」
を売る側は、
「節税プランは完璧です」
ということをセールストークとして声高に謳います。

ですが、売る側の金融機関は、売った後に顧客がどんな税務トラブルを抱えたとしても、
「損金計上できると判断するか、損金計上できると判断するとして、実際損金計上するかどうか等は、すべて自己責任だから、関知しない」
という態度を取るものです(もちろん、同情はしてくれたり、紛争対策のための税理士や弁護士を紹介してくれることはあっても、決して手数料を返したりはしてくれません)。

(8)「カネ」に関するお仕事の注意点

「いい話にはウラがある」
という警句は、実に的を得たものであり、たとえ売り込む側が、仕立てのいいスーツを着て、高価なネクタイをぶら下げ、学歴が高く、名の通った金融機関に勤めていても、金融に関する案件で、売る側のセールストークを鵜呑みにするととんでもないトラブルに巻き込まれる可能性があるのです。

先ほど述べた
「節税商品スキーム」
というものについて言えば、どんなに外来語や専門用語が散りばめられ、横文字で大層な商品名が書いてあったとしても、会社が購入するのは、シンプルに言えば
「税務当局とのケンカの種」
に過ぎません。

フツーに商売するのですら困難な時代に、税務当局と大喧嘩して、企業がまともに生き残れるほど甘くはありません。

また、これほどまでに運用が困難な時代に、
「リスクが少なく、リターンが大きな、安全な投資」
などありえませんし、仮にそういうものがあっても、
「資産といってもほどほどの額しかなく、金融に関する知識にも乏しい、そこらへんの一般企業」
のところには決して回ってきません。

一般的に申し挙げて、
「余剰資金運用や節税にエネルギーを使う企業」
は、
「健全な成長・発展してきちんと納税する企業」
との比較において、短命と言えます。

企業が
「一発逆転」
を狙って自分の頭脳で理解できない利殖商品に手を出したり、何度聞いてもよくわらかない節税商品に手を出すのは、方向性としても、実際問題としても大きなリスクがあり、企業生命を危うくするものと考えられるのです。

おカネないしファイナンスというものは、サイズが大きくなっていくにつれ、その価値の構成や仕組が抽象化され、時間やリスクというファクターが複雑に組み合わさっていき、どんどん理解が困難な代物になっていきます。

また、
「銀行は、晴れた日に傘を貸して、雨が降ったら取り上げる」
などと言われますが、おカネを扱う方の品性や野蛮さは、着用しているスーツの品のよさや学歴の高さと見事に反比例しています。

無論、これは褒め言葉です。

「百獣の王と呼ばれ、動物の世界で頂点に立つライオン」
が、知的で、狡猾で、慎重で、自己中心的で、冷酷で、残忍であるように、
「金融資本主義が高度化した現代において、経済社会の頂点に立つ、金融関係者」
も、強靭で、知的で、狡猾で、慎重であることは当然です。

金融のプロからみれば、
「知ったかぶりで、無防備な企業の社長」
をひねりつぶすなどいとも簡単なのです。

バブル期の不動産担保ローン、変額保険、高額会員権、為替デリバティブ等、
「カネの知識のない一般企業」
が銀行や金融機関によって経済生命を奪われた例は枚挙に暇がありません。

「身の丈を知る」
という言葉がありますが、実業に徹し、ラクをすることを考えず、慎重かつ保守的に行動し、理解できないものには手を出さず、手を出すなら売る側の金融機関担当者を上回るくらいきっちり勉強して、諸事疑ってかかれば、おカネやファイナンスで失敗することはありません。

以上のとおり、おカネにまつわる仕事をする際は、おカネやファイナンスの難しさや、おカネやファイナンスをとりまく人間のずる賢さや恐ろしさといったものを適切に理解し、勉強を怠らず、慎重に行動していくことが求められるのです。

以上で、ヒト、モノ及びカネにまつわる仕事の作法についてのお話を終わります。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.075、「ポリスマガジン」誌、2013年11月号(2013年10月20日発売)