00170_モノのマネジメント(6)_20130120

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
についてお話しております。

前回から、製造現場や委託先の管理をどのように遂行していくか、という点について述べております。

4 モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)現場や製造委託先との関係構築について ~続~

今回は、前回の続きとして、製造現場の管理を行う上での組織デザインや管理手法の詳細についてお話して参りたいと存じます。

ク 賞味期限改竄事故防止のための性悪説及びリスク・アプローチによるコンプライアンス体制構築例

ここで、賞味期限改竄事故を防止する観点から菓子製造業におけるコンプライアンス体制構築が行われた例を紹介したいと思います。

今から5年ほど前、ある老舗和菓子メーカーで、賞味期限改竄事件が発生しました。

この事件ですが、
「夏場に製造日と消費期限を偽ったことがある」
という内部告発が某保健所に届き、その結果、JAS法(食品の品質表示などを定めた農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)違反容疑で、農水省と保健所による立ち入り調査が行われました。

農水省によると、当該メーカーは出荷の際余った餅を冷凍保存して、解凍した時点を製造年月日に偽装して出荷していた、とのことでした。

偽装は、未出荷のものもあれば、配送車に積んだまま持ち帰ったものもありました。

さらには回収した餅を、餅(もち)と餡(あん)に分けて、それぞれ
「むき餅(もち)」
「むき餡(あん)」
と称して、自社内での材料に再利用させたり、関連会社へ原料として販売していた事実も発覚しました。

偽装品の出荷量は、3年間、約600箱(総出荷量の約18%)に上り、これ以外の期間にも日常的に出荷していたことが判明し、メーカー側も記者会見にて、
「売れ残った商品を、製造日を偽装して再出荷」
したことを認めるに至りました。

圧倒的知名度をもつ人気商品だっただけに、当時社会が受けた衝撃は大きく、連日、事件の詳細が報道されました。

筆者個人としては、この和菓子メーカーは、潰れるか、どこかに買収されてしまうと考えていましたが、コンプライアンス体制構築に成功し、見事、自主再生されました。

その際、当該メーカーが採用したコンプライアンス体制は、性悪説及びリスク・アプローチを徹底した見事な内容であり、今後、自己予防マネジメントの模範となるべきものと考えますので、具体例として紹介して参りたいと存じます。

第1 製造管理におけるコンプライアンス

1 生産能力内の受注の徹底

「営業・販売サイドの強い圧力により、受注能力を超過したものを、回収品の再利用や賞味期限改竄によって納品する可能性」
が事故につながると認識し、このような操業の動機・背景を絶つべく、計画生産・計画受注を徹底し、営業・販売サイドによる受注能力を超過した納品要求をなくす。

この種の不祥事企業においては、原因を曖昧にしたまま、中途半端な改善策に終始し、何度も不祥事を繰り返すところが少なからず存在するようです。

しかしながら、当該メーカーにおいては、営業・販売サイドの圧力によって
「生産能力を超えた受注」
を受けており、これが原因となって無茶な操業がされていた、という原因事実がきちんと把握され、コンプライアンス体制に反映されています。

2 物流数値管理の厳格化

「本来廃棄すべきものが、廃棄されず、再利用されることが大きな問題である」
との認識に立ち、担当各部の物流数値を厳格に管理することにより、回収品再利用の厳しい監視の目を光らせる。

・生産部=生産数と廃棄数の管理・誤差検証の厳格化

・生産管理部=受払数・廃棄品数の管理・誤差検証の厳格化

・販売部=販売数・回収数の管理・誤差検証の厳格化

前回、
「漫然と現場を信頼することは管理放棄につながりかねない状況となっている」
「モノ作りを管理するという仕事に限っては、常に操業効率化を優先する現場や委託先においては回収品の再利用や賞味期限改竄を行う等の法令その他各種規範違反を冒す誘惑と危険が存在する」
ということを述べましたが、このような性悪説に立脚した、徹底したリスク・アプローチによる不祥事予防のための科学的・合理的体制が構築されています。

以上、賞味期限改竄事故防止のための性悪説及びリスク・アプローチによるコンプライアンス体制構築の詳細実務の具体例として、賞味期限改竄事件を発生させた老舗和菓子メーカーのモデルを優良先行事例として一部ご紹介し、コメントして参りました。

次回は、引き続き、同モデルの紹介と解説をして参ります。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.065、「ポリスマガジン」誌、2013年1月号(2012年12月20日発売)