00171_モノのマネジメント(7)_20130220

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
についてお話しております。

前回から、製造現場や委託先の管理をどのように遂行していくか、という点について述べております。

4 モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)現場や製造委託先との関係構築について ~続

今回も、前回の続き賞味期限改憲事故を乗り越え再生に成功したある和菓子、製造メーカーの、性悪説及びリスク・アプローチを徹底した事故予防マネジメントのモデルを具体的に見て参りたいと思います。

第1 製造管理におけるコンプライアンス(承前)

賞味期限を越えて売れ残り、回収された不良在庫は、安全上・衛生上、本来廃棄されるべきものである。
しかし、製造現場に回収品廃棄をもゆだねると、操業効率を安全・衛生より優先させてしまい、廃棄品の再利用につながる危険がある。
そこで、このような事態を防ぐため、指揮系統や処分実施責任を製造現場から分離し、独自のラインで処理させる。
・未出荷品・店頭回収品の廃棄品の処分と処分管理は、製造部門ではなく、経営管理部門のライン下の廃棄品管理部が実施。
・廃棄品管理は、外部委託とし、製造現場の手に触れさせない。
・廃棄委託者(外部)から廃棄証明を提出させる。

このルールも、現場を一切信頼せず、リスクアプローチを徹底させています。

「食品を作っている責任者にゴミを吸わせると、責任者は、食品とゴミを区別せず、目先の納品要求に応えようとして。廃棄されるべきゴミを、ついつい食品として詰め込んでしまう」
という、人間の弱さ・卑劣さを直視した上で、
「食品を扱う人間には、ゴを扱わせない」
という単純なルールを作ることによって、この問題を解決しています。

そして、食品製造のラインから、廃棄作業を切り離し、外部委託するとともに、マニフェスト(廃棄証明)まで微求する、という徹底ぶりも見事です。

第2 製造日付管理

各パッケージ毎に適正な製造日付を刻印する。
菓子の場合、パッケージが、
・商品そのもの、
・折り箱、
・折り箱を包装した外装、
という形で重層化されている。
この際、
「折り箱を包装した外装のみ」

に賞味期限を刻印すると、古くに製造された商品が、新しい賞味期限を表示した外装に混在しても顧客には判別できなくなる。
そこで、以上の3つすべて、日付押印するものとする。
また、日付は、製造日付押印とし、各包装完了日に押印することを徹底する。

この管理の徹底ぶりも参考になります。

「個包装部分に製造日付を刻印せずに、外装や折り箱だけに日付刻印をすると、賞味期限が到来して”ゴミ”になったものを、ついつい詰め込んで帳尻をあわそうとする」、
という現場の心理を完全に把握し、これをコントロールしようとしています。

また、顧客へのさりげないアピールも注目すべきポイントです。

顧客としても、個包装部部分に製造日付や賞味期限が刻印されている状況をみると、
「これはゴミか食い物か」
「大丈夫か」
という疑心暗鬼が解消され、安心して食べることができます。

第3 有害設備の廃棄

回収品の保管・分解・再利用の事故につながる、冷凍設備、解凍設備、関連操業品をすべて廃棄する。

前提として、
「生の和菓子を作る工場において、冷凍設備、解凍設備、関連操業品があった」
というのも衝撃的ですが、実際、そういう事実があった以上、この会社はこれを正面から見据えて、対策を取りました。

冷凍設備、解凍設備、関連操業品は、さぞや高価なもので、おそらく減価償却も未了で、
「もったいない」
という気持ちはあったでしょう。

しかし、
「こういうものがあるから、現場はこれを使ってしまうんだ。ここは潔く廃棄してしまえ」
という果断な行動に踏み切ったのは、コンプライアンスの観点で高く評価されるものです。

以上、賞味期限改竄事を発生させて危機に陥った後、見事に再生を果たした老舗和菓子メーカーのコンプライアンスモデルを優良先行事例として紹介し、コメントして参りましたが、次回は、引き続き、同モデルの紹介と解説を終え、モノ作りのお仕事を総括して参る予定です。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.066、「ポリスマガジン」誌、2013年2月号(2013年1月20日発売)