00166_モノのマネジメント(2)_20120920

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
についてお話しております。

4 モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)に関わるお仕事の作法

(2)これからのモノつくりの方向性

ア 大量生産・大量消費時代の終わり

前回申し上げたとおり、日本においては、
「インフレ経済を前提とした高度成長時代」
から
「デフレ経済を前提としたモノ余り、低成長時代」
に突入し、また、外に目を向ければ、大量かつ安価な労働力を引っさげた新興国が強力な価格競争力で日本に勝負を挑んでいる状況です。

一昔前まで日本のお家芸であった、
「大量消費(販売)を前提とした大量生産」
はまったく機能しなくなりました。

また、
「規制緩和」
という行政システムの大きな変化に伴い監督官庁の保護育成が期待できなくなり、業界同士の横のつながりも、独禁法の運用強化に伴って完全に分断されつつあります。

ここで、日本のメーカーは、大量消費を前提とした大量生産から脱却し、ユニークなデザインや、機能面で特徴を備えた、高付加価値の商品を作り、巻き返しを図ろうとします。

しかしながら、ここにも大きな壁が立ちはだかります。

イ コモディティ化とガラパゴス化

コモディティ化(commoditization)という言葉があります。

これは、
「所定の製品カテゴリー中の製品において、メーカー毎の機能差や品質差が不明瞭化し、総じて均質化していき、消費者の認識上、メーカーの特異性が認識されなくなる」
という現象です。

コモディティ化が起こると、消費者が
「より安い商品」
を求める以上、これが市場原理としてメーカー側により安い商品を投入させる圧力として働き、企業収益を圧迫することになります。

世界が単一市場化し、グローバル競争が恒常化した今日、日本のメーカーは、圧倒的なコスト競争力を有する新興国と勝負しなければならず、しかも、情報が瞬時に世界をかけめげる現代においては、機能差や品質差はあっという間に解消します。

これを敷衍すると、
「現代産業社会においては、すべての商品はコモディティ化する」
という命題が導かれます。

こういったコモディティ化回避の企業戦略としては、多機能化、高付加価値化、ブランド化といった差別化戦略がありますが、
「過剰に機能を追加したり、独自仕様を追求すればそれで問題解決」
というものでもありません。

差別化・独自化も一歩間違えると、ガラパゴス化(Galapagos Syndrome)するリスクが出てきます。

ガラパゴス化とは、進化論におけるガラパゴス諸島の生態系をもじったもので、
「孤立した環境(日本市場)における最適化が仇となって、却ってグローバル仕様との互換性を喪失し、孤立化して進化から取り残され、海外から適応性(汎用性)と生存能力(低価格)を備えた外来種が侵入してくると、たちまち駆逐され、遂には淘汰されてしまう」
という現象です。

今や
「ガラケー(ガラパゴス携帯電話)」
と一般用語化した“機能てんこ盛り”の携帯電話、一昔前の例で言いますと、パソコンの日本独自機種であるPC-9800シリーズ、さらに、カーナビ、非接触ICカード等、ガラパゴス化によって戦略優位を喪失した日本の事業分野は少なくありません。

ウ 価格とグローバル品質とスピード

以上を前提とすると、今後の企業としてのものつくりの方向性が見えてきます。

キーワードとしては、価格と品質とスピードです。

「能率競争、すなわち、価格と品質の両面における競争力をもたないと、製造業として生き残れない」
ということは、今更言うまでもありません。

ここで注意すべきは、
「価格」

「品質」
は、ローカルで競争力があってもダメで、グローバル市場を想定した競争力がないと生き残れない、という点です。

すなわち、今までは、価格競争力といっても国内のライバルだけを意識しておけばよかったところ、今や、中国やインドから廉価な製品がどんどん流入してきますし、品質についても、ローカルな特異性を追求していると、ガラパゴス化してしまい、ある日突然、グローバル規格に駆逐されてしまいます。

したがって、現代産業社会においては、価格も品質も、常にグローバル市場を意識することが求められます。

加えて、事業展開のスピードが絶対的に必要となります。

前述のとおり、
「すべての商品はコモディティ化する」
という現実があります。

品質において圧倒的優位性ある商品であっても、コモディティ化の脅威には勝てない以上、
「コモディティ化する前に、魅力的で高品質の商品を開発し、圧倒的スピードで提供し続ける」
ということによってしか企業は生き延びられなくなっています。

以上の要素をすべて併せ持つ理想的な企業が、iPhone、iPadで有名なアメリカのアップル社です。

かつてはソニーを模範としてきたアップルですが、グローバル市場で受け入れられる魅力的商品を提供し、かつ、価格に対する主導権を常に持ち続けて、急成長を遂げ、いつの間にかソニーを追い越し、今や、世界の産業界におけるリーダーとして君臨しています。

現在苦境にある日本のメーカーが過酷なグローバル競争を生き残るためには、アップル社の方向性(理念、哲学、戦略、戦術)に学ぶところが大きいのではないでしょうか。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.061、「ポリスマガジン」誌、2012年9月号(2012年8月20日発売)