00030_国防や軍事に関する議論の前に_20090920

国防や軍事に関する議論に関して以前から感じたことを述べたいと思います。

私個人としては、日本の国防や軍事については、強化(ないし維持)・放棄(ないし削減)の両論ありうるところだと思います。

軍事力を放棄するというのは非現実的だと思いますが、他方、徴兵などは御免被りたいところですから。

この種の議論は正解というものが存在しない類のものであり、したがって、議論においては
「結論」
より
「適正なプロセスがふまえられること」、
すなわち
「議論に参加する者が正しい情報を有し、タブーのないオープンな議論がなされること」
が重要となります。

ところが、国防や軍事について議論しようとしても、報道機関の行う報道に意図的な内容ないし実体の偽装がなされており、我々国民一般に
「正しい議論の前提たる正しい情報」
が届いていないという状況があります。

例えば、こういうニュースを例にとって検証してみます。

「防衛相、新日米安保宣言を提案 自衛隊派遣一般法へ布石
浜田靖一防衛相が2月に訪日したクリントン米国務長官と会談した際、対テロなど世界規模の課題や台頭する中国に対する日米協力強化を念頭に、新たな日米安保共同宣言の策定に向けた協議を提案していたことが分かった。複数の政府関係者が16日、明らかにした。米側は回答を保留した。防衛省は日米安保条約改定50年に当たる来年の発表を模索している。・・・・・・」(2009/04/17 02:07 【共同通信】)

しかし、これでは、正直いってまったく実体や背景が理解できず、報道本来の役割が果たされたとはいえません。

前述のニュースを読む場合、
「自衛隊→日本国軍」
「日米安全保障条約→日米軍事同盟」
「防衛省→国防相」
「防衛大臣→国防大臣」
「(米)国務長官→外務大臣」
といった形で、意味不明な言葉を、実体を正確に表す言葉に言語変換し、

「国防大臣、新日米軍事同盟宣言を提案 日本国軍派遣一般法へ布石 浜田靖一国防大臣が2月に訪日したクリントン米外務大臣と会談した際、対テロなど世界規模の課題や台頭する中国に対する日米軍事同盟強化を念頭に、新たな日米軍事同盟共同宣言の策定に向けた協議を提案していたことが分かった。複数の政府関係者が16日、明らかにした。米側は回答を保留した。国防省は日米軍事同盟条約改定50年に当たる来年の発表を模索している。・・・・・・」


「翻訳」
することにより、はじめて報道されるべき事実関係や実体が正確に理解できるようになります。

ちなみに、日本国内では、自衛隊の英訳として
「Self Defense Force(自衛軍)」
と表記が使われますが、これは、ナイターやマンションとかと同じ日本ローカルでしか通用しない一種の和製英語で、日本以外での報道や書籍では、海空自衛隊がそれぞれ
「Japanese Army(日本陸軍)」
「Japanese Navy(日本海軍)」
「Japanese Air Force(日本空軍)」
と表記・呼称されるのが通例とされます。

塩野七生著「ローマ人の物語」
の中で、ユリウス・カエサルが語ったものとしてこんな言葉が紹介されています。

「文章は、用いる言葉の選択で決まる。日常使われない言葉や仲間うちでしか通用しない表現は、船が暗礁を避けるのと同じで避けなければならない」

特定の思想傾向をもった特定の集団に配慮してか、あるいは単に国語能力が低いせいか、国防や軍事に関する報道については、事実を正確に伝達すべき報道機関が本来の役割を完全に放棄してしまっています。

この現状を改善しない限り、国民が国防や軍事や憲法9条問題に関する正しい議論をすることは永遠に不可能となるのではないでしょうか。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.025、「ポリスマガジン」誌、2009年9月号(2009年9月20日発売)

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