00262_ケーススタディ_「忙しかった」は禁句_保全処分に見る、「ファッション弁護士」と「サムライ弁護士」の決定的な違い

「忙しい」
という言葉は、ビジネスマンにとって便利な免罪符になりがちです。 

しかし、こと
「権利の救済」
を預かる法務の現場、特に
「保全処分」
のような緊急案件において、その言葉は
「職務放棄」
と同義になります。 

本記事では、手続きの遅れに対する厳しい叱責を通じて、資格を単なる
「ファッション(飾り)」
と捉えるか、顧客を守る
「刀(武器)」
と捉えるか、プロフェッショナルとしての在り方を問います。

<事例/質問>

先生、現在進行中の
「仮処分(保全処分)」
の申立準備についてご報告とご相談です。

クライアントが、競合他社から特許権侵害の警告を受け、逆に相手方の営業妨害行為を止めるための仮処分を申し立てる件です。

当初、今週中に申立書を起案する予定でしたが、他の顧問先からの契約書チェックや、定例会議の準備などが重なり、正直なところ手が回っておりません。 

物理的に時間が取れないため、申立書のドラフト提出を
「来週いっぱい」
まで延期させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?

クライアントには
「慎重に検討している」
と伝えておけば、待ってもらえると思います。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その考え方では、弁護士(あるいは法務のプロ)への道は、遥か彼方に霞んで見えません。

結論から言います。 

「保全処分の準備で一週間もかかっていたら、懲戒ものです」

あなたには、プロとしての
「時間感覚」

「使命感」
が決定的に欠落しています。 

その理由を、救急医療とサムライのアナロジーで説明しましょう。

1 「保全処分」は「救急救命室(ER)」である

まず、法律用語の理解が甘すぎます。 

「保全処分(仮処分)」
とは、通常の裁判(本訴)を待っていては、権利が回復不可能な損害を受ける恐れがある場合に行う、 
「超・緊急措置」 
です。

医療で言えば、 
「大動脈が切れて血が噴き出している患者」 
が運び込まれてきた状態です。

それに対して、あなたは 
「他の患者さんの風邪薬の処方(契約書チェック)で忙しいから、止血手術は来週に回します」 
と言っているのと同じです。 

患者(クライアント)は死にます(倒産するか、取り返しのつかない損害を被ります)。

「それだけ、顧客の権利侵害状態が放置されている」 
という事実の重みを、全く理解していません。

2 「忙しかった」は、大学生の言い訳

「忙しかった」? 

それがどうしましたか。

それは、サークルの飲み会の幹事を忘れた 
「大学生の言い訳」 
です。 

あるいは、宿題を忘れた小学生の言い訳です。

人の権利、財産、時には命を預かる 
「プロのサムライには許されない」
言葉です。

クライアントは、あなたの
「忙しさ」
にお金を払っているのではなく、
「危機の解決」
にお金を払っているのです。 

プロであれば、寝る間を惜しんででも、他の案件を調整してでも(あるいは他の弁護士に土下座して手伝ってもらってでも)、期限に間に合わせるのが当然です。

3 「ファッション」か「サムライ」か

こういう極限状態での対応にこそ、その人が何のために資格を取ったのか、その本性が現れます。

あなたは、 
「ファッションアイテムとしての弁護士バッジ」 
が欲しくて、司法試験を目指したのですか? 

「先生」
と呼ばれて、チヤホヤされたいだけのアクセサリーですか?

それとも、 
「正当な権利が侵害されて苦しんでいる方を、サムライとして『法』という刀を使って救済しよう」 
という、高邁な理想と志に燃えて、その資格を手にしたのですか?

もし後者(サムライ)なら、主君(クライアント)が斬られそうになっているときに、 
「刀を研ぐのに一週間待ってください」 
などと悠長なことは言わないはずです。 

錆びた刀でも、素手でも、今すぐ割って入るのがサムライです。

4 結論

甘ったれたことを言っていないで、 
「とにかく、週明け朝一で用意すること」 
です。

徹夜でも何でもして、死ぬ気で書き上げてください。 

それができないなら、バッジを外して、ファッションモデルにでも転職することをお勧めします。

著:畑中鐵丸

00261_ケーススタディ_「名目」という名の皮を捨て、「実利」という果実を喰らう_離婚条件闘争における“トータル・パッケージ”の魔術

交渉において、
「相場」


という壁にぶつかり、膠着状態に陥ることはありませんか? 

特に、離婚における養育費や、ビジネスにおける損害賠償など、公的な
「算定表」

「相場」
が存在する場合、正面突破は困難です。 

しかし、プロの交渉人は、数字の
「ラベル(名目)」
を巧みに貼り替えることで、相手を納得させつつ、トータルの実利を最大化します。 

本記事では、離婚協議の現場を舞台に、
「名目」
を捨てて
「実利」
を取る、トータル・パッケージ交渉術の極意を解説します。

<事例/質問>

先生、離婚協議の戦略についてご相談です。

私は現在、夫(会社経営者)との離婚協議を進めています。 

夫は離婚自体には同意していますが、金銭条件、特に
「養育費」
について激しく対立しています。

夫は、 
「裁判所の『養育費算定表』によれば、俺の年収なら月額〇万円が相場だ。それ以上は1円たりとも払わない」 
と、頑として譲りません。

しかし、夫の年収やこれまでの生活レベル、そして子供(私立に通っています)の教育費を考えると、算定表の金額では到底足りません。 

私が
「実情を見てほしい」
と訴えても、夫は
「基準通りにするのが公平だ」
の一点張りで、話が平行線です。

夫にはそれなりの資産(預金や不動産)がありますが、養育費の月額に固執するあまり、話が進みません。 

この
「算定表の壁」
を突破して、子供のために少しでも有利な条件を引き出すには、どうすればよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

交渉において、 
「堅牢な城門(算定表の基準)」 
を、素手で殴り続けても、拳が砕けるだけです。

ご主人のおっしゃる
「裁判所の基準(算定表)」
というのは、実務上、非常に強力なものです。 

裁判所に行けば、十中八九、その基準に近い数字で決着してしまいます。 

つまり、この土俵で
「月額を上げろ」
と戦うのは、 
「重力が支配する場所で、空を飛びたいと願う」 
ようなもので、極めて分が悪い戦いです。

しかし、嘆く必要はありません。 

交渉のプロフェッショナルから見れば、 
「月額(フロー)」 
で勝てないなら、 
「総額(ストック)」 
や 
「条件(ターム)」 
で勝てばいいだけの話です。

お金には色はついていませんし、 
「養育費」
という名前の1万円札も、 
「財産分与」
という名前の1万円札も、 価値は同じです。

視点を変えましょう。 

「名目」
という名の皮を相手に与え、
「実利」
という名の果実をこちらがいただくのです。

1 「全体としていくらもらうか」というトータル・パッケージ思考

まず、 
「月額いくらか」 
という一点突破の思考を捨ててください。 

考えるべきは、 
「離婚に伴う清算として、トータルでいくら財布に入れるか」 
です。

離婚にまつわるお金には、主に以下の3つのポケットがあります。

• A:養育費(月額・未来の分割払い)

• B:財産分与(一括・過去の清算)

• C:慰謝料(一括・精神的苦痛の対価)

ご主人は
「A(養育費)」
の基準にこだわっています。 

ならば、Aについては、 
「わかりました。あなたの言う通り、基準に従いましょう」 
と、負けたふりをして譲歩するのです。

その代わり、 
「その分、これまでの私の内助の功や、離婚による精神的苦痛の清算として、B(財産分与)やC(慰謝料)の色を付けてください」 
と、別のポケットから回収するのです。

ご主人としては、 
「自分が主張した基準(A)が通った」 
という満足感(メンツ)が得られます。 

こちらは、名目はどうあれ、 
「手元に入る現金が増える」 
という実利が得られます。 

2 「期間」と「特約」という隠れたレバレッジ

次に、金額だけでなく、
 「時間軸」 
を操作するテクニックです。

もし、月額の数字が動かせないなら、 
「支払う期間」 
を延ばせばいいのです。

例えば、通常は
「20歳まで」
のところを、 
「大学卒業(22歳)まで」 
とするだけで、支払総額は2年分(24ヶ月分)増えます。 

月額5万円なら、120万円の増額と同じ効果です。

また、 
「学校にまつわる費用(入学金や授業料)は別途負担する」 
という特約を入れるのも手です。 

これは、見かけ上の月額養育費は低く抑えつつ、実質的な負担をご主人にさせる、極めて合理的な 
「実利取り」 
の手法です。

「月々の支払いは安く済んだ」 
とご主人を安心させておきながら、将来発生する巨額のキャッシュアウト(学費)を約束させる。 

これは、まさに 
「朝三暮四」 
の故事を逆手に取った、賢い交渉術です。

3 「妥協」を「武器」に変える

この戦術の肝は、
「私はここで妥協しましたよ」 
というポーズを最大限に見せつけることです。

「養育費については、あなたの言う基準を受け入れました。私は泣く泣く譲歩しました。だから、財産分与のこの部分については、私の要望を飲んでください」
と迫るのです。 

交渉において、 
「一方的な勝利」 
は恨みを買いますが、 
「痛み分け(に見える取引)」 
は合意を生みます。

4 結論

「養育費」
というラベルにこだわる必要はありません。 

相手がこだわる
「基準」
は守らせてあげて、その分、 
「財産分与」
 や
 「解決金」 
といった、基準が曖昧で調整しやすい項目で、ガッツリと実利を回収してください。

相手には
 「勝ったつもり」 
になってもらい、こちらは 
「実質的な果実」 
を懐に入れる。 

これが、大人の交渉における、最も洗練された 
「勝利の方程式」 
です。

※本記事は、実際の法律相談や交渉実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00260_ケーススタディ_「敗戦の領収書」という名のラストオーダー_裁判費用の請求書が届いたときの“正しい諦め方”

裁判に負けた後、相手から
「訴訟費用」
を請求されると、
「相手の弁護士費用まで払わされるのか?」
と青ざめる経営者がいます。 

しかし、日本の裁判制度において、その心配は(原則として)杞憂です。 

本記事では、敗訴後に届く
「訴訟費用額確定の申立書」
の正体と、それが実は
「恐るるに足らない少額の経費」
に過ぎない理由を解説し、スマートな敗戦処理の作法を伝授します。

<事例/質問>

先生、先日判決が出た「敗訴案件」について、嫌な書類が届きました。

当社は、元提携先との契約トラブルで訴えられ、残念ながら全面敗訴しました。 

判決に従い、損害賠償金はすでに支払ったのですが、本日、相手方代理人より 
「訴訟費用額確定の申立書」 
なる書類が裁判所に提出され、その副本が当社に送られてきました。

「訴訟費用は被告(当社)の負担とする」
という判決文言は見ていましたが、これはまさか、 
「相手方が雇った高い弁護士費用まで、全部こちらが払わなければならない」 
ということなのでしょうか?

負け戦のあとに、さらに法外な請求が来るのかと思うと、夜も眠れません。 

これは支払わなければならないのでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

社長、ご安心ください。 

その請求書は、 
「高級フレンチのフルコース代金(弁護士費用)」 
の請求ではありません。 

単なる 
「ファミレスのドリンクバー代(裁判所の利用実費)」 
の請求に過ぎません。

結論から申し上げます。 

「額はたかが知れています。四の五の言わず、さっさと支払って、悪夢を終わらせましょう」

その理由を、日本の裁判制度というゲームの
「課金システム」
に従って、紐解いていきましょう。

1 「訴訟費用」とは「場所代」に過ぎない

まず、言葉の響きに怯えてはいけません。 

法律用語でいう
「訴訟費用」
とは、 
「裁判所という国の機関の利用料」 
のことを指します。

具体的には、
• 裁判所に納めた印紙代(手数料)
• 切手代(郵券)
• 証人の旅費・日当 
といった、
「実費」
の合計です。

要するに、 
「国営のケンカ闘技場(裁判所)を使うのにかかった入場料と電気代」 
のようなものです。 

負けた側が、この
「場所代」
を負担するのは、敗者のマナー(判決による義務)としてあきらめましょう。

2 日本の裁判は「負けても地獄ではない」

社長が一番恐れているのは、 
「相手の弁護士費用」 
でしょう。 

しかし、ここに日本の法制度の
「慈悲」
があります。

日本の法律制度においては、原則として
「弁護士費用」
は負けた側に負担させることはありません(ただし、例外はあります)。

これは世界的に見ても特徴的なルールです(アメリカなどとは異なります)。 

相手がどんなに高名で高額な弁護士を雇っていようが、何千万円払っていようが、それは相手の勝手です。 

「贅沢な武器(高い弁護士)」
の代金まで、敗者が負担する必要はないのです。

ですから、今回請求されているのは、 
「実際は印紙代プラスαのみ」 
であり、企業取引の規模からすれば、おそらく 
「額としては妥当なもの(微々たるもの)」 
に収まっているはずです。

3 「敗戦処理」の美学

この申立書が来たということは、 
「もう戦争は終わりましたよ。あとは清掃費だけ払ってください」 
という合図です。

これに対して、 
「1円でも払いたくない!」 
と抵抗するのは、見苦しいだけでなく、時間の無駄です。 

計算式が決まっている以上、 
「裁判所によってもこの請求は認められる」
 のは確実であり、抵抗しても 
「支払いに応じるほかない」 
のが現実です。

4 結論

この請求書は、長い戦いの 
「手切れ金」 
としては、格安です。

これを支払うことで、この不愉快な事件との縁が、法律的にも、経済的にも、完全に切れます。 

さっさと振り込んで、明日の商売のことを考えましょう。 

それが、経営者としての、最も生産的な 
「損切り」 
です。

著:畑中鐵丸

00259_ケーススタディ_「正義」は金で買えるか?_「100万円の被害」を「200万円かけて」取り戻す“法的喧嘩”の不都合な真実

「悪いことをされたのだから、裁判で訴えれば、損害を取り戻せるはずだ」 
そう信じて疑わない経営者や法務担当者は少なくありません。 

しかし、日本の民事裁判の実態は、被害者にとって
「残酷なまでに冷淡」
なシステムであることがあります。 

本記事では、少額の損害賠償請求を巡る攻防を通じて、
「裁判」

「投資」
として捉えることの危険性と、プロの弁護士が考える
「喧嘩の作法」
について解説します。

<事例/質問>

先生、至急、訴訟の準備をお願いしたい案件があります。

当社(仮称:株式会社コスミック・ソリューションズ)は、元取引先の代表者(個人)に対して、業務委託費の前払い金など約100万円の損害賠償を求めています。 

相手は、のらりくらりと支払いを逃れており、誠意のかけらも見られません。

詐欺を念頭に警察に相談しましたが、
「民事不介入」
を盾に動いてくれず、刑事告訴は厳しい状況です。 

刑事事件化をチラつかせて示談で回収するプランが崩れた今、民事訴訟で白黒はっきりさせたいと考えています。

ついては、以下の点について教えてください。

1 民事訴訟を起こした場合の勝算と、回収の見込み。 
2 正直、100万円を取り戻すのに高額な弁護士費用はかけられません。できるだけ安く(成功報酬のみなど)お願いできないでしょうか? 
3 損害賠償請求の相場は、実損の100万円程度という認識でよろしいでしょうか?

相手の不誠実な態度が許せません。法的な正義の鉄槌を下してください。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

社長、お怒りはごもっともです。 

しかし、冷水を浴びせるようで恐縮ですが、プロの法律家として、残酷なまでの
「現実」
をお伝えしなければなりません。

結論から申し上げます。 

「投資対効果(ROI)を考えるなら、泣き寝入りをして、その時間とエネルギーで株や金(ゴールド)でも買っていた方が、よほど儲かります」

その理由を、日本の司法制度というゲームのルールブックに従って、紐解いていきましょう。

1 日本の民事裁判は「加害者の楽園」?

まず、民事訴訟の見通しですが、勝訴判決(「被告は原告に100万円支払え」という紙切れ)を取ること自体は可能でしょう。 

しかし、判決文は「打ち出の小槌」ではありません。

相手に支払う意思がなく、めぼしい財産もなければ、ただの
「記念品」
です。 

強制執行をかけるにも、相手の財産(隠し預金など)はこちらで見つけ出さなければなりません。

さらに言えば、日本の民事裁判システムは、 
「被害者に冷淡、加害者に有利な、『やり得』容認型」 
の構造になっています。

相手がのらりくらりと逃げ回れば、裁判は長期化し、こちらの精神的・時間的コストばかりが嵩んでいきます。 

「正義の鉄槌」
どころか、被害者が
「疲弊という名の二次被害」
を受けるのがオチなのです。

2 「100万円の回収」は「投資」としては大失敗

社長は
「費用を安く」
とおっしゃいますが、法的事件というプロジェクトは、一般の事業投資とは異なります。 

「投資対効果」
という概念で割り切れるものではありません。

100万円を取り戻すために、弁護士費用を払い、社員の時間を使い、社長の精神的リソースを割く。 

経済的に見れば、どう計算しても
「赤字プロジェクト」
です。

もし、この訴訟を
「損害をカバーするための金策」
と考えているなら、即刻中止すべきです。 

「泣き寝入り」
は、敗北ではなく、 
「これ以上の損失(弁護士費用と時間の浪費)を防ぐための、賢明な損切り(ロスカット)」 
という高度な経営判断になり得るのです。

3 それでも戦うなら「道楽」としてやれ

では、この訴訟に意味はないのか? 

いいえ、1つだけあります。

それは、 
「多少の面倒やコストは覚悟でも、法に照らして、きちんとケジメをつけたい」 
という、社長の
「意地」

「プライド」、
あるいは
「教育的指導」
という名の 
「明確な非経済的動機」 
がある場合です。

「カネの問題じゃない。あいつを許さないことが目的なんだ」 
と腹を括れるなら、喜んでお手伝いしましょう。 

ただし、それは
「投資」
ではなく、社長の心を晴らすための高級な
「道楽(消費活動)」
です。

4 「安かろう悪かろう」は法務でも同じ

最後に、費用についてです。 

「難易度やリスクとバランスが取れた費用」
をご負担いただけないなら、信頼関係の構築は不可能です。

「費用面で劇的に廉価なサービス」
をお求めであれば、他の弁護士や法テラスなどを探していただくのも1つの選択です。 

しかし、 
「劇的な廉価となれば、却ってクオリティ上の不安が発生する」
 のが、プロフェッショナル・サービスの常識です。

「100円の寿司に、銀座のQ兵衛のネタとサービスを求める」 ようなことは、社長の美学に反するのではないでしょうか。

結論

今回の100万円は、
「高い勉強代」
として損金処理し、本業に邁進されるのが、最も経済合理性の高い選択です。 

それでもなお、
「カネをドブに捨ててでも、相手に一撃加えたい」
という情熱がおありなら、正規のフィーをお支払いいただいた上で、徹底的にやりましょう。

どちらの道を選ばれるか、それは経営者である社長の
「生き様」
の選択です。

著:畑中鐵丸

00257_ケーススタディ_「名誉ある撤退」という名の損切り_暴走するクライアントからエレガントに逃げ出す方法

プロフェッショナルとして仕事をしていると、時として
「暴走するクライアント」

「沈みゆく泥船のような案件」
に遭遇することがあります。 

そんな時、正論を吐いて相手を正そうとしたり、感情的に対立したりするのは下策です。 

本記事では、相手のプライドを傷つけず、自分の非を認めるふりをして、未払い報酬をきっちり回収して撤退する、
「大人の損切り術(通知文の書き方)」
について解説します。

<事例/質問>

先生、依頼者との関係で悩んでいます。

私は士業をしつつ経営コンサルタントもしているのですが、クライアントである建設会社の社長が、こちらの助言を聞かずに暴走し始めました。 

資金繰りが悪化しているにもかかわらず、無謀な独自理論で債権者と交渉しようとしたり、大手取引先との訴訟でも、こちらの忠告を無視して強硬姿勢を貫き、結果として状況を悪化させています。

あろうことか、社長は
「お前のやり方が悪いからこうなった」
「見立てが甘い」
と、私に責任転嫁してくる始末です。 

このまま付き合っていると、共倒れになるか、最悪の場合、こちらのせいにされて損害賠償請求されかねません。

しかし、まだ未払いの報酬が数百万円残っています。 

相手を逆上させず、かつ、未払い報酬を回収しつつ、この
「泥船」
から即座に下船するには、どのようなロジックで辞任(契約解除)を申し入れればよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

腐ったミカン、もとい、腐った案件からは、一刻も早く逃げる。 

これは、プロフェッショナルとして生き残るための鉄則です。

しかし、逃げ方を間違えると、後ろから撃たれます。 

「敵前逃亡だ!」 
「任務懈怠だ!」 
と騒ぎ立てられ、報酬を踏み倒されるどころか、懲戒請求や損害賠償の火種になりかねません。

ここで必要なのは、 
「あなた(クライアント)が悪い」 
と正論を吐くことではありません。

「私が無能で申し訳ありません。ついては、身を引かせていただきます」 
という、 
「“負けるが勝ち”の高等戦術」 
です。

このような相手に送りつける
「絶縁状(辞任通知)」
には、プロが駆使すべき4つの黄金律があります。 

以下の構成で文章を作成し、送りつけてください。

1 相手の「怒り」を全面的に肯定する(ガス抜き)

まず冒頭で、 
「私の不手際に大変お怒りのご様子ですが、厳しく受け止めております」 
と、相手の感情を全面的に受け入れます。

ここでは、
「実はあれは社長が言うことを聞かなかったから・・・」
などと弁解してはいけません。 

「私が悪うございました」 
と頭を下げるふりをして、相手の
「攻撃の拳」
を空振りさせるのです。 

相手は
「怒っている」
のですから、その怒りを肯定してあげることで、プライドを満足させます。

2 「方針の不一致」を理由に、さりげなく突き放す

次に、辞任の理由です。 

「御社の進まれる方向(独自方式)については、正直自信がもてない」
「信頼関係構築が困難」 
と述べます。

これは、 
「あなたのやり方は間違っている」 
と言うと角が立ちますが、 
「あなたの独創的なやり方には、私の凡庸な能力ではついていけません」 
とへりくだることで、相手の独自性を(皮肉たっぷりに)尊重しつつ、 
「だから、私は降ります」 
という正当な理由を作り出しています。

要するに、 
「あなたは素晴らしい(狂っている)が、私とは合わない(ついていけない)」 
という、
「性格の不一致」
による離婚を申し出るのです。

3 「後任への引継ぎ」で義務を果たすポーズを見せる

逃げるときに一番大事なのは、 
「後は野となれ山となれ」 
と思われないことです。 

「後任の方にしっかり引き継ぎます」
「情報はきちんと回付してください」 
と、事務的な手続きを強調することで、 
「私は最後までプロとして義務を果たしましたよ」 
というアリバイを作ります。

4 「つまらぬこと」として、カネを請求する

ここが、この文章の白眉(はくび)であり、最大の目的です。

文章の最後、追伸(おって)で、 
「最後につまらぬことを申し上げて恐縮ですが」 
と前置きし、 
「未払いの費用を払ってください」 
と切り出してください。

これは、心理学的に非常に巧妙です。 

ここまで、散々
「私が悪うございました」
「自信がありません」
「身を引きます」
と低姿勢を貫いてきました。 

相手(社長)は、自分が優位に立ち、溜飲を下げています。

そこで、最後に 
「ところで、これ(報酬)は別問題ですよね? つまらぬ話ですが」 
と、小さく、しかし鋭く請求書を突きつけるのです。

相手は、自分が
「勝ち組」
の気分になっているので、 
「まあ、辞めさせてやるんだから、手切れ金代わりに払ってやるか」 
という心理になりやすいのです。 

これを
「つまらぬこと」
と表現することで、 
「大した金額じゃないでしょ? 払えないなんて言わせませんよ」 
という強烈な皮肉とプレッシャーを与えています。

結論

暴走するクライアントと喧嘩をしてはいけません。 

「バカな相手」
には、
「バカな相手が満足するような言葉」 
を与えて、その隙に財布の中身を回収し、脱兎のごとく逃げ出す。

「社長の崇高なビジョンには、私ごときでは役不足です。未熟な私をお許しください。(だから、これまでの分を払って、さようなら)」

この
「卑屈なまでの謙虚さ」
こそが、厄介なトラブルから身を守る、最強の鎧となるのです。

*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00256_ケーススタディ_「乗車券」で終わるか、「定期券」で通うか?_根抵当権設定が迫る、銀行との“愛の重さ”

「抵当権」

「根抵当権」。

たった一文字の違いですが、ビジネスにおける意味は天と地ほど異なります。 

それは、
「1回きりの乗車券(点の関係)」
で終わらせるか、
「乗り放題の定期券(線の関係)」
を持ってズブズブの関係になるか、という経営判断そのものです。 

本記事では、難解な担保契約の違いを、電車と恋愛のアナロジーで解きほぐし、銀行からの提案に隠された
「メリットと罠」
を解説します。

<事例/質問>

先生、銀行から融資の条件変更について提案があり、少し迷っています。

当社は、これまで運転資金を借りるたびに、工場の土地に 
「抵当権」 
を設定していました。

今回、銀行の担当者から、 
「社長、毎回手続きするのも大変ですから、今後は『根抵当権』に切り替えませんか?」 
と言われました。

「根」 
という字がつくだけで、大した違いはないように思えるのですが、銀行員の言う通り 
「手続きがラクになる」 
という理由だけでハンコを押してしまって良いものでしょうか?

経営者として知っておくべきリスクがあれば教えてください。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

社長、 
「根」 
の一文字を甘く見てはいけません。

それは、 
「一晩だけの恋」 
を 
「結婚(あるいは泥沼の腐れ縁)」 
に変えるほど、劇的な意味の違いを含んでいます。

銀行が提案してきたその契約書は、単なる事務手続きの簡素化ではありません。 

社長と銀行との関係を、 
「点」 
から 
「線」 
へとアップグレードする招待状なのです。

その本質を理解いただくために、ふたつの強烈なアナロジー(例え話)を用意しました。

1 「乗車券」と「定期券」の違い

まず、機能面での違いを、もっとも分かりやすい“電車”で説明しましょう。

これまでの
「抵当権」
は、いわば 
「一回きりの乗車券」 
でした。

「東京から大阪まで」
と目的地(金額)が決まっていて、到着して改札を出れば(返済すれば)、その切符は回収され、役目は終わります。 

「今回はこれだけ借ります」
「返しました、はいサヨウナラ」
という、後腐れのない関係です。

対して、提案されている
「根抵当権」
は、 
「定期券」 
です。 

「期間内なら、上限額(極度額)まで何度でも乗り降り自由」
というパスポートです。

製造業である御社は、仕入れ資金や給与支払いなど、頻繁にお金が出入りしますよね。 

そのたびに、いちいち切符売り場に並んで(契約書を作って)、切符代(登記費用)を払うのは面倒くさい。 

だから銀行は、 
「社長、もう顔パスで乗れる定期券(根抵当権)を作りましょうよ」 
と言っているのです。

2 「点」の恋か、「線」の愛か

次に、この契約が持つ 
「情緒的・戦略的」 
な意味合いについてです。

「乗車券(抵当権)」
による付き合いは、 
「点」 
の関係です。 

必要な時だけ会い、用が済んだら別れる。

ドライですが、お互いに拘束されません。

一方、
「定期券(根抵当権)」
による付き合いは、 
「線」 
の関係です。

定期券を持っているということは、 
「明日も、明後日も、この電車に乗る(取引する)」 
という前提があるということです。

銀行側からすれば、 

「この範囲ならいつでも貸しますよ(いつでもデートに応じますよ)」 
という、御社に対する信頼と囲い込みの証(愛のカタチ)でもあります。 

急に
「今日中にお金が必要!」
となったとき、定期券があれば、面倒な審査や手続きをスキップして、瞬時に資金を融通してもらえるメリットは計り知れません。

3 「乗りすぎ」と「解約の難しさ」に注意

ただし、定期券には落とし穴もあります。

1つは、
「乗りすぎ(借りすぎ)リスク」
です。 

「どうせ定期があるし」
という気軽さから、気づけば毎日フル活用して、上限ギリギリまで借金が膨らんでしまうことがあります。 

社長のご自宅まで担保に入っている場合は、自宅を失うリスクとも直結します。

もう1つは、
「簡単には別れられない」
ということです。 

普通の乗車券なら、降りれば終わりですが、定期券は 
「1回も乗らなくても(借金がゼロでも)」、 
期間内は権利が残り続けます。

「もう使わないから解約したい」
と思っても、
「元本確定」
などの面倒な手続きを踏まないと、その“縁”は切れません。

結論

銀行の提案は、御社を 
「一見(いちげん)さん」 
から 
「お得意様(パートナー)」 
へと格上げしようというラブコールです。

今後もその銀行と、雨の日も風の日も付き合っていく覚悟がおありなら、その 
「定期券」 
は強力な武器になります。

しかし、もし 
「そこまで深い付き合いはちょっと・・・」 
と思うなら、都度切符を買う今のスタイルを貫くのも、1つの賢明な選択です。

ハンコを押す前に、その銀行と 
「心中」 
する覚悟があるか、自問してみてください。

*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00258_ケーススタディ_「同業他社への転職禁止」の誓約書に震えるな! その“鎖”は実はサビついているかもしれない

「退職後2年間はライバル会社への転職禁止」。

入社時にサインさせられた誓約書のせいで、せっかくのキャリアアップの機会を諦めていませんか?

実はその誓約書、会社側が仕掛けた単なる
「ハッタリ」
かもしれません。 

本記事では、競業避止義務の法的な実態と、会社との無用なトラブルを避けつつ、したたかに転職を成功させるための
「グレーゾーンの歩き方」
について解説します。

<事例/質問>

先生、転職活動における最後の一歩が踏み出せず、ご相談です。

私は現在、外資系医療機器メーカー(仮称:株式会社アストラル・メディカル)で営業部長を務めています。 

このたび、長年のライバル企業である国内大手(仮称:株式会社サミット・ライフケア)から、好条件でのオファーを頂きました。

しかし、入社時に署名した誓約書には、 
「退職後2年間は、競業他社への就職を禁止する。違反した場合は退職金を支給せず、損害賠償を請求する」 
という、恐ろしい条項があります。

会社は
「裏切り者には容赦しない」
という体育会系の社風です。 

もしサミット社への転職がバレたら、退職金を没収されるどころか、訴えられて破産するのではないかと恐怖しています。 

やはり、このオファーは辞退すべきでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その誓約書は、一見するとあなたを縛り付ける
「鋼鉄の鎖」
に見えるかもしれません。 

しかし、法律家の目から見れば、それは雨ざらしでボロボロにサビつき、指一本でちぎれそうな
「張り子の鎖」
である可能性が高いです。

結論から申し上げましょう。 

過度に恐れる必要はありません。 

その
「鎖」
の正体と、スマートに抜け出すための
「忍びの作法」
を伝授します。

1 その「鎖」は、裁判所では「紙切れ」になる

まず、安心していただきたいのは、裁判所というところは、基本的に
「頑張るサラリーマンの味方」
だということです。 

職業選択の自由は、憲法で保障された強力な権利です。

実際、過去の裁判例(東京高裁平成24年6月13日判決など)でも、 
「営業担当者が汗水たらして築いた人脈やノウハウを使って他社で活躍することを禁止するのは、正当な目的とは言えない」 
として、転職禁止条項を
「無効(ただの紙切れ)」
と断じ、退職金の支払いを命じたケースがあります。

会社側が振りかざしているその誓約書は、法的には
「効くかどうかわからないお札(ふだ)」
程度の意味しかありません。

2 会社も「本気で撃つ」のは怖い

会社側もバカではありません。

その誓約書が法的に微妙な代物であることは、百も承知です。

では、なぜ書かせるのか? 

それは、
「案山子(かかし)」
と同じです。 

実力行使(訴訟)をするつもりはなくても、置いておくだけで、気の弱い社員(カラス)がビビって他社に行かなくなることを期待しているのです。

もし会社があなたを訴えて、万が一にも裁判所で 
「この誓約書は無効です」 
という判決が出てしまったらどうなるでしょうか?

「あ、あの誓約書、無視していいんだ」
とバレてしまい、他の社員への抑止力まで失ってしまいます。 

会社にとって、藪をつついて蛇を出すような真似は、リスクが高すぎるのです。 

ですから、イチイチ因縁をつけてくる可能性は、あなたが思うほど高くありません。

3 「忍者」のように振る舞う

とはいえ、
「君子危うきに近寄らず」
です。

わざわざ
「俺はライバル会社に行くぞ!」
と宣言して、会社のメンツを潰す必要はありません。 

ここは、
「忍者」
の心得で、グレーゾーンを泳ぎ切るのが大人の作法です。

【作法1:証拠を残さない】
新しい職場での活動において、あなたの名前が載った提案書やメールを、前の会社の顧客にばら撒くような
「足跡」
を残してはいけません。 

あくまで
「黒子」
に徹してください。

【作法2:ドア・オープナーに徹する】 

あなたが前の会社で培った人脈を使うな、とは言いません。 

しかし、あなたが前面に出て契約を取ると、
「引き抜きだ」
「情報漏洩だ」
と騒がれるリスクがあります。

そこで、あなたは 
「ドアを開ける(紹介する)」 
だけにして、その後の具体的な商談やクロージングは、別の担当者に任せるのです。 

これなら、 
「私はただ、知人を紹介しただけです。営業活動はしていません」 
という言い訳(アリバイ)が立ちます。

4 結論

1 ちょっとは気にするふりをする(円満退社を演じる)
2 でも、縮こまる必要は全くない 
3 グレーな活動は、証拠を残さず、他人にやらせる

この
「大人の知恵」
があれば、サビついた鎖など、恐れるに足りません。

※本記事は、実際の法律相談や契約実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00255_ケーススタディ_「修正履歴」という名の「心のヌード」_営業部が誤送信したドラフトが招く、交渉の“全裸”状態

契約交渉において、絶対にやってはいけないミスの1つが、
「修正履歴(変更履歴)」
が残ったままのドラフトを相手に送ってしまうことです。

それは単なる体裁の問題ではなく、こちらの
「譲歩の限界」

「戦略」
という“手の内”を全てさらけ出す行為に他なりません。 

本記事では、営業担当者の勇み足によって起きた
「誤送信」
の事例をもとに、履歴情報の持つ意味と恐ろしさ、そして万が一送ってしまった場合のリカバリー思考について解説します。

<事例/質問>

先生、頭を抱えております。至急の火消しが必要な事案です。

当社(仮称:シリウス・テック)は、大手取引先(仮称:オリオン商事)との間で、新規の業務提携契約の交渉を進めていました。 

私(経営管理部)と法務担当で、契約書のドラフトを揉んでいたところです。 

社内検討用として、
「ここは譲歩可能」
「ここは絶対死守」
「相手が難色を示したら削除してもよい」
といったコメントや、修正の過程(削除線や追記)が残ったままのファイルを、営業担当の部長に共有していました。

ところが、功を焦った営業部長が、 
「社内調整が終わったなら、早く先方にボールを投げたい」 
と判断し、私たちが
「清書(クリーンコピー)」
にする前の、修正履歴とコメントがベッタリ残ったままのワードファイルを、そのままオリオン商事にメールで送ってしまったのです。

先ほど、先方から 
「御社の社内での議論が大変よく分かりました(笑)」 
という、皮肉たっぷりの返信が来て、顔面蒼白になっています。 

こちらの
「手の内」
が全てバレてしまった状態です。 

この絶望的な状況を、どうリカバリーすればよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

それは、背筋が凍るようなお話ですね。 

怪談話よりもよほど心臓に悪いです。

結論から申し上げますと、これは単なるミスではなく、交渉における
「自爆テロ」
に近い行為です。

修正履歴やコメントが残った契約書を送るというのは、
「ポーカーの最中に、自分の手札をテーブルの上に広げて見せながら、『さあ、賭けましょう』と言っている」
のと同じだからです。 

あるいは、
「値札がついたままのプレゼントを恋人に渡して、『これ、実は半額セールで買ったんだ』というレシートまで同封してしまった」
ようなものです。 

ムードもへったくれもありませんし、相手に対する敬意も戦略も、すべてが台無しです。

営業担当者の勇み足が招いたこの惨状について、その
「毒性」

「事後処理」
を解説しましょう。

1 「履歴」は「思考のプロセス」そのもの

まず、営業部の方々に理解していただきたいのは、契約書の
「修正履歴」

「コメント」
は、単なる文字の訂正ではないということです。

そこには、
「ここは強気に書いてみたけど、本当は自信がない」 
「この条項は、相手にバレなければラッキー」 
「最悪、ここは妥協してもいいボトムライン(譲歩の底値)」
といった、こちらの
「欲望」

「恐怖」

「下心」
が、生々しく記録されているのです。

これを相手に見せるということは、服を脱いで
「心のヌード」
をさらけ出すようなものです。 

相手(オリオン商事)は、今ごろ御社のドラフトを見て、 
「なるほど、シリウスさんは、ここの条項は『削除してもよい』と考えているのか。ならば、遠慮なく削除を要求しよう」 
と、ニヤニヤしながら赤ワインでも飲んでいることでしょう。

交渉において、これほど不利な状況はありません。

2 「完成品」しか客に出してはいけない

営業の方は
「スピード」
を重視するあまり、
「素材」

「料理」
の区別がつかなくなることがあります。

法務や管理部門がドラフトを練っている段階は、まだ
「厨房で食材を切ったり、煮込んだりしている最中」
です。 

修正履歴付きのファイルは、野菜の皮や魚の骨が散らばっている
「調理途中の鍋」
そのものです。

それをお客様(取引先)のテーブルに、 
「はい、お待ち!」 
と出すレストランがどこにありますか?

お客様に出すのは、きれいに盛り付けられ、不要なものが取り除かれた
「完成品(清書版)」
でなければなりません。 

これは、ビジネスマナー以前の、
「プロとしての美学」
の問題です。

3 覆水盆に返らず、ならば「開き直り」の美学を

さて、やってしまったことは変えられません。 

デジタルデータは、一度送れば回収不可能です。 

「見なかったことにしてください」
と言っても、人間の脳は
「見てはいけないもの」
ほど鮮明に記憶するものです。

ここからのリカバリー策は2つです。

【手順1:即座に清書版を送り直す】 

「先ほどのファイルは社内検討用のドラフトであり、誤送信でした。こちらの『確定版』に差し替えてご検討ください」 
と、事務的に、かつ迅速に清書版(履歴を全て承諾し、コメントを削除したクリーンコピー)を送り直します。 

これは、形式上の体裁を整えるためです。

【手順2:手の内がバレたことを前提に、腹を割る】 

ここからが重要です。 

小手先の言い訳は通用しません。

相手はこちらの
「譲歩ライン」
を知ってしまっているのですから、従来の駆け引きは不可能です。

ならば、いっそ、 
「お恥ずかしいところをお見せしました。ご覧の通り、弊社としてはこの点が懸案事項であり、社内でもギリギリの議論をしております。ここまで腹を割ってしまった以上、御社とも本音ベースで、建設的な着地を探らせていただけませんか?」
 と、
「あえて裸になったふりをして、相手の懐に飛び込む」
という、捨て身の戦法に切り替えるのです。

「災い転じて福となす」
とは言いませんが、
「恥をかいた分、相手の情に訴えて、実利を取る」
くらいの図太さがなければ、この局面は乗り切れません。

そして、今回の営業部長には、 
「契約書は『手紙』ではなく『武器』です。安全装置(履歴の削除)を確認せずに発砲すると、自分たちが死にますよ」 
と、厳重に釘を刺しておくことをお勧めします。

※本記事は、実際の法律相談や契約実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00254_ケーススタディ_「セット販売」の罠_契約日を「1日ずらす」だけで回避できる、金融取引の致命的リスク

ある取引と別の取引を同時に行う際、相手方から
「契約日を同じにしてほしい」
「解約条項を外してほしい」
と要望されることがあります。

ビジネスの実態としては
「セット」
だから当然だ、と安易に応諾するのは危険です。 

本記事では、金融取引とコンサルティング契約の
「抱き合わせ」
を例に、契約日を意図的にずらすことで
「別の取引」
という法的建前(アリバイ)を作り、法規制(利息制限法や出資法)の網を潜り抜けるための、法務担当者が知っておくべき
「大人の知恵」
を解説します。

<事例/質問>

先生、至急ご意見をいただきたい案件がございます。

当社(仮称:シリウス・キャピタル)は、今回、取引先である建設会社(仮称:タイタン建設)に対し、運転資金として5億円を貸し付けることになりました。

これと並行して、当社の関連会社(仮称:ベガ・マネジメント)が、タイタン建設に対して経営コンサルティングを行う契約も締結する予定です。

実質的には、融資の条件としてコンサル契約を結んでもらう
「セット案件」
なのですが、タイタン建設側から以下の修正要望が来ました。

1 コンサル契約の「中途解約条項」を削除すること 
2 コンサル契約の契約日を、融資実行日と同じ「2月20日」にすること

先方の言い分としては、
「融資とコンサルは一体の取引なのだから、日付を合わせるのは当然だし、融資期間中はコンサルも解約できないようにして、お互いの拘束力を高めたい」
とのことです。

私としても、ビジネスの実態に即したもっともな要求だと思いますので、応諾しようと思います。 法的に問題ないでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

「李下に冠を正さず」
という言葉がありますが、ビジネスの契約、特にお金が絡む取引においては、
「疑われるような外観を作らない」
ことが、身を守るための鉄則です。

今回のご相談、結論から申し上げますと、先方の要望を丸呑みするのは、
「飛んで火に入る夏の虫」
になりかねない、非常に危険な行為です。

なぜ、
「契約日を同じにする」
「解約できないようにする」
ことがマズいのか。 

その背後にある、金融規制という名の
「地雷」
について解説しましょう。

1 「セット」に見えることの致命的リスク

あなたが仰る通り、ビジネスの実態としては、この融資とコンサル契約は
「セット」
なのでしょう。 

しかし、それを契約書という
「証拠」
の上で、あからさまに認めてしまってはいけません。

もし、
「融資契約」

「コンサル契約」
が、
「同日」
に締結され、 かつ、 
「解約できない(融資期間中はコンサル料を払い続けなければならない)」
となっていたら、どう見えるでしょうか?

税務署や、あるいは万が一紛争になった際の裁判所は、こう判断します。

「これは、別々の契約ではない。コンサル料という名目はダミーで、実質的には『貸付の利息』をピンハネしているだけだ」
と。

これを
「みなし利息」
といいます。

もし、本来の貸付金利と、コンサル料を合算した金額が、利息制限法や出資法の上限金利を超えてしまった場合、御社は
「高利貸し」
「闇金」
の汚名を着せられ、契約は無効、最悪の場合は刑事罰の対象になります。

2 「1日」が作る「他人の関係」

そこで、私が提案する魔法の杖が、
「日付をずらす」
というテクニックです。

融資契約が2月20日なら、コンサル契約は2月21日、あるいは1週間後にするのです。

たった1日の違いですが、法的には天と地ほどの差が生まれます。

日付が違えば、
「融資は融資で合意しました」
「その後、たまたま、別途コンサルティングのニーズがあったので、別の日に合意しました」
という、
「別々の取引である」
という
「建前(アリバイ)」
を主張する余地が生まれるのです。

同じ日に生まれ、運命を共にする(解約不可)のが
「双子」
だとすれば、日付をずらすことで、彼らを
「たまたま同じ電車に乗り合わせた他人」
に見せかけるのです。

3 「経営判断」という名の逃げ道

もちろん、日付をずらしたからといって、100%安全というわけではありません。 

実態が伴っていなければ、脱法行為とみなされるリスクは残ります。

しかし、法務担当者として、
「みすみす『セット商品です』と自白するような証拠(同日付け契約書)」
を残すことは避けるべきです。

私からのアドバイスとしては、
「日付はずらした方がいい」
と申し上げます。

ただし、先方がどうしても
「同日でないとハンコを押さない」
と言い張り、御社が
「リスクを承知で、どうしてもこの融資を実行したい」
と考えるのであれば、それはもはや法律論ではなく、
「経営判断」
の領域です。

リスクを取って利益(コンサル料)を取りに行くか、安全を取って形式を整えるか。 

最後は、社長(経営者)が腹を括って決めることです。

法務担当者としては、 
「日付を合わせると、『みなし利息』のリスクが跳ね上がりますよ。それでもやりますか?」 
と、耳の痛いことを涼しい顔で警告し、ボールを経営者に投げ返すのが、正しいお作法です。

※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸

00253_ケーススタディ_「負け戦」でも「爪痕」は残せ_名誉毀損にならない「ウソ記事」への“面倒くさい”対抗策

事実無根の週刊誌記事を書かれたとき、多くの人は
「名誉毀損で訴えてやる!」
と息巻きます。

しかし、記事の内容によっては、どんなにウソであっても裁判で勝てないケースが存在します。 

本記事では、
「被害者」
として書かれた記事の法的パラドックスと、裁判で勝てなくとも相手に
「一撃」
を加え、将来の被害を防ぐための
「大人の喧嘩の作法」
について解説します。

<事例/質問>

先生、怒りに震えております。

当社がマネジメントしている、世界的なトップアスリート(仮称:東京あずま京きょう選手)に関する週刊誌の記事についてです。

先日発売された『週刊スキャンダル』に、 
「東選手は高校時代、先輩からの執拗なイジメに遭い、耐えられずに転校を余儀なくされた」 
という記事が掲載されました。

これは真っ赤なウソです。 

転校したのは事実ですが、それはより高度なトレーニング環境を求めてのことであり、イジメなど断じてありませんでした。

東選手本人も 
「私がイジメに負けて逃げ出したなんて、アスリートとしてのプライドが許さない」 
と激怒しています。

明らかに事実無根のウソ記事ですから、名誉毀損で訴えて、訂正謝罪広告と損害賠償をガッツリ取れますよね? 

徹底的にやってやりたいのですが。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

お怒りはごもっともです。 

事実無根の
「物語」
を勝手に作られ、世間にばら撒かれる。 

有名税と言うにはあまりに悪質な仕打ちです。

しかし、結論から申し上げますと、 
「裁判で勝って、訂正謝罪を勝ち取る」 
という正面突破の戦術は、このケースでは極めて分が悪いです。

「ウソなのに、なぜ?」 
と思われるでしょう。

そこには、 
「社会の常識」 
と 
「法律のロジック」 
の間に横たわる、深くて暗い溝があるからです。

1 「かわいそうな人」は名誉毀損にならない?

名誉毀損が成立するためには、 
「ウソであること(真実性がない)」
 に加えて、 
「そのウソによって、社会的評価が低下したこと」
 が必要です。

ここで冷静に考えてみましょう。 

「イジメられて転校した」 
という事実は、東選手の社会的評価を下げるでしょうか?

一般市民の感覚からすれば、 
「ひどい先輩がいたんだな」 
「東選手は被害者なんだ、かわいそうに」
 と同情こそすれ、 
「イジメられるような奴だから、東選手はダメな人間だ」 
と評価を下げる人は稀でしょう。

むしろ、 
「そんな逆境を跳ね返してトップアスリートになったなんて、健気で素晴らしい!」
 と、好感度(社会的評価)が上がってしまう可能性すらあります。

裁判所は、 
「社会的評価が低下していない(むしろ同情を集めている)」 
として、名誉毀損を認めない可能性が高いのです。

「トップアスリートたるもの、イジメごときで逃げ出すような精神的弱さがあると思われたら、評価に関わる!」 
という主張も、心情的には理解できますが、裁判所という冷徹な場所で認めさせるには、針の穴を通すような難しさがあります。

2 「ハリネズミ」になって、相手の喉に刺さる

では、泣き寝入りするしかないのか? 

指をくわえて見ているしかないのか?

いいえ、違います。 

「裁判で勝てない」
ことと、
「何もしない」
ことはイコールではありません。

裁判所が認めてくれなくても、我々には 
「クレーム(抗議)」 
という武器があります。

裁判外で、出版社に対して、 
「この記事は事実無根である。直ちに訂正せよ」 
という内容証明郵便を、弁護士名義で送りつけるのです。

もちろん、相手もプロですから、
 「はいはい、裁判しても勝てないくせに」 
と無視するかもしれません。

しかし、ここで重要なのは、 
「結果(訂正)」 
を取ることではなく、 
「態度」 
を示すことです。

「ウソを書いたら、即座に、うるさい弁護士から抗議文が届く」
「あそこの事務所は、イチイチ反応してきて、本当に面倒くさい」
相手にそう思わせること。 

これこそが、最大の目的です。

週刊誌にとって、一番怖いのは 
「高額な賠償金」
 ではありません(彼らはそれを経費だと割り切っています)。

 一番嫌なのは、 
「手間がかかること」 
「面倒くさい相手に関わること」
 です。

「あそこのタレントをいじると、コストパフォーマンスが悪い」
 「あそこの事務所は、触ると痛いハリネズミみたいだ」
そう認識させること自体が、 
「牽制球」 
となり、将来の 
「抑止力」 
になります。

「勝てない喧嘩」 
であっても、相手の服に泥をつけ、靴の中に小石を入れるくらいの嫌がらせはできます。 

今回は、その
 「高尚なる嫌がらせ」 
のために、抗議文というミサイルを一発、撃ち込んでおきましょう。

 放置すれば、 
「何を書いても文句を言わない、おいしいカモ」 
と認定されてしまいますから。

※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸