00197_ケーススタディ_妻の不貞と離婚要求:夫が取るべき法的対応とは?

<事例/質問>

妻が子どもを連れて、家を出ました。

紆余曲折があり、今は別居しています。

私は、何とか、妻と子どもを連れ戻そうといろいろ方策を講じましたが、ここにきて、妻の不貞が発覚しました。

ある日、妻側から、離婚したいと言ってきました。

私は、離婚したくありません。

でも、妻の意思は固いようです。

この先、どのような流れになるのでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

膠着状態を脱する意向が妻側において強まり、妻側が新たな局面展開を求めてきた、と考えられます。

しかし、即時の離婚が認められない可能性があったため、
「一定程度別居期間を経由したので、(理由はともあれ)修復不可能な状態に来ているから、離婚させろ」
という趣旨のようです。

我が国の裁判制度の建前では、いきなり離婚を裁判で求める手続きは予定されておらず、どんな理由によるものであれ、まずは、調停を前置せよ、というものであり、これを踏襲することになるでしょう。

20年以上前の最高裁判所判例では、
・有責配偶者であっても、離婚請求可能
・未成熟な子がいるなどして、離婚請求することにより、これらの子が不幸になるようであれば、認めない
というものがあります。

とはいえ、実務では、有責云々にかかわらず、破綻状態にあれば、ほぼ離婚を認め、とっとと財産の整理(合弁事業の解消)を終わらせる、という扱いが定着しています。

夫側としては、
・妻側は有責配偶者
・とはいえ、未成熟な子をもつ側が離婚を求めているので、前記最高裁判例の適用は射程外
・破綻の事実(=修復不能認定)さえあれば、離婚が認められる可能性が大きい
・あとは、カネの問題
・判例・実務では、別居時財産の折半が基本
・しかし、「そもそも、妻は有責であるし、破綻もしていないので、離婚は認められない」「仮に離婚が認められても、カネや財産は手元にないし、今苦しいし、無い袖は振れない。あと、寄与度・貢献面からいっても、足を引っ張られてばかりなので、折半はおかしい」
と、対応することになるでしょう。

著:畑中鐵丸

00196_イノベーションを阻止する壁を壊す:ルーティン支配からの脱却法

組織内でよく見られる
「ルーティン業務のブラックボックス化」

「イノベーションへの抵抗」
について、その背景と解決策については、以下のように整理できます。

1 現状の課題:ルーティン業務の支配力とイノベーションへの抵抗

(1)業務のブラックボックス化

従業員がルーティン業務に閉じこもり、外部から業務内容が見えない状態が続く。
「何をしているのかわからない」
という状況が組織全体の柔軟性を奪っている。

(2)イノベーションの困難さ
イノベーションを求められると、従業員の間に以下のような抵抗が生じる。

  • 努力不足とリスク回避:「苦労の割にリターンが不明確」「失敗時の責任を問われる」「努力が報われない」などを理由に積極的に動こうとしない。
  • 口実の探索:「イノベーションに取り組むとルーティンがおろそかになる」という言い訳を考え、実質的にイノベーションを回避する。
  • 表面上のポーズ:表向きは対応しているように見せかけ、実際には責任を回避。
  • 快適さの維持:改善提案や業務棚卸しに対して、「みんなの環境を壊されない」ようにと抵抗。
  • 最終的な回避:「最悪、会社を辞めればいい」と開き直り、努力を諦めるケースも。

2 解決策の提案:教育、整備体制、毒薬の活用

(1)教育の強化
従業員の意識改革を目指し、定期的な教育や研修を実施する。 特に、革新の意義や成功事例をわかりやすく伝え、モチベーションの向上を目指す。

(2)時間をかけた文化変革
長期的な視点のアプローチ。従業員の価値観を無理に変えようとせず、新たな価値観を持った新人が徐々に組織を浸透させていくのを待つ。

(3)劇的なイベントの導入
M&Aや部門提携、一部事業譲渡など、劇的なイベントを活用し、外部からのショックを与え、組織全体を揺さぶり、強制的にイノベーションを生み出す。

(4)合理的な体制整備
次の具体策により、ルーティン業務への依存から脱却を図る。

  • 業務の分掌:ルーティン業務を担当する「一般職」と、革新的に取り組む「総合職」を明確に選定。
  • 業務の透明化と効率化:ルーティン業務を棚卸し、ブラックボックス化を解消。徹底した工程分析により標準化・省力化を実現。
  • イノベーション部門の強化:省力化で生まれた余剰人員をイノベーション部門に再構成し、「一件・一責任者」を原則としてプロジェクトを進める。また、成功報酬や失敗時のリスク軽減策を明確明確にし、従業員のモチベーションを引き出す。

(5)リスク管理と安全ネット
体制整備を進めていく上で想定される課題(従業員の抵抗、責任転嫁など)に備え、権限や責任を明確化する。

3 経済合理性と法的合理性の視点

変革においては、次のポイントを検証します。

  • 外部依存の存在:外部コンサルタントや専門家への依存度が高いかどうかをチェックする。
  • 回避責任の排除:責任が社内で免除になり、外部に責任転嫁される事態を防ぐ。。
  • ジャッジ体制の構築:経営判断を行う権限範囲や意思決定のルールを明確にし、誤った判断があった場合には責任を明確にする。

4 事業戦略におけるバランス

事業運営においては、
「小さな成功(バントヒット)」

「大きな成果(ホームラン)」
の両立が課題となります。

  • :オーナー社長は両方の成果を出せるが、一般従業員はバントヒットすら困難な場合が多い。
  • 外部コンサルタントの限界:小さな成功の指導はできても、大きな成功のノウハウや経験を持たない。
  • 課題:バントヒットの経験のない従業員に、いきなりホームランを打てるのは現実的ではない。段階的な育成が必要。

5 まとめ

ルーティン業務に依存する組織から脱却し、イノベーションを進めるには、教育や体制整備、リスク管理をバランスよく進めることが大切です。

オーナー社長や経営陣が中心となり、変革に取り組む必要があります。

組織全体が巻き込まれる形で進むことが成功の鍵となるでしょう。

著:畑中鐵丸

00195_仕事のコミュニケーションの基本:トラブルを防ぐ、信頼を築く力

コミュニケーションが未熟だと、周囲から
「バイトクオリティ」
と見られ、信頼や評価を失うこともあります。

仕事に関しては、ただ話すだけではなく、相手に理解してもらえるような伝える力が求められます。

ここでは、よくある失敗例とその改善方法について考えてみましょう。

まず、
「証拠を残すべきでない話をメールでする」
という点。

このような軽率な行動は、相手に不信感を与えたりするだけでなく、後々トラブルを招きかねません。

仕事では、
「何を記録として残すべきか」
「何を口頭で伝えるべきか」
を正確に判断することが大切です。

これを身につけるには、周囲(先輩やトップ)の判断基準を観察することが重要です。

次に、
「謝罪」
の方法についてです。

形式的に
「すみません」
「ごめんなさい」
と謝ればいいいわけではありません。

謝罪の際には、被害を受けた相手の立場を想像し、具体的に何を謝罪するのか明確に伝え、そして改善策や再発防止策を示すことが信頼回復につながります。

また、文章力の重要性も失せません。

語彙が貧弱だったり、
「内容がよくわからない」
文章では、教養がないという印象を与えかねず、信用を損なう可能性があります。

これを改善するには、毎日から読書や執筆の習慣をつけ、表現力を磨くことが効果的です。

特にビジネス書や新聞のような、論理的かつ思考的な文章を読むことで、知覚力や文章構成力を磨けます。客観的に見直し、改善点を見つける訓練も必要です。

「伝える力」
は一朝一夕で身につくものではありませんが、地道に努力を積み重ねることで、確実に向上します。

最後に、
「伝える力」
だけでなく、
「相手の話をしっかり聞く姿勢」
も求められます。

日々の経験を糧にし、
「相手にされ、一目置かれる社会人」
を目指しましょう。

著:畑中鐵丸

00194_「一等賞」と「残念賞」:成功とリスクの基準を設定する重要性

ビジネスプロジェクトを進めていく上で、内部で共有すべき本質的な軸やゴールは、どのような状況においてもブレてはなりません。

そのために、プロジェクト開始時に
「一等賞」

「残念賞」
という基準を設定することは、リスクを明確にし、それを管理するための重要なステップです。

そして、ポジティブなニュアンスでチームの方向性を共有することが可能になります。

一等賞(目指すべきゴール)

1.事業が潤う
顧客から信頼を得て、継続的なビジネスの成長を実現し、収益が安定する。

2.事業パートナーの経済的成功
外部専門家や関連スタッフがプロジェクトの利益を得ることで協力体制が強化され、再投資が可能な環境が整う。

3.長期的な基盤の確立
顧客から安定的な収益を獲得し、事業の継続・拡大が可能となり、持続可能な運営を確立する。

残念賞(回避すべき状況)

1.市場や顧客が存在しない
顧客が存在せず、ニーズが明確化できない、あるいはビジネスモデルが具体化できない場合。

2.過剰な経営資源消費
資金や時間が過剰に費消され、事業が継続できない場合。

3.撤退したとしても、以下を実現することが重要:
– チームメンバーの士気を維持すること。
– 戦友としてのネットワークを充実させること。
– 経験値とビジネスネットワークが広がれば、価値がある。

リスクの明示と管理

「一等賞」
を目指し、
「残念賞」
を回避するためには、潜在的なリスクを理解し、正しく管理することが前提です。

以下は、リスクの例とその対策です。

リスクの例

1.市場調査の不徹底
顧客ニーズを正確に把握しないまま行動を開始し、提供する価値が顧客に響かず、コストや時間を無駄にする結果となる。

2.初期費用の膨張
事業の方向性が固まる前に過剰な資金を投入すると、採算が取れず投資回収が困難になる。

3.チームの連携不足
役割分担や権限・責任が不明瞭で、チーム内の意思疎通がうまくいかない。進捗が滞る。

リスク軽減の手法

1.低コスト参入の徹底
「しびれるくらいのケチケチ立ち上げ」によって、初期投資を抑える。

2.損失負担ルールの明確化
メンバー間で損失責任を事前に明確にし、予期せぬ負担が生じないようにする。

3.撤退の見極め
進退のタイミングを迷わず判断できる撤退基準を設定する。

4.チーム環境の維持
「話が分かるかどうか」を重視してメンバーを選び、権限と負担のバランスを適切に調整する。

一等賞と残念賞を軸としたプロジェクト推進の効果

「一等賞」

「残念賞」
を事前に設定することで、プロジェクトの方向性が明確になり、潜在的リスクに対応する準備が整います。さらに、失敗した場合でも得られた経験やネットワークを次の挑戦への資産として活用することが可能です。

これにより、どのような結果であっても、プロジェクトが新たな成長の出発点となる仕組みが築かれます。

著:畑中鐵丸

00193_謝罪の本質とその役割

「ミスをしたら謝る」とは、自分の非を認め、相手に誠意を示す行為です。

社会においてこれは基本的な礼儀であり、また人間関係や組織の円滑な運営を支える土台でもあります。

適切な謝罪は、単に
「ごめんなさい」
と言葉で済ませるものではなく、真剣な態度と具体的な行動を伴うことが求められます。

それが相手との信頼関係を回復し、再び良好な関係を築く鍵となります。

謝罪の際に重要なのは、自分の失敗に対する
「ペナルティ」
を自ら設ける姿勢です。

ペナルティとは、単なる罰ではなく、自分の過ちに向き合い、反省と償いを行う機会を作るものです。

この行動を通じて初めて、失敗の重みを実感し、再発防止への意識を高めることができます。

謝罪は義務ではありませんが、正しい方法で行うことは、相手からの信頼を取り戻す強力な手段になるだけでなく、自分自身の成長にもつながります。

ただし、謝罪が形だけに終わる場合、その態度は他者への配慮が欠如していると見なされます。

このような態度を取る人は、組織内での評価を下げ、社会人としての資質を疑われることにもつながります。

そのため、謝罪には言葉だけでなく具体的な行動が不可欠です。

謝罪を通じて問われるのは、結局のところ
「常識とは何か」
という問いです。

謝罪の方法や態度は、その人の
「常識」
の程度を測る重要な指標となります。

謝罪を適切に行うことは、社会人としての基本を再確認し、個人としても組織人としても成長する機会を与えてくれます。

結論として、謝罪は単なる儀礼ではなく、言葉と行動の両輪によって初めてその誠意が伝わります。

これを実践することで、信頼回復だけでなく、自らの成長や社会人としての在り方を深く考え直すきっかけを得るのです。

著:畑中鐵丸

00192_「若いころの、破滅に至らない程度の、失敗経験」の重要性

人生の成功と失敗を決める鍵は、若い頃の
「ある経験」
にあります。

成功者と犯罪者

罪を犯す人には、大きく分けて2つのタイプがあるとされています。

1つは
「根っからの犯罪者」。

生まれつき悪事を行うことに罪悪感を持たない、稀な存在です。

もう1つは、
「非常に真面目で、思いつめやすく、自分の期待や理想と異なる現実や他人の考えを受け入れるのが苦手な人々」
です。

後者のタイプが圧倒的に多いです。

このタイプの人々は、非常に真面目であるが、プレッシャーに弱く、固執する性格です。

ルールや相場観を知識・情報として理解できても、自分の考えと衝突する内容は、耳に入りません。

その結果、自分の
「正義」
を優先するあまり、法を超える行動に至る場合があります。

実は、このタイプは、成功する人間も多いのです。

成功者と犯罪者をわける「分水嶺」

犯罪者と成功者は、紙一重です。

その分水嶺は何だと思いますか。

犯罪者と成功者を分けるのは、
「若いころの、破滅に至らない程度の、失敗経験」
です。

この失敗経験こそが、成功へと導く鍵となります。

若い頃の失敗が成長を導く

受験でも恋愛でも、人間関係でも、どの分野でも何でもいいのです。

自分の想定とは違う現実を突きつけられ、
「自分の希望や理想や妄想がいつも願いどおり叶えられるというわけではない」
ということを、頭で理解するのではなく、実感として心の奥底から体得することです。

自分の理想や信念だけで突き進むのではなく、失敗をとおして現実を受け入れる力を身に付け、現実と折り合いをつけながら生きる力が培われていきます。

破滅に至らない程度の失敗であれば、それが学びとなり、柔軟さと現実対応力を養うきっかけになります。

破滅に至るような失敗をすると、立ち直れなくなります。

失敗を避けた人生の危険性

逆に、若い頃に大きな失敗を経験せず、すべてが順調に進んだ場合、どのようなリスクがあるでしょうか。

それは、年を取ってから、重要な場面で想定外の失敗に直面したときに表れます。

失敗に慣れていない人は、次のようなミスを犯す可能性があります。

・世間やルール、相場観を誤解する
・状況を見誤る
・保険をかけ忘れたり、予備の計画を持たずに危険で冒険的な決断をする
・撤退や方向転換のタイミングを誤る

こうした判断ミスは、時として大きな失敗を引き起こします。

そして、その失敗を無理に取り戻そうとするあまり、法を犯したり他者に迷惑をかけたりすることになり、その結果、財産や信用や人間関係を含め、人生にとって重要なものを“すべて失う”危険にさらされるのです。

強く生き抜くために必要な視点

自分が間違うことも計算に入れておきましょう。

「最善を目指しつつも、冷静に最悪のシナリオを想定する」
このバランス感覚が、しなやかで強い人間を育てるのです。

犯罪者と成功者を分ける紙一重の違い。

それは、
「若いころの、破滅に至らない程度の、失敗経験」
なのです。

失敗経験は、豊かな才能と大きなエネルギーを有する若者を成功者に導きます。

若い頃に失敗を経験し、それを乗り越える中で現実の厳しさと自分の限界を学ぶことで、有能で、タフで、しぶとく生き残る、本当に強靭な人間に成長できるのです。

著:畑中鐵丸

00191_ケーススタディ_離婚調停中、別居の親子関係を考える:子どもの言葉の真意を探る

<事例/質問>

先日、息子との面会交流が無事に終わりました。

久しぶりに会えたのは嬉しかったのですが、息子と話している中で、娘について気になることを聞きました。

息子曰く、
「妹は、パパとは会いたくない、と話してる」
そうです。

「会いたい」
と言ったり、
「会いたくない」
と言ったりしているそうで、娘の本音がどこにあるのかわからず、悩んでいます。

また、最近の面会交流は、子どもを引き取っている相手側のルールに従う必要があり、その状況に少なからず不満を感じています。

良くも悪くも早く決着をつけたいです。

相手側の思惑に左右されずに娘とちゃんと向き合える親子関係を築くためには、娘の発言をどのように受け止め、また、面会交流においてもどのように対応していけばよいのか、アドバイスをいただければと思います。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

面会交流、お疲れさまでした。

限られた時間の中で、たとえ手間がかかると感じても、
「会うための最大限の努力を、可能な限り尽くしている」
という否定できない事実の蓄積は重要です。

お嬢さんの
「会いたくない」
という発言についてですが、この言葉をそのまま真に受けるのではなく、背景にどのような影響があるかを考慮することが重要です。

具体的には、以下の要素を頭に入れておきましょう。

1 伝聞である点

息子さんから聞いた内容であり、必ずしもお嬢さん本人の真意を直接表しているとは限りません。

2 バイアスの存在

子ども自身の気分や感情、あるいは現在の家庭環境からの影響によって、言葉が歪んでいる可能性があります。

3 別居中の配偶者の誘導

お嬢さんの発言が、意識的または無意識的に配偶者からの影響を受けていることも考えられます。

これらの要因を考慮すれば、お嬢さんの
「会いたくない」
という発言も、表面的なものに過ぎない場合があります。

過剰に反応せず、
「そのような時期もある」
と受け止める姿勢が重要です。

逆に、配偶者がバイアスをかけるのは
「焦り」
の現れともいえます。

たとえば、戦争で劣勢になったかつての日本や、現代の北朝鮮が、滅亡に近づくにつれて強気の姿勢や誇張した情報を発信することと似ています。

この種のバイアスに右往左往せず、振り回されないことが肝要です。

あなたが
「良くも悪くも早く決着をつけたい」
と感じる点については、十分に理解できます。

ただし、今は冷静に構え、引き続き淡々と面会交流を続けることをお勧めします。

「会いたくない」
という言葉に過剰な意味を見出さないようにしましょう。

時間の経過とともに、お嬢さんの心情や態度も変化する可能性があります。

焦らず、長期的な視点で接していくことを心がけてください。

著:畑中鐵丸

00190_メールか会話か_状況別で考える伝え方のコツ

メールは日常業務の中でとても便利なツールです。

しかし、これは一見
「早くて、手軽で、証拠にもなる」
という利点を備えていながら、微妙なニュアンスや空気感までは伝わらないという限界も抱えています。

たとえば、電子メールはレシピ本のようなものです。

料理の手順や材料は細かく書かれていますが、実際にどんな味になるか、香りや食感などは作ってみるまでわかりません。

同様に、メールの文章が示す
「意思」
は相手に伝わるものの、それが
「どういう意図か」
「どんな感情を持っているか」
といった細かなニュアンスまでは伝えきれないのです。

直接会ったり、声を聞いたりしてこそ感じ取れる
「その場の空気感」
は、メールではどうしても伝わりにくくなります。

逆に、意図的に
「伝えすぎたくない」
ときにはメールが有効な手段です。

たとえば、少し曖昧にしておきたい情報や、言い過ぎると後から困る内容を控えめに伝えるには、メールが適しています。

直接の会話であれば、思わずポロっと本音が漏れてしまうこともありますが、メールであれば文を推敲しながら書けるため、伝えすぎを防ぐことができるからです。

また、メールは
「証拠として残す」
ためにも非常に有用です。

ある取引先と交渉する際、口頭でのやり取りは記録に残りませんが、メールで
「先日お話しした件については、〇〇の方針で進めます」
と一文残しておけば、後から
「当時はそういう合意だった」
という証拠になります。

こうした記録は、いざというときに自分を守るために非常に役立ちます。

ただし、どうしてもメールに馴染まない情報というものもあります。

たとえば、複雑なニュアンスを持つ依頼や、相手がどう受け取るか気になるデリケートな話題では、電話や面談が適しています。

これらは、メールという
「簡便さ」
はないものの、相手の表情や声の調子から、伝えたいことを調整しやすいからです。

メールは
「証拠や形を残したいときの武器」、
一方で、直接の対話は
「行間や空気感を伝えたいときの武器」
として、それぞれをうまく使い分けることが大切です。

著:畑中鐵丸

00189_ケーススタディ_中学受験を目前に、親が心がけるべき「平静心」のマインドセット

<事例/質問>

中学受験まであと2カ月弱です。
家の中はピリピリしております。
親として、どのように過ごしたらよいでしょう。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

中学受験が目前に迫り、家の中がピリピリとした雰囲気に包まれるのは自然なことです。

ですが、こうした時期にこそ親が冷静なマインドセットを保つことで、子どもが受験当日に最高の力を発揮できる環境が整います。

以下の心構えを念頭に置いて、親としてどう振る舞うべきかを考えてみましょう。

1 合格は「目標」ではなく「結果」

受験生が目指すべきは
「合格」
という結果を手に入れることではありません。

受験生がするべきことは、これまで準備してきたことを出し切り、最高のパフォーマンスをすることです。

なぜなら、合否を決めるのは学校であり、受験生が全力を尽くしても、結果を変えることはできません。

「合格しなければ」
と捉えてしまうと、
「自分では制御できない課題に苦悶する」
ことになり、過度のプレッシャーから、ミスをしやすくなります。

親としては
「受験するのは親ではなく、子ども自身」
であることを認識し、合否にこだわるのではなく、子どもが準備を出し切れるようにサポートすることが大切です。

2 想定外の番狂わせに備える

受験当日は、緊張や不安から
「番狂わせ」
と呼ばれる予想外の出来事が起こりやすくなります。

初めての環境や状況の中では、心理的な動揺がプラスマイナス10〜20%のパフォーマンス差につながることもあります。

これは、学校の成績や企業の業績、株価の上下にさえも通じる話です。

実力があっても
「センチメント(気持ち)」
によって成績が2割変わるということが、どんな重要な場面でも起こり得るのです。

本番でパフォーマンスを落とさないためには、心理的なマネジメントが欠かせません。

正しい状況予測、フラットな自己認知、リスク抽出、そして制御のリハーサルといった事前準備が、子どもの実力を引き出す助けになります。

3 思い上がりを避ける

「思い上がり」
は、必要な不安感を鈍らせ、
「危険予知」
をおろそかにしてしまいます。

気持ちに余裕を持ち、明るく過ごすことが大切ですが、かといって
「合格は当然」
などと調子に乗ると、逆に失敗のもとになります。

そこで
「ヘッジ戦略」
として、心の中に保険をかけておくことが有効です。

例えば、
「行けなくてもいいさ」
「これで人生が決まるわけじゃない」
「もし行けたらラッキー」
「ダメならダメで、次、大学入試ではリベンジすればいい」
といった保険の気持ちを持つことで、片方の結果に偏らず、どちらに転んでも大丈夫と思えるようになります。

この心の保険をかけておけば、実際に合格しても保険が無駄になるだけで、損することはありません。

そうやって、心に余裕を持つことが
「正しいマインドセット」
なのです。

4「練習は本番のように、本番は練習のように」

これは、心理制御の基本とも言える考え方です。

練習中はできるだけ本番を意識して取り組み、本番では練習のように自然体で臨むことが、パフォーマンスを安定させる秘訣です。

5.「夢もなくおそれもなく」

この言葉は、ルネサンス期に活躍した女傑、マントヴァ侯爵夫人イザベッラ・デステの書斎に掲げられていたモットーです。

彼女は政治的にも知的にも卓越した手腕を持ち、ルネサンス期の欧州ファッションのリーダーでありながら、国家が危機に陥った時には冷静沈着に行動し、小国を守り抜いた人物でした。

彼女は、夫が敵国に捕虜となっても、周囲の批判や侮辱に負けず、自分のペースで状況を打開する最善のタイミングをじっくり待ち続けました。

イザベッラが守り抜いたのは、外的な圧力に屈するのではなく、自分の役割を淡々と全うすることだったのです。

このモットーは
「勝って驕らず、負けて腐らず」
「失意泰然、得意淡然」
と同様、心を平静に保つ大切さを教えてくれます。

受験生も、親も、不安や高揚感に心を乱されることなく、平静心を持って
「できることに注力する」
ことが最も重要なのです。

受験生が集中すべきは
「合格」
への執着ではなく、当日に最高のパフォーマンスを発揮することです。

親もまた、
「自分ができること」
に目を向け、子どもが穏やかに受験に臨める環境を整えることが役割です。

結果について過度に気を揉むのではなく、淡々と日々のプロセスを積み重ねていくことが、子どもにとっても親にとっても受験を乗り切る最良の支えとなるのです。

著:畑中鐵丸

00188_ビジネスプロジェクト失敗に備えるということ

0018700186を、攻守を逆に考えたものです。
想定QAを事前に作成しておけば、
「落ち武者狩り」
にも対抗できるでしょう。

そのためには、変更の痕跡管理を徹底することです。

方針や目標が変更された際、いつ、どのように変更されたのかを明確に追えるよう、痕跡をしっかり残すことです。


1 失敗を見越した事前準備

万が一の事態に備え、状況を整理し、説明のための記録を残しておくことが重要。
プロジェクトがどのようなリスクにさらされ、どのような対応策が検討されてきたのか、履歴も含めて検証しているか?

2 証拠となるデータの保持

将来、責任の所在が問われたとき、証拠として使える形で必要なデータや記録を保持しているかどうか。

3 対外的な説明準備

失敗が発生した場合、なぜそのプロセスや方針が採用され、どのように変更が行われたのかについて、外部に対して明確に説明できるよう準備を怠らない。

4 楽観主義に偏らない戦局認識

プロジェクトの失敗を考慮することは、自らの立場を守る手段であると同時に、関係者全員を守る行動でもある。

5 検証結果を振り返る機会とする

失敗した際には、反省の材料とし、次に活かすための
「良き学びの機会」
として捉える。


プロジェクト推進者の仕事は、あらゆるリスクを見越し、責任ある立場として記録を残し、
「適切な行動を取った」
と、後から説明できるようリスク管理の方法を決定することにあります。

「慎重に対応する」
ということは、
・身の程をわきまえ、
・楽観バイアスに惑わされず、
・戦う前に逃げ道を確保する狡猾さを持つ
ということです。


尚、生き残る人間とは、戦う前にリアルに負けを想定できる人間です。

自決の場面をイメージし、自決用の安楽死薬を用意しておくと、精神的余裕が生まれ、バイアスなく戦局を客観視できます。

結果として、高い割合で勝つか、少なくとも生き延び、自決の準備は無駄に終わるのです。

卑怯や卑劣と思われるかもしれませんが、古代中国の天才戦術思想家もこう言っています。
「三十六計中、逃げるが上策なり」


プロジェクトが成功すると信じることは重要ですが、度を超えた楽観主義は、自分と関係者を地獄に突き落とします。

「単純な成功を目指して仲良く、楽観的に考える」
のではなく、
「プロジェクトが失敗した場合に、適切に行動したことを説明できるようにして、落ち武者狩りに会わないこと」
と認識し行動することこそが、
「他人のカネやリソースを使ってプロジェクトを推進する者としての誠実さである」
といえるでしょう。

著:畑中鐵丸