「とりあえず契約書のドラフトができたので、法的に問題がないかチェックしてください」。
法務担当者や外部の弁護士に、こんな丸投げの依頼をしていませんか?
もし、その契約が数千万円単位の
「投資」
を伴う資本業務提携である場合、そのような依頼の仕方はビジネスマンとして致命的です。
本記事では、資本業務提携の契約書レビューを題材に、ビジネスサイドが描くべき
「回収のシナリオ」
と、法務サイドが担うべき
「実効性の担保」
という明確な役割分担について、冷徹なプロの視点からエスプリを交えて解説します。
<事例/質問>
先生、資本業務提携の契約書について、一定の進捗がございましたのでお送り致します。
当社(株式会社オメガ・アパレル、中堅アパレルメーカー)は、新素材を開発しているスタートアップ企業(ミラクル・ファブリック株式会社)に対して、3000万円の出資を行い、資本業務提携を結ぶことになりました。
目的は、彼らが開発した次世代エコ素材の優先供給枠を確保し、当社の新ブランドの目玉として活用することです。
先方と協議を重ね、ようやく契約書のドラフトがまとまりました。
内容をご確認いただいた上で、当社にとって不当に不利な条項がないか、法的な
「穴」
がないか、ご意見やご指摘を頂けましたら幸いに存じます。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
社長、契約書の
「てにをは」
や
「法的な穴」
を気にする前に、もっと根本的で致命的な
「ビジネスの穴」
がポッカリ空いたままになっていないか、確認させてください。
結論から申し上げます。
「契約書とは、ビジネスの『儲けのシナリオ』を法的に縛り付けるための『鎖』です。縛り付ける対象(シナリオ)が存在しないなら、どんなに立派な鎖を作っても、虚空を切るだけです」
ご依頼の契約書をレビューする前提として、プロとして確認しておかなければならない
「冷徹な事実」
を解説しましょう。
1 投資とは「返ってこないお金を投げる」ことである
今回、御社は3000万円の出資を行うのですよね。
純粋なビジネスの観点から単純化すれば、これは
「3000万円の返ってこないお金を、他人の懐に投げ込む」
というお話です。
ボランティアや寄付、あるいは社長のポケットマネーでの個人的な道楽であれば、それでも一向に構いません。
しかし、これは会社のビジネスです。
「この他人の懐に投げ込んだ3000万円を、何時までに、どのような形で回収して、回収した後に、どのような形で御社に収益(プラスアルファ)を産んでいくのか」
この
「投資回収モデル(ビジネス・コンセプト)」
は、社内で明確に確立されていますでしょうか?
2 「ビジネスサイド」と「法務サイド」の役割分担
ビジネスにおいて、新しいプロジェクトを立ち上げる際の役割分担は、極めてシンプルです。
・「どのように儲けるか」という事業内容
・青写真(損益計算モデル)を具体化する(=ビジネスサイドの役割)
・その青写真が途中で頓挫しないよう、相手に約束を守らせ、契約文書として表現し「実効あらしめる」(=法務サイドの役割)
あなたが私に
「法的な穴がないか見てくれ」
とドラフトだけを送ってくるのは、建築家(ビジネスサイド)が完成予想図や設計図を一切見せずに、大工(法務サイド)に向かって、
「とりあえず、そこらへんにある木材と釘を組み合わせてみたんだけど、これで雨風をしのげる立派な家が建つか見てよ」
と聞いているのと同じです。
どんな家を建てたいのか(どうやってカネを回収し儲けるのか)が分からなければ、どこに大黒柱を立て、どこを補強すべきか、プロの法務には分かりませんし、分かりようがありません。
行き先を告げずにタクシーに乗り込み、
「とりあえず安全運転で走ってくれ」
と命じるような無茶ぶりです。
3 「究極の皮肉」という名のレビュー方針
もし、取引条件を具体化された際に作成された
「損益計算モデル」
や
「事業計画のロードマップ」
等の資料があれば、すぐに私にお見せください。
それを羅針盤として、御社の利益を極大化し、リスクを極小化する
「最強の契約書」
に仕立て上げます。
しかし、もし特段そのような資料はなく、
「契約書の中身がすべてです」
とおっしゃるなら・・・。
その時は、私もプロとして腹を括ります。
「現在、この契約書案に記載されたペラペラの薄い内容程度のものが、御社のビジネス・コンセプトを最大限具体化された(限界の)ものである」
という、
「極めて残念な前提」
に立って、その低い解像度とレベルに合わせた表面的なレビューをさせていただくことになります。
結論
「法務に丸投げ」
する前に、まずは自社のビジネスサイドで
「カネの計算(儲けのシナリオ)」
をシビれるくらい鋭く研ぎ澄ましてください。
法務という名の
「名刀」
を抜くのは、それからです。
著:畑中鐵丸