「お客様をお待たせしないよう、良かれと思ってその場で回答しました」。
若手社員が胸を張って語るこの
「機転」
や
「個性」
が、時に会社全体を吹き飛ばす時限爆弾になることをご存知でしょうか。
無形の価値を提供する専門サービス企業が提供しているのは、スペックの決まった
「モノ」
を売る商売ではありません。
目に見えない
「専門的な知恵」
や
「最適な判断」
を売る“無形のサービス業”です。
だからこそ、顧客からの
「ヒアリング(事情聴取)」
と、それに対する
「回答(方針提示)」
は、全く別次元の業務として厳格に分けなければなりません。
本記事では、事例を題材に、担当者の
「我流の回答」
がもたらす恐ろしいリスクと、組織の品質を担保するために必須となる
「トップのコピーロボット化」
というマネジメント術について解説します。
<事例/質問>
先生、現場の社員の
「暴走」
に頭を抱えております。
当社は、法人向けの経営・IT課題の解決サポートなど、専門的なソリューションを提供しています。
形のある商品を売っているわけではなく、我々の
「知恵」
や
「対応力」
こそが商品です。
最近、若手や中堅のコンサルタント、あるいは営業担当者が、クライアントからトラブルの相談や追加の要望を受けた際、現場で勝手に
「それはウチの責任ですね、無償で対応します」
「その課題、すぐに追加で解決できますよ」
などと回答(約束)してしまい、後から会社として対応できずに炎上するケースが相次いでいます。
本人たちを問い詰めると、
「お客様を待たせてはいけないと思い、自分の判断でスピーディーに回答しました」
「マニュアル通りではなく、私の個性を活かして柔軟に対応しました」
などと、悪気がないどころか、むしろ
「お客様のために良い仕事をした」
と思い込んでいる始末です。
このような
「良かれと思った現場の暴走」
を防ぎ、形のないサービスを提供する組織としての品質を一定に保つには、どのようなルールや指導が必要でしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
社長、その若手社員の方々の
「個性」
や
「機転」
は、御社のような無形のサービスを提供する企業にとって、猛毒です。
「誰が、誰に対して、どういう知的レベルに基づき、どんなクオリティの回答(コンサルテーション)を行っているのか、トップが把握できない」
これは、会社という船の底に、いつ爆発するかわからない時限爆弾をいくつも仕掛けられているのと同じ、極めて恐ろしく、危険な状態です。
結論から申し上げます。
「『事情聴取(ヒアリング)』と『回答(アンサー)』のプロセスを完全に分離し、後者から担当者の『個性』を徹底的に排除してください」
これが、組織の品質と安全を守るための鉄則です。
その理由とメカニズムを解説しましょう。
1 形のない商売だからこそ「問診」と「処方箋」を混同してはいけない
モノを売る商売であれば、商品のスペック自体が一定の品質を保証してくれます。
しかし、御社のようなコンサルティングやサポート業務は、
「目に見えない専門的な判断や知恵」
そのものが商品です。
クライアントからの相談対応は、医療行為に似ています。
「熱がある」
「お腹が痛い」
「ここを直してほしい」
というクライアントの訴えを聞き出し、状況を整理する
「事情聴取(ヒアリング・問診)」。
これは、担当者が現場で自由に行って構いません。
むしろ、愛想よく、コミュニケーション能力(個性)を大いに発揮して、相手のニーズや事実関係を正確に引き出すべきです。
しかし、
「では、この薬を飲みましょう」
「明日、無料で追加対応しましょう」
という
「回答(処方箋の提示・方針決定)」
は全く別次元の行為です。
ここは、高度な専門知識、過去のトラブル事例、会社の経営判断、リソースの採算計算がすべて求められる
「トップ(責任者)の領域」
です。
見習い看護師が、勝手に
「私の個性と判断で」
劇薬を処方したら、患者は死にますし、病院は潰れます。
無形の価値を提供するビジネスも同じです。
現場の
「ヒアリング」
と
「回答」
は、明確に分離しなければならないのです。
2 回答から「担当者の個性」を抹殺せよ
若手社員は
「自分の個性を活かして柔軟に対応した」
と言っているようですが、ビジネスにおける
「回答」
に、担当者個人の
「個性」
など1ミリも必要ありません。
形のない商売において、会社として提供するサービスや回答方針は、常に
「会社のトップ(あるいは責任者)」
の知的レベルとクオリティで統一されていなければなりません。
A君に相談したら
「タダでやります」
と言い、B君に相談したら
「100万円です」
と言う。
そんな属人的でバラバラな対応をする会社を、誰が信用するでしょうか。
担当者に徹底させるべきは、
「ヒアリングは持ち帰る。回答方針は、すべて責任者の決裁を得てから伝える」
という絶対ルールです。
そして、クライアントに伝える回答は、
「担当者個人の考え」
を綺麗さっぱり消し去り、
「社長(責任者)の思考と個性」
を完全コピーして作成・伝達させるのです。
3 社員は「トップのコピーロボット」たれ
「そんなことをしたら、社員の自主性や個性が死んでしまう」
という反論があるかもしれません。
しかし、学校の教育とビジネスの現場は違います。
お客様が御社にお金を払うのは、若手社員の
「未熟な個性」
に対してではありません。
「御社という組織(トップ)の品質と確かな信頼」に対してです。
担当者の仕事とは、自分の我流を押し通すことではなく、自分の個性を完全に抹消し、トップの思考や方針を正確にトレースする
「トップのコピーロボット」
となって、最高のクオリティをお客様にデリバリーすることなのです。
結論
「現場での即答」
を固く禁じてください。
「お話を伺いました。私たちが扱っているのは安易にお答えできる『モノ』ではございません。社内で持ち帰り、責任者と協議の上、最適な解決策を正式にご回答申し上げます」
この一言を、涼しい顔で言えることこそが、本当の意味での
「有能な担当者」
です。
「個性」
を発揮するのは、休日のカラオケかSNSの中だけにしておけ、と優しく、しかし冷徹に指導してあげてください。
著:畑中鐵丸