「憎い夫と、一秒でも早く別れたい」
感情的にはそうでしょう。
しかし、経済合理性の観点からは、その
「焦り」
は命取りになります。
ただし、これには重大な
「前提条件」
があります。
相手に
「資力(搾り取れるだけのカネ)」
があるかどうかです。
本記事では、離婚紛争を
「不採算JV(ジョイント・ベンチャー)の清算」
と捉え直し、相手の懐事情(B/S:貸付対照表とP/L:損益計算書)を見極めた上で、
「しがみついて兵糧攻めにする」
か、
「泥舟から即座に脱出するか」
を決めるための冷徹な判断基準について解説します。
<事例/質問>
先生、離婚の条件闘争についてご指南ください。
別居中の夫(T男)から、離婚調停を申し立てられました。
夫の言い分は
「もう関係は破綻している。早く離婚して、他人になりたい」
という一点張りです。
私(Y子)としては、夫への未練はありませんが、これからの生活の安定(カネ)が最優先です。
相手のペースに乗せられて、安く離婚に応じるつもりはありません。
こちらの目的(経済的利益)を最大化するためには、感情的に
「離婚してやる!」
とハンコを押すべきか、それとも粘るべきか。
どのような戦略で戦えば、相手から最大限のものを引き出せるでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
Y子さん、感情は関係ありません。
これは、
「不採算JV(ジョイント・ベンチャー)の清算事業」
です。
結論から申し上げます。
相手に
「カネ(資力)」
があるなら、
「絶対に離婚しない」と拒否して兵糧攻めにてはいかがでしょうか。
逆に、相手が
「借金まみれ」
や
「低収入」
なら、1秒でも早く離婚して逃げてください。
この戦略の分かれ道は、相手が
「宝船」
か
「泥舟」
か、その一点に尽きます。
1 「現状維持(離婚拒否)」が最強の武器になる条件
まず、相手が
「高収入」
や
「資産家」
である場合です。
この場合、相手が離婚を急いでいるのは、今の状態が彼にとって
「サブスクリプション(定額課金)地獄」
だからです。
現在の法律では、夫婦である限り、彼には婚姻費用(あなた:妻や子どもの生活費)の支払い義務が発生し続けます。
彼にとって、今の状態(別居中)は、
「サービス(家庭の安らぎ)は受けられないのに、高額な会費(生活費)だけ引き落とされ続ける」
という、経済的に最も苦痛な状態です。
だからこそ、彼は一刻も早く
「離婚(解約)」
をして、このフロー(毎月の出費)を止めたいのです。
このケースでは、
「現状維持(離婚しない)」
を貫くことで、相手を出血させ続け、
「手切れ金(解決金)」
を積み増しさせる戦略が有効です。
2 「泥舟」からは即座に退避せよ
しかし、もし相手が以下のような状況なら、話は180度変わります。
• 借金まみれである
• 収入が低い、あるいは無職である
• 浪費癖があり、資産を食いつぶしている
この場合、
「離婚しない」
という選択は、
「沈みゆく泥舟に、自ら鎖で身体を縛り付ける自殺行為」
です。
相手にお金がなければ、どんなに粘っても
「婚姻費用」
は取れません(無い袖は振れません)。
それどころか、夫婦でいる期間が長引けば長引くほど、相手の借金トラブルに巻き込まれたり、あなたが相手を扶養しなければならないリスクすら生じます。
相手が
「経済的な死に体」
なら、戦略は
「損切り(ロスカット)」
一択です。
1円も取れなくてもいいから、一刻も早く他人になり、自分の身の安全と将来の生活防衛を図るべきです。
3 「宣戦布告」の前に、相手のB/SとP/Lを見ろ
戦うか、逃げるか。
それを決めるのは、愛憎ではなく
「相手の財務諸表」
です。
相手に十分な支払い能力(兵糧)があるなら、以下の手順で追い込みます。
• 保険・手当の切り替え:
受取人を自分に変更する(水面下で済ませる)。
• 持久戦の開始:
「離婚? しませんよ。生活費(婚姻費用)だけは法律通り払ってくださいね」
と涼しい顔で請求し続ける。
相手が音を上げて、
「頼むから別れてくれ。手切れ金として〇〇〇〇万円積むから」
と膝を屈するまで、ひたすら
「婚姻費用」
という名の請求書を送り続けるのです。
結論
あなたの目的が
「生活の安定(カネ)」
なら、まず相手の財布の中身を冷徹に見極めてください。
相手が
「金の卵を産むガチョウ」
なら、決して手を離してはいけません。
相手が
「疫病神(貧乏神)」
なら、全力で縁を切ってください。
離婚届とは、タダの紙切れではありません。
あなたが相手に
「自由」
という商品を売ってあげるための
「超高額な請求書」
になることもあれば、あなた自身を地獄から解放するための
「緊急脱出装置」
になることもあるのです。
著:畑中鐵丸