00274_ケーススタディ_税金滞納で「保全異議」は即死する_別荘のポストで眠る差押通知が、反撃の土俵を消滅させる理由

「別荘が差し押さえられているなんて初耳だ!」。 

富裕層の相続や金銭トラブルの場面で、しばしばこの叫び声が上がります。 

しかし、お役所は
「だるまさんがころんだ」
のようには待ってくれません。 

本記事では、軽井沢の別荘を舞台に、郵便物の確認漏れが招く
「税金滞納・差押え」
の恐怖と、それが民事上の反撃手段である
「保全異議」
をどのように無効化してしまうのか、その残酷なロジックについて解説します。

<事例/質問>

先生、元共同経営者との金銭トラブルで、相手方から私の資産に対して
「仮差押え」
の申立てがなされた件で、 これに対抗するため、先生には
「保全異議」
の申し立てをお願いしてましたよね。

ところが、先生から送られてきたメールを見て愕然としています。 

「相手方の資料を精査したところ、昨年9月の時点で、私の軽井沢の別荘(土地・建物)が、軽井沢町から『差押え』を受けていることが判明した」
「相手方との戦いは勝ち目がない」 

いったい、どういうことですか?

まさに寝耳に水です。

軽井沢の別荘が差し押さえられているなんて、誰からも聞いていませんし、通知も来ていません。 

これは何かの間違いではないでしょうか? 

これって、どこに問い合わせれば、確認できるのでしょうか?

いや、そもそも、これって、本人に何の通知もなく行われるものなのでしょうか?

それと、差し押さえられたことが事実として、それと、相手方との金銭トラブルは、関係ないでしょ?

なぜ、勝ち目がない、ってどういうこと?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

お役所の差押えは、まちがいありません。

繰り返しますが、これは、保全異議申立にとって、致命的です。

まず、督促状や差押予告通知についてですが、あなたの別荘のポストの中で、カビが生えるほど眠っているのだと思いますよ。

これは、決して珍しいケースではありません。

別荘族や複数拠点生活者が陥りがちな、典型的かつ致命的な
「管理不全」
のパターンです。 

状況を整理し、なぜこれが今回の
「保全異議」
にとって
「致命的」
なのかを解説しましょう。

1 お役所は「そこに家があるなら、そこに送る」

まず、
「通知が来ていない」
という点について。 

行政(軽井沢町)は、固定資産税や住民税の通知を、原則としてその物件の所在地や登録住所に送ります。 

あなたが東京の自宅にいて、軽井沢の別荘にたまにしか行かないとしても、お役所はそんな
「個人の事情」
には配慮しません。

軽井沢のお宅(別荘)に、督促状や差押予告通知が届いているはずです。

あなたがポストを開けていないだけで、法的には
「通知は到達した」
とみなされます。 

「見ていない」
は、大人の社会、特に行政相手には通用しない言い訳です。

2 「税金」は最強・最速の債権者である

次に、事態の深刻さです。

 今回、あなたと元共同経営者(私人)との争いの最中に、軽井沢町(公人)という
「最強の伏兵」
が現れました。

民間の借金であれば、差し押さえるために
「裁判所の判決」
が必要です。

だからこそ、今、仮差押えだの保全異議だのと、法廷で争っているわけです。 

しかし、税金は違います。 

「自力執行権」 
といって、役所は裁判所の判決なしに、いきなり資産を差し押さえる強力な権限を持っています。

つまり、あなたが
「身に覚えがない」
と言っている間に、軽井沢町は合法的に、かつ粛々と、あなたの別荘に
「差押え」
のハンコを押し、登記簿にその事実を刻み込んだのです。

3 戦術の崩壊:税金滞納が「保全異議」を殺す理由

この
「税金の差押え」
という事実が、今回の
「対・元共同経営者(仮差押え)」
との戦いにどう影響するか。 

結論から言えば、勝ち目がなくなりました。

この状態ですと、保全異議は困難だと、いうことです。

それは、以下の理由によります。

• 本来の勝ち筋: 
「保全異議」
で勝つためには、裁判官に対して、 
「私には十分な資産があり、逃げも隠れもしない。だから、資産を凍結(仮差押え)する必要なんてない」 
と主張し、ご自身の
「信用力」
をアピールする必要があります。

• 残酷な現実: 
しかし、税金を滞納して役所から差し押さえられているという事実は、 
「税金すら払えないほど困窮している」
「役所の督促すら無視する、信用できない人物である」 
という、決定的な反証(マイナス評価)になってしまいます。

裁判官に対し、
「私は健全だ! 仮差押えを解け!」
と叫んでも、 
「いやいや、すでに税金滞納で役所に差し押さえられてますよね? 信用ボロボロじゃないですか」 
と切り返されたら、返す言葉がありません。

つまり、税金の差押えがついている限り、
「私は信用できる」
という主張が通らず、保全異議は門前払いされる確率が極めて高いのです。

結論

今すぐやるべきことは、2つです。

1 軽井沢町役場(税務課)に電話する

「滞納額はいくらですか? 今すぐ払います」
と平身低頭して聞いてください。 

2 即座に納付して、差押えを解除してもらう

問答無用で払ってください。

これが残っている限り、他のどんな法的手段も
「死に体」
になります。

「通知を見ていない」
と文句を言う暇があったら、キャッシュを持って役場に走る。 

それが、富裕層の嗜みであり、危機管理の基本動作です。

著:畑中鐵丸