「無駄なお金は使いたくない」。
平時の家計管理において、この感覚は美徳です。
しかし、ひとたび紛争という
「有事」
に突入した際、この節約精神が命取りになることがあります。
本記事では、離婚におけるDNA鑑定の是非を題材に、情報を得るためのコストを惜しむ
「平時の感覚」
がいかに戦略を誤らせるか、そして勝つための
「戦費」
の投入の仕方について解説します。
<事例/質問>
先生、離婚協議中の妻との間にいる子供(3歳)について、深刻な疑念を抱いています。
「本当に僕の子なのだろうか・・・」
妻の不貞が発覚してからの離婚話ですので、時期を考えると可能性は否定できません。
そこで、白黒はっきりさせるためにDNA鑑定を行いたいと考えています。
実は、簡易的な
「私的鑑定キット」
を購入し、手元に届きました。
鑑定キット代金はすでに支払い済みで、別途鑑定料を支払ったうえで検査する流れです。
明日にも検査を出そうかと思っています。
ところで、聞いたところによると、私的鑑定の結果というのは、裁判では証拠としては弱いらしく、結局は裁判所の手続きで
「法的鑑定」
をやり直すことになるらしい、と。
どうせ後でやり直すのであれば、今からしようと思う私的鑑定代(数万円)が無駄になります。
細かいことをいえば、鑑定キット代金もですが・・・。
ここは少し時間を稼いで、裁判所での
「法的鑑定」
を申し立てて、その結果を待つべきでしょうか?
二度手間とお金の無駄を防ぎたいのです。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
結論から申し上げます。
「四の五の言わずに、今すぐ手元のキットで検査をしましょう」
あなたのその迷いは、スーパーのチラシを見て
「卵はあっちの店の方が10円安いから」
と自転車を走らせるのと同レベルの判断です。
平和な日常ならそれでも結構。
しかし、あなたは今、人生を賭けた
「戦争」
の最中にいるのです。
ここには、紛争解決における決定的な
「2つの勘違い」
があります。
1 「情報(インテリジェンス)」と「証拠(エビデンス)」は別物
まず、あなたは 「私的鑑定」 と 「法的鑑定」 を、同じ目的の手段だと勘違いしています。
• 私的鑑定:
あなた自身が「真実」を知り、「戦うか、降りるか」を決断するための「情報(インテリジェンス)」です
• 法的鑑定:
裁判官という第三者に事実を認めさせるための「証拠(エビデンス)」です
今、あなたに必要なのは、
「裁判所に提出する紙切れ」
ではありません。
「あの子は俺の子ではない」
という確信を得て、
「ならば、養育費は1円も払わない。徹底抗戦だ」
と腹を括るのか、
「俺の子だった。疑ってすまない。条件闘争に切り替えよう」
と方針転換するのか、指揮官としての
「決断」
の根拠です。
この決断が1日遅れれば、その分だけ無駄な弁護士費用や婚姻費用(生活費)が垂れ流され、数万円の検査代など一瞬で消し飛びます。
クイックベースの鑑定結果を先行入手し、あなたの脳内にある
「迷い」
を断ち切ることこそが、最大のコスト削減です。
2 「平時の金銭感覚」が戦争を負けに導く
次に、コストに対する考え方です。
「二度手間になるから勿体ない」
「無駄ガネを使いたくない」
はっきり申し上げますが、有事において、その
「平時の金銭感覚(節約マインド)」
は捨ててください。
裁判になれば、相手方は十中八九、鑑定結果を争ってきます。
その際は、改めて厳格な鑑定になりますので、あなたが今ケチろうがケチるまいが、二度手間になることはほぼ間違いありません。
しかし、先に
「黒(自分の子ではない)」
という結果(情報)を握っていれば、相手に対して、
「俺はもう結果を知っている。無駄な抵抗はやめて認めろ。さもなくば、法廷で恥をさらすことになるぞ」
と、強烈なプレッシャー(心理戦)をかけることができます。
これによって、相手が折れれば、裁判費用も時間も大幅に節約できるのです。
結論
情報への投資を惜しんではいけません。
たかだか数万円の検査費用を
「勿体ない」
と躊躇している間に、戦況は悪化します。
歴史を見ても、ビジネスを見ても、
「戦争で負けるのは、常に、戦費のない人間か、戦費をケチった人間です」。
勝つためには、必要なタイミングで、必要なリソース(カネ)を投下する。
それが、紛争という泥沼から最短で抜け出すための唯一の道です。
※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸