00262_ケーススタディ_「忙しかった」は禁句_保全処分に見る、「ファッション弁護士」と「サムライ弁護士」の決定的な違い

「忙しい」
という言葉は、ビジネスマンにとって便利な免罪符になりがちです。 

しかし、こと
「権利の救済」
を預かる法務の現場、特に
「保全処分」
のような緊急案件において、その言葉は
「職務放棄」
と同義になります。 

本記事では、手続きの遅れに対する厳しい叱責を通じて、資格を単なる
「ファッション(飾り)」
と捉えるか、顧客を守る
「刀(武器)」
と捉えるか、プロフェッショナルとしての在り方を問います。

<事例/質問>

先生、現在進行中の
「仮処分(保全処分)」
の申立準備についてご報告とご相談です。

クライアントが、競合他社から特許権侵害の警告を受け、逆に相手方の営業妨害行為を止めるための仮処分を申し立てる件です。

当初、今週中に申立書を起案する予定でしたが、他の顧問先からの契約書チェックや、定例会議の準備などが重なり、正直なところ手が回っておりません。 

物理的に時間が取れないため、申立書のドラフト提出を
「来週いっぱい」
まで延期させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?

クライアントには
「慎重に検討している」
と伝えておけば、待ってもらえると思います。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その考え方では、弁護士(あるいは法務のプロ)への道は、遥か彼方に霞んで見えません。

結論から言います。 

「保全処分の準備で一週間もかかっていたら、懲戒ものです」

あなたには、プロとしての
「時間感覚」

「使命感」
が決定的に欠落しています。 

その理由を、救急医療とサムライのアナロジーで説明しましょう。

1 「保全処分」は「救急救命室(ER)」である

まず、法律用語の理解が甘すぎます。 

「保全処分(仮処分)」
とは、通常の裁判(本訴)を待っていては、権利が回復不可能な損害を受ける恐れがある場合に行う、 
「超・緊急措置」 
です。

医療で言えば、 
「大動脈が切れて血が噴き出している患者」 
が運び込まれてきた状態です。

それに対して、あなたは 
「他の患者さんの風邪薬の処方(契約書チェック)で忙しいから、止血手術は来週に回します」 
と言っているのと同じです。 

患者(クライアント)は死にます(倒産するか、取り返しのつかない損害を被ります)。

「それだけ、顧客の権利侵害状態が放置されている」 
という事実の重みを、全く理解していません。

2 「忙しかった」は、大学生の言い訳

「忙しかった」? 

それがどうしましたか。

それは、サークルの飲み会の幹事を忘れた 
「大学生の言い訳」 
です。 

あるいは、宿題を忘れた小学生の言い訳です。

人の権利、財産、時には命を預かる 
「プロのサムライには許されない」
言葉です。

クライアントは、あなたの
「忙しさ」
にお金を払っているのではなく、
「危機の解決」
にお金を払っているのです。 

プロであれば、寝る間を惜しんででも、他の案件を調整してでも(あるいは他の弁護士に土下座して手伝ってもらってでも)、期限に間に合わせるのが当然です。

3 「ファッション」か「サムライ」か

こういう極限状態での対応にこそ、その人が何のために資格を取ったのか、その本性が現れます。

あなたは、 
「ファッションアイテムとしての弁護士バッジ」 
が欲しくて、司法試験を目指したのですか? 

「先生」
と呼ばれて、チヤホヤされたいだけのアクセサリーですか?

それとも、 
「正当な権利が侵害されて苦しんでいる方を、サムライとして『法』という刀を使って救済しよう」 
という、高邁な理想と志に燃えて、その資格を手にしたのですか?

もし後者(サムライ)なら、主君(クライアント)が斬られそうになっているときに、 
「刀を研ぐのに一週間待ってください」 
などと悠長なことは言わないはずです。 

錆びた刀でも、素手でも、今すぐ割って入るのがサムライです。

4 結論

甘ったれたことを言っていないで、 
「とにかく、週明け朝一で用意すること」 
です。

徹夜でも何でもして、死ぬ気で書き上げてください。 

それができないなら、バッジを外して、ファッションモデルにでも転職することをお勧めします。

著:畑中鐵丸