「抵当権」
と
「根抵当権」。
たった一文字の違いですが、ビジネスにおける意味は天と地ほど異なります。
それは、
「1回きりの乗車券(点の関係)」
で終わらせるか、
「乗り放題の定期券(線の関係)」
を持ってズブズブの関係になるか、という経営判断そのものです。
本記事では、難解な担保契約の違いを、電車と恋愛のアナロジーで解きほぐし、銀行からの提案に隠された
「メリットと罠」
を解説します。
<事例/質問>
先生、銀行から融資の条件変更について提案があり、少し迷っています。
当社は、これまで運転資金を借りるたびに、工場の土地に
「抵当権」
を設定していました。
今回、銀行の担当者から、
「社長、毎回手続きするのも大変ですから、今後は『根抵当権』に切り替えませんか?」
と言われました。
「根」
という字がつくだけで、大した違いはないように思えるのですが、銀行員の言う通り
「手続きがラクになる」
という理由だけでハンコを押してしまって良いものでしょうか?
経営者として知っておくべきリスクがあれば教えてください。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
社長、
「根」
の一文字を甘く見てはいけません。
それは、
「一晩だけの恋」
を
「結婚(あるいは泥沼の腐れ縁)」
に変えるほど、劇的な意味の違いを含んでいます。
銀行が提案してきたその契約書は、単なる事務手続きの簡素化ではありません。
社長と銀行との関係を、
「点」
から
「線」
へとアップグレードする招待状なのです。
その本質を理解いただくために、ふたつの強烈なアナロジー(例え話)を用意しました。
1 「乗車券」と「定期券」の違い
まず、機能面での違いを、もっとも分かりやすい“電車”で説明しましょう。
これまでの
「抵当権」
は、いわば
「一回きりの乗車券」
でした。
「東京から大阪まで」
と目的地(金額)が決まっていて、到着して改札を出れば(返済すれば)、その切符は回収され、役目は終わります。
「今回はこれだけ借ります」
「返しました、はいサヨウナラ」
という、後腐れのない関係です。
対して、提案されている
「根抵当権」
は、
「定期券」
です。
「期間内なら、上限額(極度額)まで何度でも乗り降り自由」
というパスポートです。
製造業である御社は、仕入れ資金や給与支払いなど、頻繁にお金が出入りしますよね。
そのたびに、いちいち切符売り場に並んで(契約書を作って)、切符代(登記費用)を払うのは面倒くさい。
だから銀行は、
「社長、もう顔パスで乗れる定期券(根抵当権)を作りましょうよ」
と言っているのです。
2 「点」の恋か、「線」の愛か
次に、この契約が持つ
「情緒的・戦略的」
な意味合いについてです。
「乗車券(抵当権)」
による付き合いは、
「点」
の関係です。
必要な時だけ会い、用が済んだら別れる。
ドライですが、お互いに拘束されません。
一方、
「定期券(根抵当権)」
による付き合いは、
「線」
の関係です。
定期券を持っているということは、
「明日も、明後日も、この電車に乗る(取引する)」
という前提があるということです。
銀行側からすれば、
「この範囲ならいつでも貸しますよ(いつでもデートに応じますよ)」
という、御社に対する信頼と囲い込みの証(愛のカタチ)でもあります。
急に
「今日中にお金が必要!」
となったとき、定期券があれば、面倒な審査や手続きをスキップして、瞬時に資金を融通してもらえるメリットは計り知れません。
3 「乗りすぎ」と「解約の難しさ」に注意
ただし、定期券には落とし穴もあります。
1つは、
「乗りすぎ(借りすぎ)リスク」
です。
「どうせ定期があるし」
という気軽さから、気づけば毎日フル活用して、上限ギリギリまで借金が膨らんでしまうことがあります。
社長のご自宅まで担保に入っている場合は、自宅を失うリスクとも直結します。
もう1つは、
「簡単には別れられない」
ということです。
普通の乗車券なら、降りれば終わりですが、定期券は
「1回も乗らなくても(借金がゼロでも)」、
期間内は権利が残り続けます。
「もう使わないから解約したい」
と思っても、
「元本確定」
などの面倒な手続きを踏まないと、その“縁”は切れません。
結論
銀行の提案は、御社を
「一見(いちげん)さん」
から
「お得意様(パートナー)」
へと格上げしようというラブコールです。
今後もその銀行と、雨の日も風の日も付き合っていく覚悟がおありなら、その
「定期券」
は強力な武器になります。
しかし、もし
「そこまで深い付き合いはちょっと・・・」
と思うなら、都度切符を買う今のスタイルを貫くのも、1つの賢明な選択です。
ハンコを押す前に、その銀行と
「心中」
する覚悟があるか、自問してみてください。
*本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸