00258_ケーススタディ_「同業他社への転職禁止」の誓約書に震えるな! その“鎖”は実はサビついているかもしれない

「退職後2年間はライバル会社への転職禁止」。

入社時にサインさせられた誓約書のせいで、せっかくのキャリアアップの機会を諦めていませんか?

実はその誓約書、会社側が仕掛けた単なる
「ハッタリ」
かもしれません。 

本記事では、競業避止義務の法的な実態と、会社との無用なトラブルを避けつつ、したたかに転職を成功させるための
「グレーゾーンの歩き方」
について解説します。

<事例/質問>

先生、転職活動における最後の一歩が踏み出せず、ご相談です。

私は現在、外資系医療機器メーカー(仮称:株式会社アストラル・メディカル)で営業部長を務めています。 

このたび、長年のライバル企業である国内大手(仮称:株式会社サミット・ライフケア)から、好条件でのオファーを頂きました。

しかし、入社時に署名した誓約書には、 
「退職後2年間は、競業他社への就職を禁止する。違反した場合は退職金を支給せず、損害賠償を請求する」 
という、恐ろしい条項があります。

会社は
「裏切り者には容赦しない」
という体育会系の社風です。 

もしサミット社への転職がバレたら、退職金を没収されるどころか、訴えられて破産するのではないかと恐怖しています。 

やはり、このオファーは辞退すべきでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

その誓約書は、一見するとあなたを縛り付ける
「鋼鉄の鎖」
に見えるかもしれません。 

しかし、法律家の目から見れば、それは雨ざらしでボロボロにサビつき、指一本でちぎれそうな
「張り子の鎖」
である可能性が高いです。

結論から申し上げましょう。 

過度に恐れる必要はありません。 

その
「鎖」
の正体と、スマートに抜け出すための
「忍びの作法」
を伝授します。

1 その「鎖」は、裁判所では「紙切れ」になる

まず、安心していただきたいのは、裁判所というところは、基本的に
「頑張るサラリーマンの味方」
だということです。 

職業選択の自由は、憲法で保障された強力な権利です。

実際、過去の裁判例(東京高裁平成24年6月13日判決など)でも、 
「営業担当者が汗水たらして築いた人脈やノウハウを使って他社で活躍することを禁止するのは、正当な目的とは言えない」 
として、転職禁止条項を
「無効(ただの紙切れ)」
と断じ、退職金の支払いを命じたケースがあります。

会社側が振りかざしているその誓約書は、法的には
「効くかどうかわからないお札(ふだ)」
程度の意味しかありません。

2 会社も「本気で撃つ」のは怖い

会社側もバカではありません。

その誓約書が法的に微妙な代物であることは、百も承知です。

では、なぜ書かせるのか? 

それは、
「案山子(かかし)」
と同じです。 

実力行使(訴訟)をするつもりはなくても、置いておくだけで、気の弱い社員(カラス)がビビって他社に行かなくなることを期待しているのです。

もし会社があなたを訴えて、万が一にも裁判所で 
「この誓約書は無効です」 
という判決が出てしまったらどうなるでしょうか?

「あ、あの誓約書、無視していいんだ」
とバレてしまい、他の社員への抑止力まで失ってしまいます。 

会社にとって、藪をつついて蛇を出すような真似は、リスクが高すぎるのです。 

ですから、イチイチ因縁をつけてくる可能性は、あなたが思うほど高くありません。

3 「忍者」のように振る舞う

とはいえ、
「君子危うきに近寄らず」
です。

わざわざ
「俺はライバル会社に行くぞ!」
と宣言して、会社のメンツを潰す必要はありません。 

ここは、
「忍者」
の心得で、グレーゾーンを泳ぎ切るのが大人の作法です。

【作法1:証拠を残さない】
新しい職場での活動において、あなたの名前が載った提案書やメールを、前の会社の顧客にばら撒くような
「足跡」
を残してはいけません。 

あくまで
「黒子」
に徹してください。

【作法2:ドア・オープナーに徹する】 

あなたが前の会社で培った人脈を使うな、とは言いません。 

しかし、あなたが前面に出て契約を取ると、
「引き抜きだ」
「情報漏洩だ」
と騒がれるリスクがあります。

そこで、あなたは 
「ドアを開ける(紹介する)」 
だけにして、その後の具体的な商談やクロージングは、別の担当者に任せるのです。 

これなら、 
「私はただ、知人を紹介しただけです。営業活動はしていません」 
という言い訳(アリバイ)が立ちます。

4 結論

1 ちょっとは気にするふりをする(円満退社を演じる)
2 でも、縮こまる必要は全くない 
3 グレーな活動は、証拠を残さず、他人にやらせる

この
「大人の知恵」
があれば、サビついた鎖など、恐れるに足りません。

※本記事は、実際の法律相談や契約実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸