大手企業の多くが、社内に“法律に詳しい人”──弁護士資格を持つ従業員や、法学部出身のスタッフ──を多数抱えているのを、知っていますか?
特に法務やリスク管理を重視する企業では、法務部門のうち2割以上が有資格者というケースすらあるのです。
また、法学部出身者に限れば、証券会社やメーカーなどで、部門によっては7〜8割を占めることも珍しくありません。
その理由は何だと思いますか。
リスクを避けるためでも、書類をきれいに作るためでもありません。
「判断する力」
「外部の専門家を使いこなす力」
この2つの力を、社内に“持ち続ける”ためです。
そしてこの2つこそ、会社という組織が、外からの攻撃やトラブルに“のみこまれない”ために、どうしても欠かせない力なのです。
「丸投げ」は、信頼ではなく“放棄”である
たとえば、こんな場面を想像してください。
ある会社が、トラブルに直面しました。
急いで外部の弁護士に電話をかけます。
「もう手に負えない。とにかく任せたい。カネは出すから、好きにやってくれ」
一見すると、潔くて、頼り上手な姿勢にも見えるかもしれません。
けれどもこれは、“信頼”ではなく“放棄”です。
何を解決したいのか。
そのために、どんな情報を共有し、どんな判断をしていくべきなのか。
それを決めるのは、弁護士ではありません。
会社自身です。
「法律のことは専門家に聞けばいい」
「うちは顧問弁護士がいるから安心だ」
そうやって考える会社ほど、実は“考えること”を手放し、“動かす力”を外に出してしまっていることが少なくありません。
“リフォーム業者に家づくりを丸投げする”ようなもの
たとえるなら、それは“高級なリフォーム業者”に、設計図も出さずに
「全部やってくれ。イメージはお任せで」
と言っているようなものです。
最初の打ち合わせでは、ベテランが顔を出すかもしれません。
けれども、2回目以降は新人や下請けが動き出します。
表には頼れる人が顔を出しても、実際に現場で手を動かすのは、別の誰か─
このような構造は少なくありません。
結果、完成した家は、
「思っていたのと違う」
「どこにカネがかかったのか分からない」
といったものになりがちです。
同じように、弁護士に限らず、外の専門家もまた、設計と段取りがなければ、効果的に動けません。
どんなに腕が良くても、ゴールへのこちらの思いや考えがあってこそ、初めて、外の知恵やスキルが活かされ、成果につながるのです。
しかも、思うような結果が出なかったとしても、誰も責任までは取ってくれません(カネだけは取られますが・・・ね)。
アメリカ企業はなぜ、社内に弁護士を置くのか
アメリカでは、大企業であれ、スタートアップであれ、社内にロースクール経験者や弁護士資格者を“置くのが当たり前”になりつつあります。
なぜでしょう。
それは
「法律の仕事を社内で済ませるため」
ではありません。
目的はただ1つ。
「外部の弁護士と、対等に話をするため」
丸投げを防ぎ、外の専門家を“活かす”──言い換えれば、“使いこなす”ための、知恵の防波堤なのです。
弁護士に限らず、コンサルタントでも、調査会社でも、同じことが言えます。
外部の知恵は、あくまで“使いこなすもの”です。
そして、判断と責任は、どこまでいっても、社内で引き受けなければならないのです(外に委ねることはできないのです)。
だからこそ“使いこなす”のです。
「任せる」には、設計が必要だ
では、どうやって“使いこなす側”になるか。
答えはシンプルです。
・何をしたいのか
・どこをゴールにするのか
・何にどれだけお金を使うのか
・どんな順序で進めるのか
・どうやって進捗を見えるようにするのか
このような
「設計」
を、自分たちの中で考えることです。
最初は荒削りでも構いません。
社内で意見を集め、見えてきたことから順に、ミエル化し、カタチ化し、言語化し、文書化していけばいいのです。
それが、依存ではなく、自立につながります。
“動かす力”は、社内にあるべきもの
いま、ビジネスの世界には、
・正解のない判断
・スピードを求められる決断
・リスクと利益のせめぎあい
が日常的にあふれています。
そんな時代に、外部の専門家に
「任せる」
だけでは、乗り切れません。
「どう任せるか」
「なぜそれを任せるのか」
その判断ができるようになること。
つまり、“動かす力”を社内に持つことが、会社の安全保障なのです。
「困ったときは誰かが助けてくれるだろう」
ではなく、
「どうすれば助けられる形にできるか」
を考えられること。
それこそが、トラブルの波に“のみこまれない”ための、最初の一歩なのです。
著:畑中鐵丸