00219_“丸投げ”が会社を弱くする─「のみこまれない会社」になるために必要なこと

大手企業の多くが、社内に“法律に詳しい人”──弁護士資格を持つ従業員や、法学部出身のスタッフ──を多数抱えているのを、知っていますか?

特に法務やリスク管理を重視する企業では、法務部門のうち2割以上が有資格者というケースすらあるのです。

また、法学部出身者に限れば、証券会社やメーカーなどで、部門によっては7〜8割を占めることも珍しくありません。

その理由は何だと思いますか。

リスクを避けるためでも、書類をきれいに作るためでもありません。

「判断する力」
「外部の専門家を使いこなす力」
この2つの力を、社内に“持ち続ける”ためです。

そしてこの2つこそ、会社という組織が、外からの攻撃やトラブルに“のみこまれない”ために、どうしても欠かせない力なのです。

「丸投げ」は、信頼ではなく“放棄”である

たとえば、こんな場面を想像してください。

ある会社が、トラブルに直面しました。

急いで外部の弁護士に電話をかけます。

「もう手に負えない。とにかく任せたい。カネは出すから、好きにやってくれ」

一見すると、潔くて、頼り上手な姿勢にも見えるかもしれません。

けれどもこれは、“信頼”ではなく“放棄”です。

何を解決したいのか。

そのために、どんな情報を共有し、どんな判断をしていくべきなのか。

それを決めるのは、弁護士ではありません。

会社自身です。

「法律のことは専門家に聞けばいい」
「うちは顧問弁護士がいるから安心だ」
そうやって考える会社ほど、実は“考えること”を手放し、“動かす力”を外に出してしまっていることが少なくありません。

リフォーム業者に家づくりを丸投げする”ようなもの

たとえるなら、それは“高級なリフォーム業者”に、設計図も出さずに
「全部やってくれ。イメージはお任せで」
と言っているようなものです。

最初の打ち合わせでは、ベテランが顔を出すかもしれません。

けれども、2回目以降は新人や下請けが動き出します。

表には頼れる人が顔を出しても、実際に現場で手を動かすのは、別の誰か─
このような構造は少なくありません。

結果、完成した家は、
「思っていたのと違う」
「どこにカネがかかったのか分からない」
といったものになりがちです。

同じように、弁護士に限らず、外の専門家もまた、設計と段取りがなければ、効果的に動けません。

どんなに腕が良くても、ゴールへのこちらの思いや考えがあってこそ、初めて、外の知恵やスキルが活かされ、成果につながるのです。

しかも、思うような結果が出なかったとしても、誰も責任までは取ってくれません(カネだけは取られますが・・・ね)。

アメリカ企業はなぜ、社内に弁護士を置くのか

アメリカでは、大企業であれ、スタートアップであれ、社内にロースクール経験者や弁護士資格者を“置くのが当たり前”になりつつあります。

なぜでしょう。

それは
「法律の仕事を社内で済ませるため」
ではありません。

目的はただ1つ。
「外部の弁護士と、対等に話をするため」
丸投げを防ぎ、外の専門家を“活かす”──言い換えれば、“使いこなす”ための、知恵の防波堤なのです。

弁護士に限らず、コンサルタントでも、調査会社でも、同じことが言えます。

外部の知恵は、あくまで“使いこなすもの”です。

そして、判断と責任は、どこまでいっても、社内で引き受けなければならないのです(外に委ねることはできないのです)。

だからこそ“使いこなす”のです。

「任せる」には、設計が必要だ

では、どうやって“使いこなす側”になるか。

答えはシンプルです。

・何をしたいのか
・どこをゴールにするのか
・何にどれだけお金を使うのか
・どんな順序で進めるのか
・どうやって進捗を見えるようにするのか

このような
「設計」
を、自分たちの中で考えることです。

最初は荒削りでも構いません。

社内で意見を集め、見えてきたことから順に、ミエル化し、カタチ化し、言語化し、文書化していけばいいのです。

それが、依存ではなく、自立につながります。

動かす力”は、社内にあるべきもの

いま、ビジネスの世界には、
・正解のない判断
・スピードを求められる決断
・リスクと利益のせめぎあい
が日常的にあふれています。

そんな時代に、外部の専門家に
「任せる」
だけでは、乗り切れません。

「どう任せるか」
「なぜそれを任せるのか」
その判断ができるようになること。

つまり、“動かす力”を社内に持つことが、会社の安全保障なのです。

「困ったときは誰かが助けてくれるだろう」
ではなく、
「どうすれば助けられる形にできるか」
を考えられること。

それこそが、トラブルの波に“のみこまれない”ための、最初の一歩なのです。

著:畑中鐵丸