「騙されたカネを、なんとしても取り戻したい」。
怒りに燃える経営者が
「正義の鉄槌」
を下そうと息巻くのは当然の感情です。
しかし、相手がスッカラカンの詐欺師であった場合、そこから1円でも絞り出すのは、干上がった井戸で水をすくうようなものです。
本記事では、狡猾な取り込み詐欺の事案を題材に、カネのない実行犯ではなく
「カネのある舞台(会社)」
を標的とする搦め手(からめて)の交渉術と、勝算の薄い戦いにあえて
「戦費」
を投じることの究極の目的(プライドの回復)について、プロの冷徹な計算式を解説します。
<事例/質問>
先生、詐欺まがいの被害に遭い、怒りが収まりません。
戦い方をご指南ください。
当社(株式会社ルミ・インテリア)は、欧州の高級家具を輸入販売しております。
数ヶ月前、自称フリーランスのバイヤーYから、
「欧州の有名ブランドの限定買い付け枠を確保した」
と持ちかけられました。
その際、仲介者としてKいう人物も同席し、
「Yの手腕は確かだ」
と太鼓判を押しました。
商談は、業界でも名が通っている大手リゾート開発会社(以下R社)の立派な応接室で行われ、R社の役員らしき人物も顔を出したため、私はすっかり信用し、買い付け資金として多額の前渡金をYの口座に振り込んでしまいました。
しかし、待てど暮らせど家具は届かず、YとKは
「計画が頓挫した。カネはもう使ってしまって1円も無い」
と開き直って逃げ回っています。
警察に相談しても
「最初から騙すつもりだった証拠がないと、ただの債務不履行だから」
と、お決まりの
「民事不介入」
を盾に門前払いです。
憎きYとKを徹底的に追い詰めたいですし、彼らに
「信用の隠れ蓑(舞台)」
を提供したR社にも責任を取らせたいです。
どのような手段で戦えばよいでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
社長、ハメられましたね。
お怒りはごもっともです。
しかし、血に飢えた獣のように
「YとKの首を獲る!」
と息巻いても、現実はシビアです。
プロの視点から、この戦いの
「状況認識」
と、
「シナリオ(戦略)」、
そして
「払うべきコスト(戦費)」
について解説しましょう。
1 状況認識:スッカラカンの小悪党と、カネを持つ「舞台」
まず、戦場の見取り図を描きます。
・Y(実行犯):
請求する正当な理由はありますが、彼には
「カネがない」
可能性が極めて高い。
無い袖は振れません。
刑事告訴も視野に入りますが、警察の言う通り
「最初から騙すつもりだった(欺網の故意)」
を立証して受理させるのは至難の業です。
・K:
同じくカネがないでしょう。
しかも
「自分も善意で紹介しただけ」
とすっとぼけるため、法的な請求理由はYより弱くなります。
・R社(舞台):
ここが本丸です。
彼らには
「カネがある」。
しかし、彼らからすれば
「ただ場所を貸しただけで、取引には関与していない。プロの経営者たる社長が勝手に騙された過失(過失相殺)だ」
と逃げを打つでしょうから、請求理由は薄弱です。
2 外堀を埋め、R社を引きずり出す「搦め手」のシナリオ
正面からYを殴ってもホコリしか出ません。
ならば、どうするか。
「カネのあるR社を巻き込んで、泥沼の戦いに引きずり込み、和解金(解決金)を吐き出させる」
のです。
具体的には、以下のフェーズで動きます。
・フェーズ1:Yへの公式な督促
まずはYに内容証明郵便等で正式な督促を行い、
「債務不履行状態」
を客観的に確定させます。
・フェーズ2:「詐欺のシナリオ」の固定とR社への強烈な照会
Yの口座(別名義の口座等の情報入手を含む)を仮差押えしつつ、R社周辺に照会(揺さぶり)をかけます。
「Yが詐欺の実行犯であり、Kがその協力者、そしてR社がその『詐欺の舞台』として機能していた」
というシナリオを固めるのです。
さらに、
「実はR社こそが主犯であり、YたちからR社にカネが還流していたのではないか? この疑念に答えよ」
という、相手がのけぞるようなキツいボール(照会)を投げつけます。
・フェーズ3:使用者責任の追及と「提訴のタイムリミット」
R社に対し、
「詐欺の片棒を担いだ使用者責任」
として賠償を請求します。
示談交渉の期限を短く切り、
「期限までに解決できなければ、3者まとめて速やかに提訴する」
という腹づもりで臨むのです。
この強烈なプレッシャーに対し、R社が
「面倒な裁判に巻き込まれたくない」
と和解金を出してくれば、この戦術は成功(ポジティブな展開)となります。
3 「200万円のベット」で社長が買うものは何か?
さて、ここからが一番大事な話です。
この戦いには、コンサバティブ(保守的)なシナリオ、つまり
「最悪の事態」
も想定しておく必要があります。
・R社を提訴しても、法的な牽連性が認められず、カネが引き出せない。
・YとKはやっぱり一文無し。
・警察は一向に動かない。
要するに、
「大立ち回りをした挙句、1円も回収できない」
という結末です。
解決金額が全く見えないこのような事案では、我々弁護士も
「完全成功報酬」
ではお引き受けできません。
ドキュメンテーション(文書作成)やイベント(交渉・提訴)ごとのタイムチャージベースとなり、民事訴訟と刑事告訴の準備を合わせれば、当初の預り金として
「200万円前後」
の戦費(ベット)が必要になります。
社長、よく考えてください。
この200万円の戦費をベットして、得られる果実は
「不確かな期待(回収できるかもしれない)」
と、
「心情的な踏ん切り(ヤラレっぱなしではないという、社長のプライドと尊厳の回復)」
だけです。
「経済合理性(コスパ)」
だけを考えるなら、この戦いは降りて、200万円を本業に投資した方がはるかに賢明です。
しかし、
「カネの問題じゃない。自分の尊厳を回復し、ケジメをつけるために、200万円払ってでも相手の喉元に食らいつきたい」
と腹を括るのであれば、その時は私を
「社長の怒りを具現化する狂犬」
としてお使いください。
「投資」
ではなく、社長の尊厳を取り戻すための
「大人の道楽(意地の戦い)」
として、冷徹に、かつ徹底的にお供いたしましょう。
著:畑中鐵丸