「貸した金が返ってこない。しかも相手はスッカラカンだ」。
そんな絶望的な状況で、相手の胸ぐらをつかんでも、当然ながら一円も出てきません。
本記事では、無一文になった債務者(知人)を
「敵」
として訴えるのではなく、
「神輿(みこし)」
として担ぎ上げ、真の加害者(詐欺業者)から資金を回収させるという
「代理戦争」
の奇策について解説します。
その際、スポンサーとなる債権者が知っておくべき、弁護士の
「利益相反」
という見えないルールの罠と、何かを捨てる覚悟について、冷徹なロジックを交えて指南します。
<事例/質問>
先生、知人を通じた詐欺被害の件でご相談させてください。
私は中堅の貿易会社を経営しておりますが、古くからの友人から今年の9月に、
「海外の希少なヴィンテージカーを転売するビジネスに投資したいが、仕入れ資金が足りない。必ず高配当をつけるから貸してくれないか」
と頼まれました。
彼を信用し、金銭消費貸借契約を結んで、3000万円(利息別)を貸し付けました。
10月末には返済されるはずだったのですが、期日になっても返ってきませんでした。
そして先日、
「実はあの転売話は詐欺だった。自分も資金を持ち逃げされて回収できず、本当に困っている」
という連絡がありました。
彼は自分の資産をすべて失っており、弁護士を立てるカネすらありません。
私が無理に彼から回収しようと動けば、自己破産して逃げられそうな状況です。
現在、取引のある大手の民間調査会社(探偵)に依頼し、この友人と、友人が騙されたと言っている詐欺業者について、資産調査を進めています。
金額が大きいだけに、さすがに泣き寝入りしたくありません。
彼を訴えるべきか、どう動くべきか。
お恥ずかしながら、ご相談させていただきました。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
社長、お怒りとご不安はごもっともです。
しかし、スッカラカンになった友人を力いっぱい殴っても、ホコリしか出ません。
「無い袖は振れない」
相手から強引に回収しようとするのは、完全に干上がった井戸の底を掘り返して水を求めようとするようなもので、時間とエネルギーの無駄です。
ここは発想を180度転換しましょう。
知人を
「敵」
として訴えるのではなく、彼を
「味方(神輿)」
として担ぎ上げ、彼を騙した
「真の敵(詐欺業者)」
からお金をもぎ取るための
「スポンサー」
になりましょう。
1 敵の敵は味方。「代理戦争」のスポンサーになれ
彼(友人)は、社長にとっては
「不誠実で間抜けな債務者」
ですが、詐欺業者から見れば
「騙された被害者(債権者)」
です。
彼自身に詐欺業者を訴えさせて、取り戻したお金の中からあなたへの返済に充てさせる。
これが、現状考えうる唯一の現実的な回収ルートです。
しかし、彼には戦うための武器も、弁護士を雇う兵糧(カネ)もありません。
そこで、あなたが
「スポンサー」
となり、彼のために優秀な用心棒(弁護士)を雇ってあげるのです。
いわば、彼をダミーとして戦場に立たせ、その後方からあなたが戦費を支援する
「代理戦争」
の構図を作ります。
2 「利益相反」という名の絶対的な壁
ただし、この作戦を決行し、プロの弁護士を雇う上で、絶対に越えなければならない
「法律の壁」
があります。
それが
「利益相反(りえきそうはん)」
の禁止という、弁護士業界の厳格なルールです。
弁護士には、
「一度味方(代理人)になった人間の、敵に回ってはいけない」
という掟があります。
今回、私が
「友人 VS 詐欺業者」
の戦いにおいて、友人の方の代理人(味方)として相談に乗り、戦ったとします。
その後、もし詐欺業者からの回収がうまくいかなかったり、友人の態度が気に入らなかったりしたときに、社長が
「やっぱり、あいつ(友人)から直接回収する! 先生、あいつを訴えてくれ!」
と言い出しても、私はその依頼を受けることができません。
一人の弁護士が、ある時はその人の味方になり、ある時はその人を敵として訴えることは、法律上、そして弁護士の倫理上、固く禁じられているのです。
3 「友人を訴える権利」を捨てる覚悟
したがって、私がこの案件をお引き受けし、ご友人のために戦うための
「前提条件」
は、以下の2点になります。
(1)社長は、今後この友人を直接訴えるという選択肢(可能性)を完全に捨てること。
(2)友人が詐欺業者を訴えるための戦費(弁護士費用)は、社長が全額負担(スポンサー)すること。
社長の胸中からすれば、
「ふざけるな、なんで俺の金を溶かした間抜けな友人を無罪放免にして、しかもそいつの弁護士費用まで俺が出してやらなきゃならないんだ!」
と思われるかもしれません。
しかし、経営の判断とは、常に
「トレードオフ(何かを得るために何かを捨てること)」
です。
「干上がった井戸」
を叩き割っても、水は一滴も出ません。
無意味な怒りや感情を捨て、回収不能な債権を
「損切り」
し、
「詐欺業者から友人経由で回収する」
という一本の細い糸に賭ける。
この
「計算」
ができるかどうかが、経営者としての資質が問われる分水嶺です。
結論
「友人を敵として訴える道」
を断ち切り、スポンサーとして裏方に徹する。
この
「理不尽な取引」
を呑む覚悟(腹の括り方)ができましたら、まずはご相談に乗らせていただきます。
私が
「友人 VS 詐欺業者」
という構図で友人の代理人となる立て付けをご理解いただいた上で、週末にでも、その友人の方を連れて当事務所にいらしてください。
その上で、プロの戦い方と回収の可能性を、じっくりと検討いたしましょう。
著:畑中鐵丸