00275_ケーススタディ_「ハンコを押した契約書」は絶対か?_不利な戦況を覆すための「孫子」的4要素と、兵糧(カネ)という名の誠意

「不利な契約書にサインしてしまったら、もう勝ち目はないのか?」 

多くの経営者がここで諦めますが、プロの視点は違います。 

契約書はあくまで戦場の一部(地形)に過ぎません。 

本記事では、圧倒的に不利な状況からの反撃を企図する際に、揃えておくべき4つの勝利条件(天の時、地の利、人の和、兵糧)と、特に
「カネをケチる」
ことがなぜ敗北に直結するのか、その冷徹なロジックを解説します。

<事例/質問>

先生、悔しくて夜も眠れません。

私は、ある学習塾のフランチャイズ(FC)に加盟し、教室を運営しています。 

本部(仮称:アカデミック・フォース株式会社)からは、
「独自の教材と集客ノウハウがあるから、生徒数は保証する」
と口頭で言われて加盟したものの、実際には教材は市販レベル、集客サポートも皆無です。 

赤字が続き、脱退を申し入れましたが、本部は 
「契約書に基づき、残存期間のロイヤリティ全額と、違約金1000万円を払え。さもなくば競業避止義務違反で訴える」 
と強硬です。

契約書には、確かにそのようなガチガチの条項があり、ハンコも押してしまいました。 

しかし、これはあまりに暴利で不誠実です。 

一矢報いて、無傷で抜け出すことはできないでしょうか? 

正直、資金的な余裕はあまりありませんが、正義は我にあると信じています。

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

お気持ちは分かりますが、
「正義」
だけで戦争は勝てません。 

今のあなたは、竹槍で戦車に挑もうとしているようなものです。

ご相談の案件、契約書(地形)を見る限り、相手の城は堅牢です。 

しかし、城壁に
「穴」
がないわけではありません。 

そこを突いて、相手を炎上させ、撤退戦を成功させるためには、以下の
「4つの条件」
が揃うかどうかが勝負の分かれ目です。

孫子の兵法になぞらえて、現状を分析しましょう。

1 地の利(契約書):圧倒的に不利だが、穴はある

まず、戦う場所(土俵)です。 

あなたは、相手が作ったルールブック(契約書)にハンコを押してしまいました。 

これは、相手のホームグラウンドで、相手のルールで試合をするようなもので、状況は
「極めて不利」
です。

しかし、詳細に分析すれば、消費者契約法や独占禁止法(優越的地位の濫用)の観点から、契約条項の一部を無効化できる
「穴」
はいくつか見つかるでしょう。 

ここが攻撃の糸口です。

2 天の時(タイミング):日暮れ前だが、まだ間に合う

次に、タイミングです。 

ハンコを押してしまった時点で、本来は
「手遅れ」
です。 

しかし、まだ相手から訴訟を起こされたり、資産を差し押さえられたりしているわけではありません。 

今ならまだ、奇襲攻撃や、交渉による攪乱工作が間に合うレベルです。

3 人の和(協力者):一人相撲は負ける

ここが重要です。 

あなたは
「一人」
で巨大な本部と戦おうとしていませんか? 

本部内部の不満分子、同じように苦しんでいる他の加盟店オーナー、あるいは退職した元社員。 

こういった
「協力者(インサイダー)」
をどれだけ味方につけられるかが鍵です。 

内部情報や、組織的な詐欺まがいの勧誘の証拠があれば、戦況は一変します。 

一人相撲でも戦えなくはないですが、解決の可能性は著しく低下します。

4 兵糧(カネ):感謝力のない人間は必ず負ける

最後に、最もシビアな話です。 

「カネ(兵糧)」
です。

あなたは
「資金的余裕があまりない」
とおっしゃいました。 

しかし、歴史を見てもビジネスを見ても、 
「戦争で負けるのは、常に、戦費のない人間か、戦費をケチった人間」 
です。

ここでのカネとは、単なる弁護士費用だけではありません。 

協力してくれた人への謝礼、情報収集のコスト、そしてプロを動かすためのエネルギーです。 

カネをケチる人は、協力者への
「感謝」
もケチります。 

感謝力のないリーダーの下からは、
「人の和」
が崩れ去り、誰も命がけで戦ってくれなくなります。

結論

この戦いを進める上での前提条件は、以下の3点です。

• 問題認識: 
「正義があれば勝てる」
などという甘い認識を捨て、シリアスな状況(崖っぷち)であることを理解しているか。

• 予算: 
兵糧(カネ)を出せるか。
ケチらずにプロや協力者に報いることができるか。

• 協力者: 
協働できる関係者を巻き込めるか。

これらが揃わないのであれば、残念ながら
「降伏(違約金を払って撤退)」
をお勧めします。 

逆に、腹を括ってこれらを用意できるなら、相手の城壁の
「穴」
に爆薬を仕掛けに行くことはできます。

著:畑中鐵丸