「契約書は完璧だから、あとは現場でうまくやっておいて」。
経営者や法務担当者が陥りがちなこの油断が、多くのプロジェクトを
「炎上」
させてきました。
契約書はあくまで
「地図」
に過ぎず、実際の航海には
「羅針盤」
と
「操舵手」
が必要です。
本記事では、外部業者との交渉案件を題材に、なぜ
「弁護士によるプロセス管理(コントロール)」
を外すとトラブルが起きるのか、その経験則に基づいたメカニズムを解説します。
<事例/質問>
先生、至急の判断をお願いします。
現在進行中のシグマ・オーシャン・デザイン(仮称)様のプロジェクトにおいて、外注先候補である制作会社との交渉が大詰めを迎えています。
先方への発注にあたり、我々が代理店として間に入る形だけでなく、条件によってはシグマ社様の名義で直接活動したほうが、相手へのインパクトも強く、良い結果(コストダウンや納期短縮)につながる可能性があります。
つきましては、シグマ様の名義を使って交渉を進めてもよろしいでしょうか?
法的なリスクや、先生のコメントをいただけますと幸いです。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
結論から申し上げます。
「リスクは感じませんので、どんどん進めてください。ただし、『私の目の届く範囲』でやるならば、という条件付きです」
ご質問の
「名義をどうするか」
という点は、戦術論に過ぎません。
より重要なのは、その戦術を誰が指揮し、誰が監視するかという
「ガバナンス(統治)」
の問題です。
契約書などの形式は整っているようですが、それだけで安心するのは、
「海図を持っているから、船長が寝ていても船は目的地に着く」
と考えるようなものです。
以下の2つの条件を
「絶対のルール」
として設定してください。
1 「経由」と「共有」の鉄則
• 私の運営会社(または当事務所)経由にする:
交渉の窓口や連絡ルートの中に、必ず私の運営会社(または当事務所)を介在させてください。
• 状況を共有する:
「今、何が起きているか」をリアルタイムで私に見えるようにしてください。
なぜ、そこまで
「コントロール」
にこだわるのか。
それは、契約書というものが
「静止画」
に過ぎないからです。
実際のビジネスは
「動画」
です。
現場の空気、相手の反応、微妙なニュアンスの変化。
これらをリアルタイムで把握し、微修正(チューニング)し続ける機能がないと、どんなに立派な契約書があっても、絵に描いた餅になります。
2 「コントロール不在」が招く必然の悲劇
これは私の長年の経験則ですが、断言しておきます。
「私がコントロールしないところは、大概トラブルになっており、関係者全員がイヤな目に遭う」
これは呪いでも予言でもなく、単なる
「事実」
です。
弁護士が関与せず、現場のノリと勢いだけで進んだ案件は、
「言った言わないの泥仕合」
「契約範囲の拡大解釈」
「なし崩し的な追加請求」
といった、典型的な落とし穴に必ずと言っていいほどハマります。
私が
「経由しろ」
「共有しろ」
と言うのは、権力を誇示したいからではありません。
皆様が
「イヤな目に遭わない」
ための、最強の安全装置(セーフティネット)なのです。
結論
名義など、どちらでも構いません。
重要なのは、
「プロの監視下にあるか、野放しか」
というただ一点です。
「弁護士にいちいち報告するのは面倒だ」
と思うかもしれません。
しかし、その
「面倒」
こそが、後で訪れる
「破滅的な面倒(訴訟や損害賠償)」
を防ぐ唯一のワクチンなのです。
どうぞ、私を使い倒して、安全に航海を進めてください。
著:畑中鐵丸