00271_ケーススタディ_弁護士は「メーター制のタクシー」か「定額制のツアー」か?_紛争解決における“委任プラン”の選び方とコストの罠

弁護士に仕事を頼むとき、
「やった分だけ払う」
のと、
「結果が出るまでコミコミで払う」
のと、どちらが得かご存じですか? 

これは単なる節約の話ではありません。

「プロセスのリスク」
をどちらが負担するかという、高度な経営判断です。 

本記事では、ネット上の誹謗中傷対策を題材に、弁護士費用の
「アラカルト方式」

「コース料理方式」
の違いをタクシー料金に例えて解説し、自社に有利な契約プランの選び方を伝授します。

<事例/質問>

先生、見積もりの選択で迷っております。

当社は、ある匿名掲示板サイト(仮称:ブラック企業ナビ)に、事実無根の悪評を書かれ、採用活動に支障が出ております。 

そこで、先生の事務所に記事削除と損害賠償請求をお願いしようとしているのですが、ご提示いただいた2つのプランのどちらを選べばよいか、判断がつきません。

1)アラカルト方式(都度払い) 内容証明郵便の作成1通〇万円、示談交渉への出頭1回〇万円……といった具合に、作業が発生するたびに個別に費用が発生するプラン。

2)パッケージ方式(着手金・報酬金制) 「記事削除と賠償金獲得」というゴールまでの交渉プロセス全体を丸ごと委任するプラン。最初にまとまった着手金を払い、成功したら報酬金を払う。

総務部長は
「1のほうが、相手がすぐ消してくれたら安く済む」
と言い、社長は
「2のほうが、予算が確定して安心だ」
と言います。 

プロの視点から見て、どちらが
「賢い選択」
なのでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

それは、御社が
「道路状況(相手の出方)」
をどう予測するかによります。

弁護士費用を
「タクシー料金」
に例えてみましょう。

• プラン1(アラカルト方式)は、「メーター制」です。 

道が空いていて(相手が素直で)、あっという間に目的地(解決)に着けば、料金は驚くほど安く済みます。 
しかし、大渋滞に巻き込まれたり(相手がゴネて長期化したり)、道に迷ったり(複雑な反論が来たり)すれば、メーターはカチャカチャ上がり続け、最終的にはとんでもない金額になります。

• プラン2(パッケージ方式)は、「空港定額運賃」です。 
どんなに渋滞しようが、道が悪かろうが、料金は変わりません。
リスク(手間の増加)は運転手(弁護士)が負います。 
ただし、走り出して5分で目的地に着いてしまっても、定額料金は返ってきません。
「高い買い物だったな」と思うことになります。

さて、今回の相手(ブラック企業ナビ)は、素直に道を空けてくれる相手でしょうか?

それとも、泥沼の渋滞を引き起こす厄介者でしょうか?

ここには、法務担当者が知っておくべき
「2つの視点」
があります。

1 「作業(プロセス)」を買うか、「結果(ゴール)」を買うか

プラン1は、
「事務処理」
への対価です。 

「郵便を出してくれ」
「書面を書いてくれ」
という個別の作業に対してお金を払います。 

結果が出るかどうかは関係ありません。

極端な話、100通手紙を出して1記事も消えなくても、100通分の費用は発生します。 

「とりあえず、会社として『抗議した』という事実(アリバイ)が欲しいだけ」
なら、こちらが安上がりで合理的です。

プラン2は、
「解決(ゴール)」
への対価です。 

「記事を消す」
「金を分捕る」
という結果に対してコミットさせます。 

弁護士は、手紙を1通書こうが100通書こうが、着手金は同じです。

だから弁護士は必死になります(早く終わらせた方が時給換算で得だからです)。 

「絶対に削除させたい」
という強い意志があるなら、こちらの方が弁護士の尻を叩きやすいでしょう。

2 リスクの所在をどこに置くか

今回の相手(情報サイト運営者)は、実態が不明確だったり、のらりくらりと逃げ回るタイプの業者である可能性もあります。

となると、プラン1(都度払い)では、
「内容証明を送ったが無視された」
「再通知を送った」
「電話交渉をした」
と、ズルズルと課金ポイントが増えていく恐れがあります。

 いわゆる
「課金地獄」
です。

私ならどうするか。 

相手が
「話の通じない相手」

「悪質な業者」
であればあるほど、プラン2(パッケージ方式)をお勧めします。 

なぜなら、泥沼の交渉になったとき、追加費用を気にせず
「徹底的にやってくれ」
と弁護士に命令できるからです。

逆に、相手が
「話せばわかる普通の会社」
で、単なる誤解で揉めているだけなら、プラン1でサクッと終わらせるのが賢い経営判断です。

結論

「相手が手強いか、弱いか」 
この見極めこそが、コストパフォーマンスを決める分水嶺です。

もし見極めがつかないなら、プラン2(パッケージ)にして、
「面倒なことは全部プロに丸投げして、固定料金で安心を買う」 
というのも、立派な経営判断(保険)です。

「安物買いの銭失い」
になるか、
「定額制の安心」
を取るか。 

相手の顔を思い浮かべて決めてください。

著:畑中鐵丸