00265_ケーススタディ_「契約書が返ってこない」は“宣戦布告”である_担当者のミスを社長の土下座に変える「人質外交」の極意

「忙しくて契約書の返送を忘れていました」。 

現場担当者のこの軽い一言が、企業の命運を揺るがす
「地雷」
になることをご存知でしょうか? 

本記事では、専門家派遣における契約書未回収トラブルを題材に、契約書を軽んじることがいかに
「相手への侮辱」
となるか、そして相手がその
「非礼」
に対して
「人質(派遣した専門家)」
を使って反撃に出た際、経営トップがいかにしてその火を消し止めるべきか、その修羅場の作法を解説します。

<事例/質問>

先生、堪忍袋の緒が切れそうです。

当社(仮称:ベータ・セキュリティ・ソリューションズ)は、企業のサイバーセキュリティ対策を行う専門家を派遣する事業を行っております。 

このたび、中堅商社である
「ベータ商事(仮称)」
の社長から直々の強い要請があり、当社のエース級エンジニアであるX氏を、特急で派遣しました。

ところが、業務開始から1週間以上経っても、ベータ商事から契約書が返送されてきません。 

担当者のA氏に督促しても、 
「すみません、私のミスでして」 
「すぐにやります」 
と、のらりくらりと言い訳をするばかりで、一向にハンコが押された書類が届かないのです。

X氏はすでに現場で働いています。

契約書がない状態で働かせるのは、当社としては非常に不安ですし、何より、無理を言って派遣したX氏に対しても失礼です。 

また、このA氏という担当者は、電話で謝るだけで済ませようとしており、事の重大さを理解していないように見えます。

我々としては、ベータ商事の社長宛に、 
「これ以上ナメた態度をとるなら、X氏だけでなく、御社に派遣している他の専門家も全員引き揚げるぞ」 
という最後通牒(抗議文)を送りつけようと思います。 

少し過激でしょうか?

また、もし相手の社長から反応があった場合、どう手打ちにすべきでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

結論から申し上げます。 

「その抗議文は、即刻送りつけるべきです。そして、相手の社長が“裸足で”飛んでくるのを待ちましょう」

ご質問のケースは、単なる事務ミスではありません。 

ビジネスにおける 
「リスペクト(敬意)の欠如」 
という、最も感情を逆撫でするトラブルです。

ここには、2つの重要な教訓が含まれています。

1 契約書は「紙」ではなく「人質」である

まず、ベータ商事の担当者A氏は、契約書を
「ただの事務書類」
だと思っています。 
だから、
「忙しいから後でいいや」
「忘れてた、テヘペロ」
で済むと思っているのです。

しかし、プロフェッショナルを派遣する御社にとって、契約書は 
「大切な社員(X氏)を敵地に送り込むための命綱」 
です。 命綱もつけずに
「働け」
というのは、X氏を危険に晒す行為です。

ここで御社が取るべき戦術は、 
「人質外交」 
です。 

相手は、X氏のスキルを喉から手が出るほど欲しがっていたはずです。 

そして、すでにX氏は現場に入り込み、ベータ商事の業務にとって
「なくてはならない存在(人質)」
になっています。

ここで、 
「契約書という命綱をよこさないなら、人質(X氏や他の専門家)を全員撤収させる」 
と通告するのです。 

これは、相手の急所(ビジネスの継続性)を握り潰す、最強の交渉カードです。 

担当者レベルで話が通じないなら、社長をリングに引きずり出すのが正解です。

2 「火消し」はスピードと過剰なまでの低姿勢で

さて、ここからは、もしあなたが
「抗議文を受け取ったベータ商事の社長」
だった場合の視点です。 

もし、取引先から 
「お宅の担当者が契約書を返さないから、全員引き揚げるぞ」 
と激怒されたら、どうすべきか。

言い訳をしてはいけません。 

「担当者が病気で」
とか
「社内手続きが」
などと言った瞬間、ガソリンを注ぐことになります。

正解は、以下の
「3ステップ土下座」
です。

• ステップ1:秒速で反応する 
携帯電話だろうがメールだろうが、連絡を受けた瞬間に「私が悪うございました」と全面降伏します。
「今、確認しました」というリアリティが大事です。

• ステップ2:物理的解決を即座に行う 
「今すぐFAXしました」「原本は明日の朝イチで届くようにバイク便を手配しました」と、物理的に契約書を届けます。
これで「実害」を消します。

• ステップ3:身体を差し出す 
「今からお詫びに伺います」と、社長自らが敵地に乗り込む姿勢を見せます。

今回の事例にある社長の対応は、まさにこの満点回答です。 

「携帯が繋がらずメールにて失礼します」
と前置きしつつ、全面的に非を認め、FAXを送り、明日の原本到着を確約し、さらに
「今から行きます」
と申し出る。

ここまで
「過剰に」
やられてしまうと、怒り狂っていた側も、 
「ま、まあ、社長がそこまで言うなら・・・」 
と、拳を下ろさざるを得なくなります。

結論

ビジネスにおいて、ルーズな担当者は組織のガンです。 

しかし、そのガンが発見されたとき、トップがどう振る舞うかで、その会社の
「生存能力」
が決まります。

御社は、堂々と
「人質」
を盾に抗議してください。 

そして、もし相手の社長が
「今から行きます!」
と飛んできたら、その時は、 
「雨降って地固まる」 
として、改めて恩を売ってあげてください。 

それが、大人の喧嘩の作法というものです。

著:畑中鐵丸