00261_ケーススタディ_「名目」という名の皮を捨て、「実利」という果実を喰らう_離婚条件闘争における“トータル・パッケージ”の魔術

交渉において、
「相場」


という壁にぶつかり、膠着状態に陥ることはありませんか? 

特に、離婚における養育費や、ビジネスにおける損害賠償など、公的な
「算定表」

「相場」
が存在する場合、正面突破は困難です。 

しかし、プロの交渉人は、数字の
「ラベル(名目)」
を巧みに貼り替えることで、相手を納得させつつ、トータルの実利を最大化します。 

本記事では、離婚協議の現場を舞台に、
「名目」
を捨てて
「実利」
を取る、トータル・パッケージ交渉術の極意を解説します。

<事例/質問>

先生、離婚協議の戦略についてご相談です。

私は現在、夫(会社経営者)との離婚協議を進めています。 

夫は離婚自体には同意していますが、金銭条件、特に
「養育費」
について激しく対立しています。

夫は、 
「裁判所の『養育費算定表』によれば、俺の年収なら月額〇万円が相場だ。それ以上は1円たりとも払わない」 
と、頑として譲りません。

しかし、夫の年収やこれまでの生活レベル、そして子供(私立に通っています)の教育費を考えると、算定表の金額では到底足りません。 

私が
「実情を見てほしい」
と訴えても、夫は
「基準通りにするのが公平だ」
の一点張りで、話が平行線です。

夫にはそれなりの資産(預金や不動産)がありますが、養育費の月額に固執するあまり、話が進みません。 

この
「算定表の壁」
を突破して、子供のために少しでも有利な条件を引き出すには、どうすればよいでしょうか?

<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>

交渉において、 
「堅牢な城門(算定表の基準)」 
を、素手で殴り続けても、拳が砕けるだけです。

ご主人のおっしゃる
「裁判所の基準(算定表)」
というのは、実務上、非常に強力なものです。 

裁判所に行けば、十中八九、その基準に近い数字で決着してしまいます。 

つまり、この土俵で
「月額を上げろ」
と戦うのは、 
「重力が支配する場所で、空を飛びたいと願う」 
ようなもので、極めて分が悪い戦いです。

しかし、嘆く必要はありません。 

交渉のプロフェッショナルから見れば、 
「月額(フロー)」 
で勝てないなら、 
「総額(ストック)」 
や 
「条件(ターム)」 
で勝てばいいだけの話です。

お金には色はついていませんし、 
「養育費」
という名前の1万円札も、 
「財産分与」
という名前の1万円札も、 価値は同じです。

視点を変えましょう。 

「名目」
という名の皮を相手に与え、
「実利」
という名の果実をこちらがいただくのです。

1 「全体としていくらもらうか」というトータル・パッケージ思考

まず、 
「月額いくらか」 
という一点突破の思考を捨ててください。 

考えるべきは、 
「離婚に伴う清算として、トータルでいくら財布に入れるか」 
です。

離婚にまつわるお金には、主に以下の3つのポケットがあります。

• A:養育費(月額・未来の分割払い)

• B:財産分与(一括・過去の清算)

• C:慰謝料(一括・精神的苦痛の対価)

ご主人は
「A(養育費)」
の基準にこだわっています。 

ならば、Aについては、 
「わかりました。あなたの言う通り、基準に従いましょう」 
と、負けたふりをして譲歩するのです。

その代わり、 
「その分、これまでの私の内助の功や、離婚による精神的苦痛の清算として、B(財産分与)やC(慰謝料)の色を付けてください」 
と、別のポケットから回収するのです。

ご主人としては、 
「自分が主張した基準(A)が通った」 
という満足感(メンツ)が得られます。 

こちらは、名目はどうあれ、 
「手元に入る現金が増える」 
という実利が得られます。 

2 「期間」と「特約」という隠れたレバレッジ

次に、金額だけでなく、
 「時間軸」 
を操作するテクニックです。

もし、月額の数字が動かせないなら、 
「支払う期間」 
を延ばせばいいのです。

例えば、通常は
「20歳まで」
のところを、 
「大学卒業(22歳)まで」 
とするだけで、支払総額は2年分(24ヶ月分)増えます。 

月額5万円なら、120万円の増額と同じ効果です。

また、 
「学校にまつわる費用(入学金や授業料)は別途負担する」 
という特約を入れるのも手です。 

これは、見かけ上の月額養育費は低く抑えつつ、実質的な負担をご主人にさせる、極めて合理的な 
「実利取り」 
の手法です。

「月々の支払いは安く済んだ」 
とご主人を安心させておきながら、将来発生する巨額のキャッシュアウト(学費)を約束させる。 

これは、まさに 
「朝三暮四」 
の故事を逆手に取った、賢い交渉術です。

3 「妥協」を「武器」に変える

この戦術の肝は、
「私はここで妥協しましたよ」 
というポーズを最大限に見せつけることです。

「養育費については、あなたの言う基準を受け入れました。私は泣く泣く譲歩しました。だから、財産分与のこの部分については、私の要望を飲んでください」
と迫るのです。 

交渉において、 
「一方的な勝利」 
は恨みを買いますが、 
「痛み分け(に見える取引)」 
は合意を生みます。

4 結論

「養育費」
というラベルにこだわる必要はありません。 

相手がこだわる
「基準」
は守らせてあげて、その分、 
「財産分与」
 や
 「解決金」 
といった、基準が曖昧で調整しやすい項目で、ガッツリと実利を回収してください。

相手には
 「勝ったつもり」 
になってもらい、こちらは 
「実質的な果実」 
を懐に入れる。 

これが、大人の交渉における、最も洗練された 
「勝利の方程式」 
です。

※本記事は、実際の法律相談や交渉実務を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。 
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。 
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

著:畑中鐵丸