ある取引と別の取引を同時に行う際、相手方から
「契約日を同じにしてほしい」
「解約条項を外してほしい」
と要望されることがあります。
ビジネスの実態としては
「セット」
だから当然だ、と安易に応諾するのは危険です。
本記事では、金融取引とコンサルティング契約の
「抱き合わせ」
を例に、契約日を意図的にずらすことで
「別の取引」
という法的建前(アリバイ)を作り、法規制(利息制限法や出資法)の網を潜り抜けるための、法務担当者が知っておくべき
「大人の知恵」
を解説します。
<事例/質問>
先生、至急ご意見をいただきたい案件がございます。
当社(仮称:シリウス・キャピタル)は、今回、取引先である建設会社(仮称:タイタン建設)に対し、運転資金として5億円を貸し付けることになりました。
これと並行して、当社の関連会社(仮称:ベガ・マネジメント)が、タイタン建設に対して経営コンサルティングを行う契約も締結する予定です。
実質的には、融資の条件としてコンサル契約を結んでもらう
「セット案件」
なのですが、タイタン建設側から以下の修正要望が来ました。
1 コンサル契約の「中途解約条項」を削除すること
2 コンサル契約の契約日を、融資実行日と同じ「2月20日」にすること
先方の言い分としては、
「融資とコンサルは一体の取引なのだから、日付を合わせるのは当然だし、融資期間中はコンサルも解約できないようにして、お互いの拘束力を高めたい」
とのことです。
私としても、ビジネスの実態に即したもっともな要求だと思いますので、応諾しようと思います。 法的に問題ないでしょうか?
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
「李下に冠を正さず」
という言葉がありますが、ビジネスの契約、特にお金が絡む取引においては、
「疑われるような外観を作らない」
ことが、身を守るための鉄則です。
今回のご相談、結論から申し上げますと、先方の要望を丸呑みするのは、
「飛んで火に入る夏の虫」
になりかねない、非常に危険な行為です。
なぜ、
「契約日を同じにする」
「解約できないようにする」
ことがマズいのか。
その背後にある、金融規制という名の
「地雷」
について解説しましょう。
1 「セット」に見えることの致命的リスク
あなたが仰る通り、ビジネスの実態としては、この融資とコンサル契約は
「セット」
なのでしょう。
しかし、それを契約書という
「証拠」
の上で、あからさまに認めてしまってはいけません。
もし、
「融資契約」
と
「コンサル契約」
が、
「同日」
に締結され、 かつ、
「解約できない(融資期間中はコンサル料を払い続けなければならない)」
となっていたら、どう見えるでしょうか?
税務署や、あるいは万が一紛争になった際の裁判所は、こう判断します。
「これは、別々の契約ではない。コンサル料という名目はダミーで、実質的には『貸付の利息』をピンハネしているだけだ」
と。
これを
「みなし利息」
といいます。
もし、本来の貸付金利と、コンサル料を合算した金額が、利息制限法や出資法の上限金利を超えてしまった場合、御社は
「高利貸し」
「闇金」
の汚名を着せられ、契約は無効、最悪の場合は刑事罰の対象になります。
2 「1日」が作る「他人の関係」
そこで、私が提案する魔法の杖が、
「日付をずらす」
というテクニックです。
融資契約が2月20日なら、コンサル契約は2月21日、あるいは1週間後にするのです。
たった1日の違いですが、法的には天と地ほどの差が生まれます。
日付が違えば、
「融資は融資で合意しました」
「その後、たまたま、別途コンサルティングのニーズがあったので、別の日に合意しました」
という、
「別々の取引である」
という
「建前(アリバイ)」
を主張する余地が生まれるのです。
同じ日に生まれ、運命を共にする(解約不可)のが
「双子」
だとすれば、日付をずらすことで、彼らを
「たまたま同じ電車に乗り合わせた他人」
に見せかけるのです。
3 「経営判断」という名の逃げ道
もちろん、日付をずらしたからといって、100%安全というわけではありません。
実態が伴っていなければ、脱法行為とみなされるリスクは残ります。
しかし、法務担当者として、
「みすみす『セット商品です』と自白するような証拠(同日付け契約書)」
を残すことは避けるべきです。
私からのアドバイスとしては、
「日付はずらした方がいい」
と申し上げます。
ただし、先方がどうしても
「同日でないとハンコを押さない」
と言い張り、御社が
「リスクを承知で、どうしてもこの融資を実行したい」
と考えるのであれば、それはもはや法律論ではなく、
「経営判断」
の領域です。
リスクを取って利益(コンサル料)を取りに行くか、安全を取って形式を整えるか。
最後は、社長(経営者)が腹を括って決めることです。
法務担当者としては、
「日付を合わせると、『みなし利息』のリスクが跳ね上がりますよ。それでもやりますか?」
と、耳の痛いことを涼しい顔で警告し、ボールを経営者に投げ返すのが、正しいお作法です。
※本記事は、実際の法律相談や裁判事例を参考にしつつ、プライバシー保護の観点から事実関係に大幅な加工・修正を加えたフィクション(架空の事例)です。
記事の内容は、一般的な法解釈や交渉・実務上のポイントを解説するものであり、個別の事案における具体的解決や法的効果を保証するものではありません。
ご自身の抱える法的トラブルについては、具体的な事情により法的判断が異なりますので、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
著:畑中鐵丸