怪しい取引相手の正体を突き止めたいとき、いきなり高額な調査費用をかけるのは得策ではありません。
相手が許認可事業(古物商、建設業、宅建業、探偵業など)を行っている場合、行政機関への
「情報開示請求」
という手段を使えば、驚くほど低コストで内部情報を入手できる可能性があります。
本記事では、実例をもとに、最小のコストで最大の情報を引き出すための
「調査の順序」
と
「公的制度の活用法」
について解説します。
<事例/質問>
先生、先日ご相談した、ヴィンテージ時計の輸入転売業者(仮称:港区プレステージ・トレーディング)とのトラブルの件です。
「海外の希少な時計を確保した」
と言われて手付金を払ったものの、商品は届かず、返金ものらりくらりとかわされています。
ホームページは立派なのですが、代表者の氏名もフルネームではなく、所在もバーチャルオフィスのようで、実態がつかめません。
「古物商許可証番号」
はサイトに載っているのですが、これが本物かどうかも怪しいものです。
相手の正体を突き止め、法的措置を取るための準備をしたいのですが、調査には興信所などを使って何十万円もかけなければならないのでしょうか?
手付金を取り戻すためにさらに大金を投じるのは、正直気が引けます。
<弁護士畑中鐵丸の回答・アドバイス・指南>
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」
と申しますが、敵を知るために、こちらの兵糧(資金)を使い果たしてしまっては、戦う前に干上がってしまいます。
ご安心ください。
興信所という
「高額なスパイ」
を雇う前に、我々には、
「駄菓子屋の飴玉程度の金額(数十円)」
で、相手の懐(ふところ)事情や素性を覗き見ることができる、国家公認の
「調査スキーム」
が用意されています。
今回のケースで言えば、相手が
「古物商」
を名乗っている点が急所です。
古物商であれ、探偵業であれ、風俗営業であれ、警察の許認可や届出が必要な業種については、警察署の奥深くに、彼らが自ら提出した
「履歴書(届出書類)」
が眠っているのです。
今回の調査方針と、その驚くべきコストパフォーマンスについて解説しましょう。
1 「リスト」は単なる「電話帳」に過ぎない
まず、手始めに警視庁の文書課に行って、古物商の届出業者リストを閲覧してきました。
結果、件の業者は、
「港区プレステージ・トレーディング」
ではなく、
「港区プレステージ商会」
という微妙に異なる名称で届出が出ていることが確認できました。
しかし、このリスト閲覧だけでは、勝利には程遠いのです。
なぜなら、そこには
「屋号」
「住所」
「電話番号」
といった、ホームページを見れば分かる程度の
「表札」
の情報しか載っていないからです。
これでは、相手が
「どんな顔をした(代表者氏名)」、
「どんな素性の(役員構成や住所)」人間なのか、
という
「化けの皮」
までは剥がせません。
2 「20円」で撃てるミサイル(情報開示請求)
そこで、次の一手です。
警視庁に対して、
「この業者が営業開始時に提出した『届出書』の写しを見せろ」
という、情報開示請求を行いました。
これが、今回ご紹介する
「業者の履歴書」
を入手する裏技であり、コストパフォーマンス最強の武器です。
この手続きにかかる費用をご存知でしょうか?
申請そのものは無料です。
コピー代は、1枚20円程度(カラーの場合。白黒なら10円)。
なんと、合計しても缶コーヒー1本分にも満たない金額です。
この金額で、相手が警察におそるおそる提出した、代表者の本名、住所、役員の氏名などが記載された書類を入手できる可能性があるのです。
これを活用しない手はありません。
3 「黒塗り(ノリ弁)」なら、伝家の宝刀を抜く
もちろん、警察も個人情報保護を盾に、肝心な部分を黒く塗りつぶしてくる(いわゆる「ノリ弁」状態で開示する)ことがあります。
あるいは、
「不開示(見せない)」
というケチな決定をするかもしれません。
審査には2週間程度かかりますが、まずはこの
「20円のミサイル」
の結果を待ちましょう。
もし、開示された書類が真っ黒だったり、不開示だったりした場合。 その時初めて、我々弁護士だけが使える伝家の宝刀、
「弁護士会照会(23条照会)」
という、少しコストのかかる
「重火器」
を持ち出せばよいのです。
最初から高い武器を使う必要はありません。
まずは、行政が用意してくれている格安の制度を骨までしゃぶり尽くして、相手の情報を合法的に、かつ安価に引き抜く。
それが、
「賢い被害者」
の戦い方であり、
「無駄な出費を抑えて、回収率を高める」
ための鉄則です。
まずは2週間、果報を寝て待ちましょう。
※本記事は、架空の事例をもとにした一般的な法解説であり、特定の個人や団体、事件を指すものではありません。
個別の事案における法的判断や解決策については、具体的な事情により異なりますので、必ず弁護士にご相談ください。
著:畑中鐵丸